農林水産省が11月14日に発表した全国のスーパーで販売されたコメの5キロあたりの平均価格は4316円。今年5月につけた4285円の最高値を半年ぶりに更新し、過去最高値となった。例年ならこの時期、消費者が手に取るはずの新米はそれより優に1000円以上高い。ブランド米の新米ともなれば、5キロで6000円台も珍しくない。他の食品価格も軒並み高騰する中で、一般消費者がスーパーで選ぶのは古米だろう。「令和の米騒動」から「令和の百姓一揆」、備蓄米放出を経てなお先行きの見えないコメ問題について、集荷業者に意見を聞いた。
(画像)「できるかな?」鈴木大臣の地元の山形県で“けん玉10個”チャレンジする6年前の進次郎前「コメ」大臣
「農協さんがこんなに何度も吊り上げるなんて初めてでした」
証言してくれたのは、千葉県山武郡横芝光町の株式会社向後米穀の向後雅秀代表。同社は地元の農家からコメを仕入れてスーパーや量販店などに新米を卸しており、コメの動向分析には最適のウォッチャーだ。まず、最近のコメ価格の動きについて聞いた。
「価格が下がる方向ではありますが、急に大幅には下がらないでしょう。下がるにしても5キロで100円200円程度かなと思っています。ここにきて新米がだぶついてきた感はあるのですが、8月や9月にはまだどこの小売も『あるだけほしい』という状況が続いていて、価格も上向きだと考えられていました。
新米が出ると、1発目の出荷の勢いがそのまま続くか、もしくは一服して落ちつく場合に分かれますが、今年は後者ですね。また、令和のコメ騒動という異常事態だった時よりは新米の動きが鈍いのはありますね。私のところはおかげさまで毎年、精米量が増えているので、新しい農家さんと折衝して集荷量を増やしていますが、昨年は新米の収穫前に在庫がなくなりましたからね」
今年の集荷状況はどう推移したのか。
「田植えの時期から農家さんのところに色々な買いが入ってきていたので『これはまずいぞ』と思っていました。実際、8月の集荷の時期はだいぶ苦戦しましたよ。農協さんが60キロあたりの買い取り金額を決めてから、うちらはそれに負けないよう300円とか500円とか高く買うという世界なんです。
今年最初、農協さんは29800円でスタートして、ウチらは30000円~30300円で仕入れていました。それから農協さんが2000円上げてきて、ウチらも同額追随し、さらに農協さんが価格をあげて、最終的に個人の農家から仕入れるのは34000円くらいまで吊り上がりましたね。農協さんがこんなに何度も吊り上げるなんて初めてでした」
「小泉前農水大臣も問題だったとは思いますよ」
例年、農協と“仁義なき戦い”を繰り広げてきた業者にとっても、最近までの過熱感は異常だった。
「ウチらが回っている農家さんも『これまで聞いたこともないような業者さんが売ってくれと頭を下げに来た』と言っていました。農協さんとは毎年バチバチの勝負をしてますが、今年はライバルが増えたような過熱感がありましたね。
それから値崩れが起こるんじゃないかという空気が漂いだしたのは、ここ1か月くらいのことです。ただ、仕入れ価格もありますから今のところウチは価格を崩すつもりはありません。次の仕入れ価格が下がっていれば、当然売値も落ちますけどね。農家さんは『こんな年はもうねえだろ』って鼻息荒かったですね。ベースは向後米穀ですが、ウチも関連で農業生産法人を持っていてコメの生産が1200俵くらいあるんで、高ければそっちはありがたいんですけどね」
それが一転、コメ余りにシフトしていった。スーパーなど小売店の状況はどう変わったのか。
「コメが『動かねえなあ。こりゃおかしいな』って思ったのは10月半ばから後半くらいです。量販店やスーパーから注文が来なくなったんですよ。備蓄米もあるし、外米(外国産米)も入ってくる。そもそもふたつ選択肢があるからそのぶん新米は動かなくなりますよね。
この状況が続けば、例えばですが『ウチも3%泣くから量販さんも3%泣いて特売しようよ』みたいな話になっていくんだと思いますよ。まだこの流れにはなっていませんが、来年の1月、2月ごろにはそうなっている可能性はありますね。
業者間でもコメが思ったよりさばけずに、『このままじゃコメが余る』と危機感を訴えるような話も多いです。今回のコメの高騰で損失を一番被るのはウチらみたいな集荷業者兼卸しをやっているところですから。定期的に一定数はけてくれるといいんですけど例年より遅い感じがしますから不安はありますよね。
たしかにコメの価格が倍になると家計に響くだろうし、令和の米騒動からの高騰は、世間一般の感覚の値上がり想定ラインをはるかに超えちゃってますから、やっぱり手出しづらいのもわからなくないです」
はたして「令和の米騒動」による米価の高騰は向後米穀や業界にとって吉と出たのか。
「今年もけっこう利益が出せて設備も色々新しくできるのかなって、そんなスタンスではいたんですけどね。ただ10月の半ばからコメが動かず少し変わってきました。コメ騒動での利益に関して言えば、ウチも新規で値段は上げさせてもらって利益は出ていました。米穀業界はみんな過去最高益プラス最高売り上げに達していると思いますね。
これがね、5年後にこのレベルならいいんですよ。ただ1年で一気にいってバブルになってしまったので、かえって今は読めない状況になっていますね。これはどこが悪いというわけではないと思いますが、出し惜しみした政府も問題だったでしょうし、逆にコントロールせずに一気に出した小泉前農水大臣も問題だったとは思いますよ。
今の鈴木大臣に関しては農水官僚出身なので冷静に状況を見ているなと感じています。ここで少し価格を抑える形にはなるかもしれませんが、5年後の農家さんのことを考えればそちらの方がいいと思いますね」
「まだ上がる」「関東の農協での過熱は異常でした」
短期的な収益にはつながっても、計画を狂わすような急激な変化をもたらす「騒動」は、長期的にはマイナスのようだ。
「収益は出るけどコメ騒動のようなことは望みません。計画も立てられないし。コメ騒動を受けた今年の新米で、特に関東の農協での過熱は異常でしたよ。まだ上がる、まだ上がるってこのまま(概算金)6万円とか行くんじゃねえかってそんな空気でしたから。過熱すると読めなくなるので逆に難しいですよね。最終的には外米と、今より安くなる古米のどっちにするかって状況になると思いますよ。
スーパーとか量販店さんにもよりますけど、備蓄米を大量に買ったところは新米が動かなくても売り上げは確保できると思いますよ。きついのは個人の米屋さんだと思います。備蓄米には最低購入量があったから個人の米屋さんだと買えなかったでしょう。そういった米屋さんは高いコメを買わないとやっていけなかったわけですから、値下げして乗り切るレベルじゃなくて廃業という話になっているところも多いと思います。
農家さんも今年に関しては良かったとしても、来年この状況になることはほぼありえないので、先行きをどう見るか難しいでしょうね。今までコメが安すぎたのは事実ですが、騒動という形で一気に高騰するのではなく徐々に上がっていってほしかったですね」
生産者、集荷業者、小売店、消費者。全てが小さな幸せを実感できるような政策を実行できない限り、高市政権誕生で延命した自民党政権の行く末は暗い。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班