北海道電力泊原発3号機(泊村)の再稼働を巡り、鈴木直道知事が10日に同意を正式表明した。北電は2027年にも3号機を再稼働したい考えで、地元経済界などが歓迎の声を上げる一方、住民らの間では原発事故への不安も根強く、知事の判断に対し、賛否さまざまな意見が聞かれた。
「私としては熟慮を重ね、再稼働に同意することとしました」
午後1時半過ぎ。知事が同意を表明すると、現場は騒然となった。議会の傍聴人は前のめりに「道民の声を聞け」「同意するな」と訴え、野党からも「禍根を残すぞ」などとヤジが飛んだ。
この日、道庁前では市民ら約220人による抗議デモがあった。
「知事だけで決めるな! 議会だけで決めるな!」。そう書かれた横断幕を手に、参加者は「原発再稼働反対」と声を張り上げた。
芽室町から駆けつけた「泊原発の廃炉をめざす会」の菅原哲也さん(68)は「食料自給率が高い北海道で放射能被ばくが起きれば、農家への打撃と健康被害が大きい。日本全体の食料安全保障の問題だ」と強調した。
小樽市の無職、沖山美喜子さん(72)は「なぜそんなに焦るのか。(道主催の)説明会があったばかりなのに、道民の声をそんなに短期間で聞けるのか」と批判した。
特別な立場から、懸念を抱く道民もいる。
11年の東京電力福島第1原発事故を機に福島県から移住した札幌市の経営者、中手聖一さん(64)は「古里で築いた人間関係もキャリアも生活基盤も、全て事故で失った。こんな経験は二度としたくないし、誰にもしてほしくない」と知事に再考を求めた。
泊村に隣接する神恵内村で暮らす自営業の40代男性も「ある程度のリスクは覚悟して住んでいるが、(原発事故と豪雪など)複合災害があれば逃げられない」と嘆いた。
泊原発廃炉訴訟の原告側弁護団長を務める難波徹基弁護士は「裁判が続く中で同意表明したのは拙速かつ不適切な判断で、非常に残念。本当に道民の安全を考えているのか」との声明文を出した。
再稼働に賛同する市民も少なくない。
札幌市豊平区のバスターミナル勤務、河村建次さん(56)は「エネルギー供給や電気料金の値下げを考えると前に進んだのでは」と知事の判断を評価。「再生可能エネルギーで(電力を)まかなえるようになるにはコストも時間もかかる」と原発に期待を寄せた。
泊村の会社に勤務する男性(46)は「村の活性化のため、再稼働した方がいい」との考えを示した。核燃料の運搬などに不安はあるとしつつ、「村では働き口が少なく、工事現場や作業者が利用する宿泊施設、飲食店などが増えれば良い」と話した。
知事の同意表明を受け、道経済連合会の藤井裕会長は「北海道の経済活動や産業基盤を支える低廉かつ安定した電力供給、脱炭素化に寄与することを期待したい」とのコメントを発表。
道商工会議所連合会の安田光春会頭も「半導体関連産業やデータセンターなど、成長分野の電力需要に応えていく上でも期待された判断だ」と同調した。
泊原発で事故が起きれば、多くの避難者が札幌市に流れ込む可能性が高い。
同市の秋元克広市長は市役所で報道陣の取材に応じ、「(知事は)大変重い決断をされた。難しい問題への答えを出されたことについて、敬意を表したい」と述べた。
現在、道から意見交換の打診を受けているといい、秋元市長は「法的に意見を聴取される立場にないが、(札幌市は)泊原発に非常に近く、大変多くの人口を抱える」とした上で、「市民の安全に関わりかねない問題で、避難の受け入れの態勢についても詰めなければならない」と、話し合いに前向きな姿勢を示した。
知事に対し、道議会各会派は抗議した。民主・道民連合は立憲民主党道連と連名で「住民の避難手段の確保や実効性ある防災体制について、説明を欠いたまま最終判断に至ったことは容認できない」と表明。記者会見した民主・道民連合の沖田清志会長は「知事は道民の声を聞いたと言うが、反対派の意見は聞いていないのではないか。道民は納得できない」と指摘した。
共産党道議団は共産党道委員会と連名で声明文を出し「知事は道民理解が必要と言いながら、(住民)説明会の議事録は本日ようやく公開され、道民に周知される時間はなく、道のホームページに寄せられた意見にも回答していない」と指弾。「再稼働ありきの姿勢に固執し、全く警告を聞こうとしていない」と再稼働反対の立場を改めて示した。【森原彩子、高山純二、水戸健一、片野裕之、後藤佳怜】