〈時間の前後関係からもご理解いただけると思いますが、批判を受けて見出しを修正したものではありません〉
こんな奇妙な”告知”が朝日新聞の公式Xアカウントに投稿されたのは11月21日のことだった。日中の対立を招いた「高市答弁」が注目されるなか、大新聞の報じ方にも疑問の声が噴出している。【前後編の前編】
発端は11月7日の衆院予算委員会における高市早苗・首相の答弁を報じた当日付の記事だった。
立憲民主党の岡田克也氏の質問に「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と答えた高市発言について、朝日は同日午後4時前、デジタル版で〈高市首相、台湾有事「存立危機事態になりうる」 認定なら武力行使も〉との見出しを付け配信。同記事は〈高市氏の答弁は、台湾有事の際に状況によっては自衛隊が米軍とともに武力行使に踏み切る可能性を示したものだ〉と書く。
ところが同日午後10時前、朝日は記事の見出しを〈高市首相、台湾有事「存立危機事態になりうる」 武力攻撃の発生時〉と、後段を”しれっと”入れ替えていたのだ。
〈おことわり〉追加も訂正記事は出さず
北京特派員などを務めた元朝日新聞編集委員の峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所上席研究員兼中国研究センター長)はこう指摘する。
「高市首相の答弁は、台湾有事で中国の行動が仮に『武力の行使を伴うものであれば』と前提を置いたうえで、さらに、必ず存立危機事態になるとは言わず、『発生した事態の個別具体的な状況に応じて、政府がすべての情報を総合して判断する』としています。朝日が修正前の見出しに付けた〈認定なら武力行使〉とは言っていない。発言の文脈を飛ばし事実を歪曲しているように見えることがまず大きな問題です」
さらに8日深夜、中国の薛剣・駐大阪総領事が朝日の公式X(変更前の見出しを投稿したもの)を引用し「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と過激な投稿をするに及び、SNSで騒動が拡大した。
騒動勃発から2週間が過ぎた21日、朝日は冒頭のようにXで見出し変更について事実関係を説明。当該のデジタル版記事の文末にも〈おことわり〉として同文が追記された。 朝日は見出しの変更は〈「なりうる」と「認定なら」という仮定の表現が重なっていることを解消する〉ためで、〈翌日の朝刊紙面に向けた編集作業の過程で、デジタル版もあわせて〉記事内容や見出しを更新した、とする。
しかし、峯村氏はこう言う。
「国際問題の専門家として、これは重大な問題であると考えます。デジタル版で見出しを修正後もXでは旧見出しがそのまま表示される状況があり、それを前提に中国が批判を展開し、日中問題の火種になっている。それを無視して訂正記事も出さず、『批判を受けて修正したものではない』としている。説明の通りだとしても、当初の誤報の影響は極めて大きい」
(後編に続く)
※週刊ポスト2025年12月12日号