物価高対策として政府が推奨する「おこめ券」について、「配布しない」と表明する自治体が相次いでいる。経費がかさむことなどが理由で、現金給付や商品券といった別の支援策を打ち出す動きが広がっている。(渡辺星太、原聖悟)
「おこめ券には致しません」。東京都立川市の酒井大史市長は13日、自身のユーチューブチャンネルにこんなタイトルの動画を投稿し、「手数料が高いおこめ券ではなく、現金振り込みが一番いい」と話した。
16日に成立した政府の補正予算では、物価高対策として「重点支援地方交付金」を2兆円拡充し、うち4000億円を食料品価格高騰に対応する特別加算とした。1人当たり約3000円相当を利用できる。
使い道や対象は約1700ある市区町村の判断に委ねられており、農林水産省は、一例として米穀店やスーパーなどで使えるおこめ券の配布を推奨している。
しかし、自治体からは、1枚500円の従来のおこめ券で、実際にコメと引き換えられるのは440円分にとどまることに批判が出ている。12%に相当する差額の60円は、利益を含む「手数料」として発行元の全国農業協同組合連合会(JA全農)と全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)に入る仕組みだ。
福岡市の高島宗一郎市長は9日の記者会見で、「国民に配る前にすでに1割以上コストがかかっているということに、国はもっと意識を持つべきだ」と苦言を呈した。おこめ券の代わりに、商工会議所や商店街によるプレミアム付き商品券の発行支援に取り組む。
大阪府交野市の山本景市長も5日の記者会見で、券の郵送費なども含めれば経費の割合は2割に上ると説明し、「おこめ券は選んではいけない選択肢。(業界への)利益誘導と言われても仕方がない」と語った。交付金は学校給食の無償化に充てるという。
自治体からの反発を受け、JA全農は11日、物価高対策として配る場合には、手数料分の60円を2~3割値引きすると発表。全米販も、利益を差し引くなどして販売価格を477円に引き下げることを決めた。
鈴木農相は10月の就任時、物価高対策としておこめ券の有効性を強調。今月12日の記者会見では、「おこめ券はコメしか買えないわけではなく、利用店が認めた商品の購入も可能であるため、物価高対策にうまく適合すると考えている」と説明した。
農水省も今月3~5日の自治体向けの説明会で、コメ以外にも使えるというメリットをPRした。
政府は交付金を活用した支援について、年内の予算化を検討するよう各自治体に求めている。農水省によると、おこめ券の配布を検討している自治体は、現時点で数十程度を把握しているという。
埼玉県川島町と吉見町では、町民1人当たり7枚(コメ3080円分)のおこめ券を25日にも発送する。年内には各世帯に届く。
川島町の担当者は「町はコメの産地で農家も多く、コメの消費を促進したい」と話した。
近畿大の増田忠義准教授(農業資源経済学)の話「交付金の還元方法としては手間や経費がかからない手段が望ましく、おこめ券の配布を選ぶ自治体は少ないだろう。物価高に伴う国民の家計は苦しい状況にあり、おこめ券の配布にせよ別の手段にせよ、各自治体にはスピード感を持った対応が求められる」
コメ高騰収まらず…備蓄米減少も影響
コメの価格は高止まりが続いている。
農水省によると、全国のスーパーで8~14日に販売されたコメの平均価格(5キロ・グラム当たり)は前週より10円高い4331円。2週ぶりに上昇し、11月につけた最高値(4335円)に迫っている。4000円台は15週連続だ。
昨夏から続くコメ価格の上昇は「令和の米騒動」と呼ばれて問題になった。政府による備蓄米の放出によって今年7月に一時3500円台まで下落したが、銘柄米は高値に張り付いたままで、備蓄米流通量の減少とともに再上昇している。
2025年産米の生産量は747万トンで、需要の高まりに伴って前年から68万トン増えた。今後は、供給の増加で価格が下がるとの見方が出ている。政府がおこめ券配布を推奨する背景には、「コメ余り」への懸念もある。