華やかな雰囲気の晩さん会、2人は受賞の喜びかみしめる…メダルを手にした坂口志文さん「重たいですね」

【ストックホルム=長尾尚実】ノーベル賞を受賞した大阪大特任教授の坂口志文(しもん)さん(74)と京都大特別教授の北川進さん(74)は10日(日本時間11日)、授賞式に続いて開かれた晩さん会に出席した。スウェーデン王室のメンバーらに囲まれる華やかな雰囲気の中、2人は受賞の喜びをかみしめた。
授賞式後、坂口さんは渡されたメダルを手に「結構、重たいですね」と喜び、長年の研究を支えた医師で妻の教子(のりこ)さん(72)と一緒に記念撮影していた。
晩さん会は午後7時(日本時間11日午前3時)からストックホルム市庁舎で始まり、約1300人が出席した。坂口さんと北川さんは、会場の大広間「青の間」で色とりどりの花が飾られた中央テーブルに着席。北川さんは地元産の食材を生かした料理を堪能しながら、隣に座ったビクトリア皇太子との会話を楽しんでいた。
会では、生理学・医学賞受賞者3人を代表し、米システム生物学研究所のメアリー・ブランコウ博士が「私たちの成功は数年に及ぶ基礎的な研究を続けてきたからこそだ」とスピーチ。
化学賞は受賞者3人のうち、米カリフォルニア大バークレー校のオマー・ヤギー教授が「発展途上国でMOF(モフ)(金属有機構造体)の科学を前進させようと奮闘している世代が出ている」と述べた。
免疫研究に「深い感謝」…患者
坂口さんのノーベル生理学・医学賞の受賞に、免疫の異常で起こるとされる病気の患者からも称賛の声が上がった。坂口さんが発見した「制御性T細胞(Tレグ)」を活用することで、患者は新たな治療法が生まれる可能性があると期待を抱いている。
国立病院機構大阪医療センター(大阪市)の加藤研・1型糖尿病センター長(53)は、自身も13歳の時に1型糖尿病を発症した。「(患者から)『坂口先生の研究は期待していいですか』と尋ねられる機会が増えた」と話す。
1型糖尿病は、免疫細胞が膵臓(すいぞう)の組織を攻撃し、血糖値を下げるホルモン「インスリン」が分泌されなくなる。国内の患者は推計10万~14万人とされ、インスリン注射を生涯続けるが、効きすぎると低血糖を起こして意識障害を起こすこともある。加藤さんは「命に関わることもあるのに見た目には分からず、周囲から理解されにくい」と指摘する。
高校生の時は人目を気にして保健室で注射をしたり、修学旅行の参加を見送ったりした。試験中に低血糖にならないようアメをなめたこともあった。今は腹部に針を刺し、インスリン製剤を24時間投与できる装置を装着して診療にあたる。
加藤さんは「Tレグを活用した新薬ができ、患者がインスリン注射から解放されるようになればうれしい」と話す。
創薬に向けた動きも出始めている。米国では、来年にも自己免疫疾患の患者に対する臨床試験が実施される。日本では、全身の皮膚や口の中に水ぶくれができたり、ただれたりする難病「天疱瘡(てんぽうそう)」に対する臨床試験が計画されている。
この病気は、国内に約3000人の患者がいるとされる。その一人である福岡県の女性(47)は、症状がひどい時は水ぶくれが破れて衣服にくっつき、皮膚がめくれ、寝ている間も痛みは治まらない。鏡を見るたび、自分の肌と向き合うのがつらいという。
女性は、坂口さんの受賞について「病気を理解しようとしてくれる研究者がいることが日々の支えで、大きな喜びと深い感謝を感じている」と話している。