民泊急増で「夜間の静寂保持」条例施行後も迷惑行為に歯止めかからず…千葉県一宮町の住民「静かな生活返して」

千葉県一宮町で民泊や簡易宿所が急増し、利用客が深夜に騒いだり、バーベキュー(BBQ)の煙が周囲に漂ったりして、住民の生活に悪影響が出ている。町は2023年、「夜間の静寂の保持」を求めることなどを定めた条例を施行したが、迷惑行為に歯止めがかかっていない。10月には町主催の意見交換会が行われ、住民らが被害の状況や悲痛な思いを訴えた。(石本大河、吉持稀紘)
「静かな生活が奪われて精神的に苦痛だ。生活環境を元通りにしてほしい」。10月19日、町中央公民館で開かれた、民泊など宿泊施設の利用客による騒音問題に関する意見交換会。被害に苦しむ 住民ら約50人が参加し、馬淵昌也町長や町の担当者に状況を訴えた。
男性(60)宅の隣の民家は23年春頃、簡易宿所となった。もともと別荘だったが、開業に伴い屋外にプールやBBQ設備が造られた。海岸まで徒歩5分ほどに位置し、近くには 飲食店やコンビニもある。夏場や学生の長期休みの時期には多くの利用客が訪れるようになった。
意見交換会では、男性が撮影した動画が公開された。深夜に数人の男性が大きな笑い声や叫び声を上げ、手をたたきながら騒ぐ声や、プールに飛び込む様子が 記録されていた。男性は騒音があるたびに事業者に電話したが一度もつながらず、警察に何度も通報した。
警察官がかけつけると一時的に静かになるものの、しばらくすると騒ぎが繰り返されることがほとんど。男性は「騒いでいる利用客は非日常を求めにきている。一方、住民には日常の生活がある。静かな生活を返してほしい」と憤る。
民泊や簡易宿所は、町が21年東京五輪のサーフィン競技の会場と決まった16年以降に増えた。町都市環境課によると、民泊や簡易宿所は一棟貸しが多く、豊かな自然の中でBBQやプール、サウナなどをプライベートが確保された空間で楽しめることを売りにしている。
海側を中心に南北に点在している。県衛生指導課などによると、町内の民泊と簡易宿所は18年度に28軒だったが、24年度には155軒と約5・5倍に増えた。
町は、利用客による深夜の騒音やBBQの煙による住民への迷惑行為を受け、23年12月に迷惑防止条例を施行した。違反者には指導・勧告を行い、従わない場合は命令を出し、命令にも従わなければ氏名や事業者名を町ホームページなどに公表するとしている。
さらに町は今年6月に条例を改正し、公表された事業者などに5万円以下の過料を科す罰則規定を設けた。今後は、関係法規の順守を盛り込んだ協定書を事業者と締結する予定という。
町によると、ほとんどの民泊や簡易宿所の事業者は迷惑行為の注意喚起を予約時やチラシ、貼り紙などで周知している。
だが、事業者側が施設に常駐しておらず、利用客の迷惑行為に対してすぐに対応できないのが現状で、警察や町への通報や苦情は収まっていないという。
一方、町はこれまでに条例に基づく指導や勧告を一度も行っていない。町都市環境課の担当者は「利用客は毎回変わる。うるさいからといって、すぐに事業者に措置を講じることは慎重にならざるを得ない」と打ち明ける。
町は事業者に即座に対処してもらうため、管理者の常駐を努力義務とする条例改正を検討している。
近くの簡易宿所の利用客による騒音に苦しむ女性(60)は「事業者が常に対応できる状況ができれば、安心して平穏な生活が送れるはずだ」と話している。