――ラブホテルのベッドを使っていないのですか?
公衆の面前でそう問われたジャケット姿の女性は、おもむろにマイクを握り、語りだす。
「あの、ホテルの中で……」「ベッドは……」
その説明に約200人が固唾をのんで耳をそばだてる異様な「集会」が開かれたのは、前橋市内のホールだ。
今年9月下旬、男性秘書課長(当時)とのラブホテル密会を「NEWSポストセブン」に報じられた前橋市の小川晶市長(42)。
「10回以上のホテル通いを認めながらも男女の関係については否定を貫いています」(全国紙記者)
2日にわたって開催された「公開対話集会」
10月13日には市民約120人が参加した「市民対話会」が開かれた が、参加希望者に氏名、住所の記入を求めてマスコミをシャットアウトした“厳戒態勢”での開催。事実上の非公開だった。
そこで今回、開かれたのが「公開対話集会」だ。対話集会は、参加者枠を300人として、11月14、15日の2日にわたって開催された。
◇◇◇
集会を主催したのは地元のコミュニティラジオ局「まえばしCITYエフエム」だ。同社の圓岡孝文会長兼放送局長が経緯を語る。
「市長が騒動以来何度かタウンミーティング的なことをやりましたが、『集まっているのは支持者だけ』との指摘があった。そこで『大きな集会をやって市民の声を聞きたい』と市長が希望したものの、前橋商工会議所青年部や前橋JC(青年会議所)には断られたそうで、私たち(ラジオ局)に話が回ってきました。私たちは市民のみなさんにありのままを届けたい。判断材料の一つとしてほしいと思っています」
会場のレンタル費用等は「まえばしCITYエフエム」側が負担し、2日で30万円程度だという。参加者は両日とも200人弱(主催者発表)。見たところ中高年の男性が最も多く6割ほど、ついで中高年の女性。若年層はごくわずかだ。
ジャケットにスカートで「本当にごめんなさい」
初日、小川市長が登壇した。ジャケットにスカート、ストッキングという出で立ちだ。「本当にごめんなさい」などと述べながら従来の説明を繰り返す。
「職員から、人目に付きにくく落ち着いて話ができる場所としてホテルの利用を提案されました。私も深く考えずに受け入れてしまいました」
さらに、
「市長という立場でラブホテルを相談の場として利用したことは、これはもう社会通念から大きく外れた判断であり、市民感覚ともかけ離れた行動でした。 誤解を招いて当然の行為であり、公人としての自覚を欠いた振る舞いだったと。このような行為に及んだ自分を、本当に恥ずかしい、と……猛省しているところでございます」
そして、すでに表明している続投への意欲を「市政を止めずに政策や予算をしっかりと作っていく」などと繰り返し語った。
両日とも質問が相次いだ。1日目の最初の質問はこうだ。質問者は男性。
小川市長の支持者と、市長続投に疑問を持つ市民の双方が
――小川さん、私のお願いを聞いてください。孫も「ラブホ市長」などと言っています。一刻も早く辞任をしていただきたい。
会場内から拍手が起きる。小川市長はこう答えた。
「期待をしていただいたみなさんに失望を与えてしまったことは一番に申し訳ないと思っています。市政を前に進めたい」
小川市長の支持者と、市長続投に疑問を持つ市民、双方が集まっているようだ。逆に「小川市長に任期の最後まで続けていただきたい」と語る人もおり、こちらにも拍手が起きた。
質問を通じて様々な「持論」が展開される。例えば、
――私は肉体関係はなかったと確信しています。小川さんが叩かれるのは小川さんが女性だから。女性差別ではないか?
さらに「小川市長、走り続けてください!」と応援の声があがると、「質問じゃなくて意見じゃないか!」とのヤジもあがる。怒声が飛び交うようになってきた。
「ベッドの利用は?」「ホテルの中でお弁当を食べたり…」
騒動の核心である、ラブホテル利用の詳細を問う質問者も現れた。
――ホテルで相談だけしているとすれば、ホテルのアメニティや水回り、ベッドなど、相談以外の目的を想起させるような設備の利用はなかったのですか?
小川市長は、ひと呼吸おいて、こう答える。
「えっと……ホテルの中でお弁当を食べたりしていましたので、あの、電子レンジとかは使わせていただきました。 また、手も洗っているので、手を洗ってタオル等は使わせていただきました。ベッドは使ってはないですけど、腰掛けたりしているので、そういうふうな形で、ベッドに座って、ということはありました。 はい、以上でございます」
質問は続く。
――カラオケや露天風呂は使った? どんな曲を歌うのですか?
「まずですね、カラオケは使っていません。露天風呂も使っておりません」
――肉体関係がなかったと証明できるか。
「どうやって証明できるのかっていうのは私もずっと考えているんですけれども、なかったことを証明するのが非常に難しいということで」
――山本一太知事が市長を批判している。
「知事の考えを尊重はしたいという思いもありつつ、やはり自治体同士、首長同士の立場を考えたときには、“内政干渉”や(地方)自治法の問題等も出てくるのでないかと思います。ただ、私が起こした問題のことなので……」
出直し選をして信を問うべきとの声も
せめて出直し選をして信を問うべきとの声も相次いだ。
――市長の説明は言い訳にしか聞こえないんですよ。ラブホテルに10回も行って男女の関係はありませんって、誰が信用するんですか。この場で辞職を表明して、出直し選で勝負に出てくださいよ。
「ご意見として受け止めたいと思います。言い訳にしか聞こえないということで、おそらくそういうふうに感じている方もたくさんいらっしゃるというふうに思います。言い訳ではなくて、当初から私としては本当のことをお伝えしているんですけれども、それが皆さんにはなかなかやはり理解しがたくて疑われてもやむを得ない行動であった……」
他方、選挙費用について責め立てる質問も。
――あなた、いけしゃあしゃあと話してますけどね。出直し選に出馬して、2億円近い費用が掛かった場合、どうするのか。
「本来の任期まで務めて審判を仰ぎたいと思っているところでございます」
◇◇◇
両日とも集会の熱気は高く“場外乱闘”も起きた。終了後には、会場外で参加者から「市長がんばって!」という声があがると、すかさずどこからともなく、「がんばらなくて結構です!」という声も飛んだ。さらに、主催ラジオ局の圓岡会長に対して、参加者が、集会の進行について「お前が……」などと詰め寄ったところ、会長が「お前とは何だ!」などと激高。参加者と衝突寸前となった。
「もう続投は通用しないのではないですか」
そして、主催者の関係者が明かす。
「実は対話集会が開催される直前、主催者側から小川市長に対して、『もう続投は通用しないのではないですか』『この集会の2日目の最後に、辞職と出直しを明言なさるべきでは。そのための時間を設けることができます』と説得しました。しかし、小川市長は首を縦に振らず、続投を宣言し続けました」
こうしてあくまで続投を貫く市長に対し、市議会は厳しい姿勢だ。
「市議会7会派は13日、会派名だけでなく所属議員全員の名前を添えて、市長に2度目の辞職勧告を行いました。さらに、11月27日の定例会までに辞職を行わない場合には『不信任決議を行う』と明示されている。7会派には市議37人のうち32人が所属しており、実際に行われた場合には可決される見通しです」(前出・全国紙記者)
この“ラブホ密会”騒動にようやく結末が見えてきた。
(「週刊文春」編集部/週刊文春)