「クマさっさと絶滅させろ」“過激派”の電凸多数で役所は困惑「業務に支障をきたす」「共生目指す」しかし維新議員も参戦「管理できていないクマは全て駆除すべき」

クマによる人的被害が多発するなか、県庁や役所には「クマを殺すな」という擁護派の意見が届く。そのいっぽうで、昨今目立っているのは「クマを絶滅させろ」といった過激派からの問い合わせだという。時にはそのような電話で役所の業務に支障をきたすことも……。
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県外から「さっさと絶滅させろ」の電話殺到
13日から緊急時に警察官がライフル銃でクマを駆除することが可能になった。全国でクマによる目撃情報や被害数が多い秋田県では、警察の特別部隊である「熊駆除対応プロジェクトチーム」も同日発足し、クマの駆除に取り掛かる。
人里でのクマによる被害が深刻化するなか、県庁や一部の役場では県外から“思わぬ苦情”の問い合わせがあるという。
「テレビなどマスコミの報道があるたびに、全国から1日10件ほど『クマを殺すな』とご意見をいただきます。我々も好き好んでクマを殺そうとしているわけではなくて、県民の生活を守るためにやむを得ず活動しているわけです。こうお伝えしても、何度も同じ話を繰り返される方も多いので、その場合は電話を切らせてもらっています。
また、『クマを殺すな』より数は少ないのですが、『クマを早く絶滅させろ』との問い合わせも一定数、いただいております」(秋田県庁・担当者)
陸上自衛隊がクマ駆除の支援を行なうため、秋田県の北部に位置する鹿角市でも同様に、『クマを早く殺せ』と問い合わせがあるという。
「特に県外の方から、『クマを早く殺せ』『さっさと絶滅させろ』と一定数の問い合わせがあります。なかには、『早くやってしまえ。やるにはトラバサミを使用したらいいんだよ(法律上原則禁止)』といった電話が来ていますね。市内の人からはこんな電話はほとんど来ません」(鹿角市役所・担当者)
さらに鹿角市役所の担当者によると、具体的な件数は非公表なものの、「クマを絶滅させろ」などと訴える過激派からの問い合わせは、「クマを殺すな」などと訴えるクマ擁護派の件数と変わらないという。
また、そういった無理難題を言う問い合わせは「業務に支障をきたすこともある」とし、 「市民の方からのご要望であれば、お話をお伺いする時間は取ります。ただ、県外から一般的なご意見というのであれば『話を短く区切って、電話を失礼させていただいています』と伝えたうえで、『お電話ありがとうございます』と電話をお切りします」 と対応するという。また、秋田県の北に位置する青森県でも同様に過激派からの問い合わせがある。
「今年に限っていう話ではないですけど、『クマは危ないのでみんな捕獲や駆除してしまったほうがいい』『行政の対応が手ぬるい』などとご意見をいただきます。県としても、山の中に入って、殺すことはしません。鳥獣法では、人間の住んでいるエリアに出てきて、脅威を与えてくる可能性が高い場合に、捕獲や駆除が認められる建て付けになっていますから」(青森県庁・担当者)
担当者によれば、「クマを殺すな」などの擁護派による問い合わせは全体の4割程度で、残りの6割は「クマをいっぱい殺せ」などの過激派によるものだという。
「クマを絶滅させるべき」と発言する維新議員の真意
クマによる人的被害が多発し、それに比例するかのようにSNS上でも、<クマを絶滅させろ>などの意見も散見される。
なかでも日本維新の会の国立市市議会議員・中川貴大氏(32)は10月28日に次のように自身のXに投稿した。 <今すぐクマを絶滅させるべきです。私もそのための行動を始めています>
さらに30日には、 <私の発言を失言とする者も多少はいますが、私は失言ではなく名言だったと思っています> と言及している。
これらの投稿の背景について中川市議は、集英社オンラインの取材にこう答えた。
「投稿の通り、人里付近に生息するクマはすべて駆除したほうがいいと考えています。人を襲うようになったクマが市街地に出たら手遅れなわけです。箱罠を設置したからといってクマが必ず捕獲されるわけではありませんから。 もっと積極的に近くの山に入って、管理や飼育ができていないクマを銃などで駆除すべきです。管理はクマの生息数の把握ができていることであって、飼育は動物園などで飼われているクマのことです」
投稿の背景には中川市議が北海道で生まれ育ったことが色濃く関係しているという。
「クマについての興味関心は、もともとありました。現在は東京都国立市で市議をしており、近くの多摩エリアでも出没するようになりましたから。全国的にクマによる被害数も増加しており、対応は早急に進めていかなければと思い、こういった投稿をしました」
とはいえ、駆除や絶滅となると、その地域の生態系を壊す可能性があるほか、現行法ではそもそも実行できず法改正が必要となってくる。
「全国のその種のクマを絶滅させるわけではありませんから。人里の近隣区域の熊を絶滅させたからといって、他の地域では生息してるわけですし、国外にもいるわけです。そのため、(生態系を)バックアップできるはずです。 法改正については、党内を越えて議論をしていく必要があり、この投稿をしてから他党の議員さんだったり、秘書さんだったりから多くのご連絡をいただいている次第であります」
秋田県庁は「クマを絶滅させろ」といった“過激な声”に対して、 「クマと私たちはずっと身近にいました。どこの県もそうですが、秋田県も共生を目指すといった大きな柱があります。人間とクマの住むところと、人間の生活の場をきちんと分けていこう。クマの駆除について、まずそこが大前提なんです。
そのうえで、時代の変化でクマが市街地に出てきてしまったときには、やっぱりやむを得ず、県民の命を守るために駆除をする。この二本立てなんですよね。中長期的には“共生”を目指していく。でも短期的・中期的には“守るための行動”を取らなきゃいけない。 そういう話はずっとしてるんですけど、なかなかね、一方的に自分の考えだけをもっている方々も多くて、いくら説明しても聞き入れてもらえないんですよね」
と肩を落とす。最後に、 「私たちのほかにも動物はこの地球上に生きているわけで、クマもその一つ。クマがいることで、その地域の生態系が守られてもいる。ただ、人にも影響を及ぼしかねないから、影響の出ない範囲で個体数が定められていて、その上限分を駆除しているわけです」 と解説した。
「クマを殺すな」と「クマを絶滅させろ」、その間にある適切な「共生」を人類は探っていくべきだろう。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班