「こんな支払いを認めれば、際限なく買収される」林芳正氏の“公選法違反疑惑”が「きわめて悪質」「捜査を尽くすべき」と断言されてしまうワケ

「手口からして、捜査機関が手を尽くせば大規模な買収事件が明るみに出る可能性がある」
そう語るのは、政治資金に詳しい神戸学院大学の上脇博之教授だ。
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運動員買収や選挙収支虚偽記入などの疑惑が噴出
昨年の衆院選を巡って林芳正総務相(64)に浮上した運動員買収や選挙収支虚偽記入などの疑惑。「週刊文春」が 11月13日号 と 20日号 で連続で報じた。
「ポスター維持管理費」という名目で陣営から金銭を受け取った地元議員や住民が、実際には「維持管理」はしておらず、「選挙カーから手を振った」「遊説で頭を下げた」「電話作戦をした」などと次々に証言。
自発的かつ無報酬が大原則の選挙運動において、例外的に「労務費」として報酬の支払いが認められる“単純な機械的労務”ではなく、選挙運動をして金を貰っていた――つまり“買収”の疑いが強い事例が、取材に応じた人だけでも12件にも上ったのだ。
「その後、中国新聞も林氏陣営の“ポスター維持管理費”の実態を報道。15日には朝日新聞が、収支報告上は金を受け取ったとされる地元有権者の少なくとも6人が『労務もしていないし金も貰っていない』と証言したとして、実態のない金が選挙収支に含まれている疑惑を社会面トップで報じました」(政治部デスク)
林氏は「ポスター貼付や毀損した場合の貼り替えなどの機械的労務」「公職選挙法上問題のない支出」との弁明を繰り返しているが、証言との食い違いについて説明がない。
「類例のない大規模な買収事件の可能性がある」
小誌の報道当初から本件に関心を持ってきたというのが、冒頭の上脇氏。自民党の裏金告発などを手掛けた政治とカネの専門家だ。
そんな上脇氏が今回、本件について近く「刑事告発をする」と語ったのだ。
「公職選挙法違反罪で告発状を作成しています。捜査機関による実態解明が強く望まれる事案です」(同前)
上脇氏が続ける。
「公示日のポスター貼りに対しての『労務費』支出なら時折あります。ただ、貼ったポスターの“維持管理”という名目での支払いは見たことがない。文春の取材に『(候補者の)応援活動に報酬を払ってはいけないので、労務費として計上している』と漏らした市議もおり、ひょっとすると“維持管理費”の支払いは、ほとんどが選挙運動への対価だったかもしれないわけです」
“維持管理費”は100人以上が受け取った。「類例のない大規模な買収事件の可能性」(同前)があるのだ。
「こんな支払いが認められるのなら…」
上脇氏はこうも指摘する。
「区割りの変更で票の開拓が必要な地域もあったことで、金を配る動機につながった可能性もある。公示日のポスター貼りだけだと数千円しか払えない場合でも、“ポスター維持管理”を一緒に頼めばさらに数日分お金が支払えてしまう。表書き『労務費』という名のもとで、事実上の買収が出来るわけです」
実際、前回選挙から新しく林氏の選挙区に編入された長門市などでは、「名目を知らされず(重廣正美市議)」「初めて“維持管理費”を受け取った(田村大治郎市議)」などと、危うい証言が小誌や中国新聞の取材に続出している。
「こんな支払いが認められるのなら、『毎日ポスターを管理した』とさえ言えば、何万円も、何百人にだって金銭を払えてしまう。公選法を管轄する総務大臣自ら、選挙でのカネ配りがまるで違法でないように装う手法を提示しているようなもので、きわめて悪質です」(上脇氏)
林氏の選挙区は山口3区。告発は近隣で「特別刑事部」のある広島地検に行うことを検討中だという。受理されれば、ついに刑事捜査が始まることになる。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年11月27日号)