昭恵さんの前で口を開いた山上被告、安倍氏襲撃は「本筋ではなかった」 被告人質問詳報

令和4年7月の安倍晋三元首相銃撃事件で、殺人などの罪に問われた山上徹也被告(45)の第13回公判が3日、奈良地裁で開かれ、4回目の被告人質問が行われた。この日の質問は、旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)に母親が多額の献金をした問題がどう銃撃事件に結びつくのかが焦点に。安倍氏の妻、昭恵さん(63)が初めて出席する前で、被告は安倍氏襲撃は「本来の目的ではなかった」などと述べた。
これまでの公判で、平成27年に教団を恨む兄が自殺した際、被告自身は「兄を救えなかった」という自責の念にかられていたと説明。しかし、母親は「献金のおかげで兄は死後楽しんでいる」と自殺を肯定的にとらえていると知り、怒りの矛先がこうした教義を持つ教団に転じたという。
弁護人「(母親の認識を知った平成30年ごろから)統一教会への怒りがあったのか」
被告「実際に復讐(ふくしゅう)を実行する、現実にするという意味ではそう」
弁護人「怒りといったが、旧統一教会に対するどんな感情か」
被告「衝動的だったが『思い知らせてやろう』という気持ち」
弁護人「逮捕後の精神鑑定で『統一教会を滅ぼすために人生があると思った』などと述べた」
被告「統一教会に一矢報いて打撃を与えるのが自分の人生の意味だと思ったということ」
安倍氏は事件10日前の令和4年6月28日にも現場近くで参院選での応援演説をしていたが、この時は安倍氏の襲撃を「考えていない」(被告)。続いて質問した検察側は、平成30年から標的としていた教団幹部ではなく、矛先を安倍氏に変えた理由を追及する。
検察官「(令和3年9月に安倍氏が教団の友好団体に送った好意的な内容のビデオメッセージを)見たのはいつか」
被告「春か秋かのどちらか」
検察官「令和3年の秋か4年の春」
被告「はい」
検察官「安倍氏個人と統一教会の関係で、その後、新たに認識したことは」
被告「なかったと思う」
検察官「4年7月3日に自民党(のホームページ)を調べていた。その時に安倍氏を狙おうと思ったのか」
被告「その頃に(教団本部がある)韓国の幹部が来ないと(分かった)」
検察官「それまで安倍氏を襲撃するつもりはなかったが、幹部が来ないと分かったので安倍氏を銃撃したという表現で正しいか」
被告「動画以来(安倍氏は)常に標的の1人とまではいかないが、頭の片隅にはあった。韓国人の標的がこないのであれば、安倍元首相への襲撃が可能だと思っていた」
同年6月には教団幹部2人が相次いで来日していたが、被告は気づいていなかった。
検察官「来日を知っていたら幹部を襲撃したか」
被告「知っていれば襲撃の対象ではあった」
検察官「襲撃の対象はあくまで統一教会であり、韓国の幹部を襲撃する機会があれば、安倍氏を狙うことはなかったのか」
被告「はい」
検察官「安倍氏を狙うことに納得はしていたのか」
被告「あくまでも統一教会が対象。(安倍氏は)統一教会に賛意を示す政治家の中で最も著名な人で、意味がないとは思わないが、本筋ではないなと思っていた」
検察官「安倍氏は本筋ではなかったのか」
被告「はい」
検察官「安倍氏を狙うのが本筋ではないと思いながら、気持ちをどう整理したのか」
被告「覚えていない」
検察官「(教団トップの)韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が本来の目的か」
被告「それはそう」
職を失い、家計が逼迫(ひっぱく)して焦りを募らせる中で、突発的・偶発的に安倍氏を襲ったともいえるかのような被告の供述。この日は昭恵さんが被害者参加制度を使って初めて出席しており、検察官の後ろの席から証言台の被告の顔をじっと見つめ、供述に耳を傾けた。
検察側は昭恵さんの前で、被害者側への対応についても質問した。
検察官「安倍氏の遺族側に謝罪の意思を示したことはない」
被告「はい」
検察官「安倍氏の治療費を(共済組合から)請求されているか」
被告「はい」
検察官「300万円以上」
被告「はい」
検察官「支払いは」
被告「していない」
検察官「(事件前日に発砲し壁を損壊させた)ビルの100万円の弁償は」
被告「していない」
検察官「何か考えはあるのか」
被告「弁済の原資がそもそもない。差し入れはあるが、どんな意図で送っているのか分からない。裁判が終われば自分のイメージが大きく変わるかもしれない。その場合はその方たちに返すべきかと思っている」
検察官「差し入れは600万円を超えているのでは」
被告「はっきりした額までは答えかねる」
検察官「妹には100万円を送った」
被告「金額までは答えかねる」
最後に裁判官らも質問した。
裁判員「(前回の2日の被告人質問で)教団幹部の襲撃によって、献金問題や家族不和を解決したいと述べていた。それは山上家の話か、被害者全体の話か」
被告「ほかの被害者を含んだ話」
裁判長「具体的にどういう風に解決になる」
被告「具体的な方法が分かるわけではないが、何らかのプラスになれば」
裁判官「苦労して銃を作ったので、使いたかったという気持ちもあったか」
被告「使いたかったといわれると語弊がある。使わないのなら、何のために時間と労力とお金をかけたのか分からない」
裁判官「遺族や被害者への謝罪や金銭の支払いはしていない」
被告「はい」
裁判官「今後する考えは」
被告「明日(4日の公判で)こういった話をするつもりではありました」
被告が昭恵さんに謝罪することはなく、この日の審理は終了。次回公判は4日午後に開かれ、被告の精神鑑定をした医師への証人尋問と5日目の被告人質問が行われる見通し。