「何も残っていなくても」 立ち入り禁止に落胆する住民も 大分火災

大分市佐賀関の大規模火災は発生から4日目となり、避難所から自宅に一時帰宅する住民が増え始めた。ただ、薬や着替えといった必需品を取りに戻る際に限られ、警察官の付き添いも必要だ。まだ火がくすぶり危険性が高いなどの理由で立ち入り禁止の区域もあり、帰宅できずに落胆する住民もいる。
市消防局や大分県警によると、佐賀関地区では21日時点でも、住宅街を中心に半径約200メートルの範囲の立ち入りが規制されている。
避難所に身を寄せる黒雲晴夫さん(73)は21日、父の哲一郎さん(97)が1人で暮らしていた実家に必要な書類を取りに戻った。鉄骨2階建ての築約50年の住宅の室内は黒焦げで、倒壊の恐れがあるとして中には入れなかった。何とか焼け残っていてほしいと、わずかな望みをかけていただけに、黒雲さんは「昔使っていた勉強机やアルバムを持ち出せなかった。思い出の家だったのに」とショックを隠しきれない。
一方、大分県豊後大野市の岡部智世さん(57)は、被災した母、河野ユミ子さん(88)の代わりに実家への一時帰宅を希望。だが、危険度が高いエリアと判断され、かなわなかった。
火災が起きた18日夕、実家には河野さんが1人でいた。デイサービスから帰って寝ているところを近所の人に起こしてもらい、パジャマ姿のまま避難。岡部さんは急いで車で避難所に向かい、河野さんと合流した。
岡部さんが佐賀関地区に向かう道すがら、高台から実家の周辺を見下ろすと一面が火の海だったという。実家には祖父母や父の遺影などが大切に保管されていた。家の様子を一目見たいと思い、警察官に事情を説明したが、この日の一時帰宅は許可されなかった。「何も形が残っていなくても、せめて最後は母と一緒にこの目で家がどうなったか確認したい」と声を詰まらせた。【井土映美】