10月から消費増税となった。前回の消費増税時にも消費が落ち込み冷え込んだ。軽減税率はあるものの、今回も消費の低迷は避けられないだろう。
先日、某テレビの報道番組のロケで、街頭インタビューを実施した。「食品はイートインスペースで食べたら10%で、持ち帰ったら8%と知っていましたか?」――若い女性が中心だったからか、ほとんど理解されていなかった。しかし、興味深かったのは、「それなら持ち帰ります」と続いたことだ。
面白いことに、街頭インタビューでは自身の月額外食費を把握している人がいなかった。「家計調査」によれば、2人以上の世帯ではざっくり1万5000円。概算では、消費税2%のアップは、月に300円の負担増となる。「そのアイスクリームを食べるのをやめたら、普段通り外食しても大丈夫ですよ」と伝えた。
しかし、私がもっと興味深いと感じたのは、その2%の価格アップであっても、外食を控えることだ。実際の負担増は分からなくても、イメージで買い控えが起こる。
消費増税を受けた各社の対応は?
消費増税に伴って、各社はさまざまな反応をした。マクドナルドは持ち帰りも店内飲食もおなじ金額に統一すると発表した。さらに税込価格は10円単位を継続するとした。消費税を全額、マクドナルドが負担するわけにはいかないので、一部の商品は値上げしつつも、セット商品やドリンクなどの一部を実質値下げして消費者に負担感を抱かせない戦略だ。
松屋も一部メニューの価格改定は検討としながらも、主力商品である「プレミアム牛めし」「牛めし」は価格を据え置いた。すき家、ケンタッキー・フライド・チキン、サイゼリヤは、持ち帰りと店内価格を統一する。天丼てんやも、主力商品の価格を据え置いた。
しかし、このような対応をするケースばかりではない。スターバックスは原則通り、8%と10%を分ける。タリーズもそうだ。
このように、消費増税の際は各社の値付けが注目される。ライバル会社と最も差異をアピールできるチャンスだからだ。飲食チェーンではないが、H&Mは早い段階で、消費増税分を自己負担し価格を変えないと宣言した。
では、そもそも価格はどのように決まるのか。そして、成功・失敗する値付けとはどのようなものだろうか。消費増税をきっかけにして考えてみたい。
価格はどうやって決まるのか
通常、何人からアンケートをとれば、それが「日本人の総意」といえるだろか。「いくらなら買いますか」「いくらなら買いませんか」「いくらなら検討しますか」――もちろん、精度や誤差をどこまで許容できるかによる。ただ、通常なら、1500人からアンケートをとれば、統計上、それなりの精度があるとされる。
私はコンサルタントとして、いろいろな企業と関わりがある。先ほど述べた1500人へのアンケートは、実際には「あくまで参考値」として使われている。担当者がアンケートを元に新商品の価格を立案しても、アンケートで「買う」と回答した金額で本当に買ってくれるかは分からない。もっといえば、買ってくれないことが多い。
担当者が1200円の売価を社内で提案しても、企業のトップが「いや、インパクトを与えるために1000円を切りたい」と直感的な決断を下す場合がある。だから、計算式が明確にあるというよりも、さまざまなファクターを組み合わせているというのが現実的なところだ。
さらに、中小企業では何の検討も行われず、「ノリ」で値付けが行われる場合が大半だろう。ただ、そういった場合は除くとして、一般的な価格決定のアプローチは次の通りだ。
代表的な価格決定のアプローチ
(1): 原価積立法
町工場を想像してほしい。金属の加工部品があるとする。図面通りに生産すると、材料はいくらで、労務費がいくらで、金型費がいくらで、設備の減価償却費がいくらで……と加算していって、最後に妥当な粗利益を加算して、価格を決める。読者が製造業で企業間取引の調達業務などに従業していたら、たぶんご理解いただけると思う。これはメーカーの下請け企業などが採用する方法だ。
(2): 市場価格類推法
原価は100円でも、世の中に1万円で買ってくれる人がいたら、1万円で売ってもいいはずだ。そこで、類似品の価格を調べたり、私が例に出したようにアンケート調査をしたり、これまでの実績を調べたりして、価格を決定するものだ。類似品の場合は、違いを分析し、いくらだったら売れるかを考える。
類似商品がなかった場合も、インターネット調査をしたり、オークションサイトに出品してみたりすれば、どれくらいの価格なら需要があるかが分かる。
ただし、繰り返しになるが、アンケート調査であれば、「この価格だったら買う」という回答があっても、実際には買ってくれない場合があるので、販売テストなどを行う必要がある。ここ数年で知られるようになった単語に「A/Bテスト」や「スプリットラン」があるが、これは異なる価格で売ってみて、消費者の反応を見るものだ。
残りのアプローチは?
(3): 政策決定法
まったくの赤字でも、わざと安く決めるケースを指す。例えば、牛丼チェーンの「並牛丼」や、ハンバーガーショップの「チーズバーガー」といったように、代表的な商品を値上げしてしまうと、全体のイメージが悪くなり、客足が遠のいてしまうケースがある。
その場合は、消費税が上がったり、原材料費が上がったり、あるいは市場価格が上がったりしても、あえて価格を据え置く。むしろ値下げすることもある。また、ライバル会社をぎゃふんといわせるために、赤字で販売して、市場から撤退させる狙いをもつ場合もある。
あるいは、とにかく商品の販売シェアを拡大する時期だと判断し、値下げすることもある。逆に、松竹梅の弁当があったとして、「松」の弁当を思い切り高くすることも考えられる。「竹」を最も売りたい場合には、「松」を値上げすることで、割安感があるように思わせるのだ。
(4): 正味現在価値法
例えば、あなたが飼っているペットがいるとする。天災が起こって、あなたが飼っているペット以外は絶滅してしまった。そんなとき、動物園にあなたのペットを販売する場合を考えよう。原価といってもエサ代だけじゃない気もするし、類似商品もない。さらに、特殊すぎて「政策」の持ちようもない。
そんなとき、そのペットを買い取ることで、動物園に将来、どのような価値が生じるかを考える。そのペットがあと10年は生きるとして、そのペットを見るために世界中から年間100万人くらいは集まるかもしれない。入場料を1000円とすれば、1年で10億円、10年で100億円の価値が生まれるはずだ。すると、この100億円が販売価格になる。
これほど単純明快な計算はできないかもしれない。また、正確には現在価値を計算する必要がある。ただ、理屈としては将来に生み出す利益から販売価格を決定する手法は、確かに理にかなっている。
値決めの成功と失敗
おそらく、通常の読者が関わるのは、(2)と(3)だろう。いわゆるBtoC商品といえる。ただ、このBtoC商品のケースで難しいのは、値付けの「成功」と「失敗」の定義だ。企業は利益を出すのが目的で存在している。だから、成功は黒字の商品、失敗は赤字の商品、と通常では考えられている。最も多くの利益を稼げるのが、最も成功した値決めだと。
しかし、「政策決定法」では、そもそも客寄せのマグネット商品として使われる。赤字になっても、集客ができて、関連商品とともに売り上げが上がればトータルでは辻褄(つじつま)が合う。とはいっても、そのマグネット商品をいっそのこと0円で販売すればいいのかというと、それではトータルでも利益を最大化できない。
また、消費増税のあと、2%分を課税するのは当たり前のことなのに、「市場価格類推法」で調査すると、そのたった2%を課税することが消費の大幅な減少につながってしまうこともあるかもしれない。
そんなとき、普通に考えると利益を減らしてしまうかもしれないものの、価格を2%上げると、もっと利益を減らしてしまうと分かれば、あえて価格を据え置いたほうが「よりまし」となる。例えば、企業が価格を下げて減収減益になった際、メディアは「価格政策の失敗」と叫ぶ。ただ、価格を維持すれば、もっと減収減益になった可能性が高い。
だから、マクドナルドでは主力商品の価格を据え置いたし、これまで消費増税をきっかけに訴求力を上げてきたニトリは、満を持して、むしろ増税以上に値下げすると発表した。
成功する値付けとは?
だから、ありていにいえば、成功する価格決定とは「客寄せ品を据え置きつつ、トータルの粗利益を確保するために、ついで買いされる商品の価格を上げる」となる。そして、重要なのは、価格に見合った商品の質を上げる努力を惜しまないことだ。凡庸な結論だが、本当に重要なので繰り返すと、商品の質を上げて、ユーザーに選んでもらう努力を重ねることだ。そうすれば代替品へのスイッチは起こりにくい。
最終的には、すぐれた商品を提供する会社が生き残っている。あくまでそのうえでの価格決定がある。
今回の消費増税では各社の対応が分かれた。価格決定もさまざまなケースがあった。この先1年間の各社の業績を比べると面白いだろう。それは、消費税分の値上げをしたにもかかわらず、業績が好調な企業と不調な企業が出てくるからだ。価格決定は、あくまでも、商品力の先にあるものだということが分かるだろう。
(坂口 孝則)