銃の準備中にクマに襲われたベテランハンター、顔から出血したまま追跡し駆除…「命がけのボランティアだ」

新潟県新発田市で先月、クマの出没情報を受けて出動した猟友会員の奥村勉さん(80)が、駆除しようとした際にクマに襲われて負傷した。狩猟歴60年で初めての経験といい、奥村さんは読売新聞の取材に対し、「ハンターは命がけのボランティア」だと実感を口にしている。(家田晃成)
「クマのフンや柿の木をひっかいたような跡がある」。先月12日朝、同市の押廻地区でクマ出没の痕跡があるとの通報が市に寄せられ、市から依頼を受けた奥村さんが出動した。
奥村さんが市の職員らとともに地区を捜索すると、民家の敷地内の竹やぶにいるクマを発見した。クマが逃げ出したため、先回りしようと軽トラックに乗り込んだ。
同地区から約1キロ離れた二本木地区の水田地帯に着き、銃を準備しようと軽トラから降りたそのときだった。目の前に体長約1・5メートルのクマが現れた。気がついた瞬間に飛びかかられ、顔面や後頭部をかみつかれた。
クマともみ合っていると、市の職員の車が到着した。クマは奥村さんから離れ、再び逃走した。出血がひどかったが、現場に他の猟友会員はいない。「おれが仕留めるしかない」。すかさず銃に弾を込め、クマを追跡して駆除した。
その後、救急搬送され、口や鼻の周り、後頭部を縫うなどの治療を受けた。当日中に自宅に戻ることができた。クマに襲われたときのことは「必死で覚えていない」と振り返るが、「他の人がけがしなくて良かった」と表情を緩めた。
奥村さんは狩猟歴60年のベテランだが、クマに襲われたのは初めて。近年、特に今年は、人里にクマが出没する事案が増えたと感じている。
一方、高齢化とともに自身の周囲でも猟友会員の減少が進む。「手間も金もかかるから、よっぽど好きでなければ、やる人はいない」と担い手の確保に危機感を示す。
「警察でも自衛隊でも、クマ駆除の訓練を行う人を増やさないといけない」。奥村さんは、人身被害の拡大を防ぐためにはさらなる体制の強化が必要だと訴えている。
早朝や夕方入山避けて
クマに襲われないためにどうしたらよいのか。
県は、クマの活動が活発になる早朝や夕方の入山は避けるよう促している。
また、県ホームページから確認できる「にいがたクマ出没マップ」を見て、出没があった場所には近づかないよう呼びかけている。
やむを得ず山に入る場合は、複数人で行動し、鈴など音の鳴るものやクマ撃退スプレーを携行することも重要という。
クマに出会ってしまった際は、慌てずにゆっくり後退し、襲われた場合は、地面に伏せて両手で首の後ろを守る防御姿勢を取るよう勧めている。