滋賀県内の住民ら45人が福井県にある関西電力の大飯、高浜、美浜の原発7基の運転差し止めを求めた請求を棄却した25日の大津地裁判決。2013年12月の提訴から12年という年月にわたり、「重大事故につながる危険がある」と訴え続けた原告らは「具体的な危険性を認められない」とする司法判断に怒りの声を上げた。【菊池真由、岸桂子】
「原告請求を棄却」。午後2時からの判決言い渡しで主文が読み上げられると、傍聴席からは「取り消してください」などと声を張り上げる人もいた。その直後、地裁前で待機していた原告団支援者らの前に「不当判決に抗議!」「命と琵琶湖を守らぬ司法に怒り!」と書かれた垂れ幕が示された。
原告団長の辻義則さん(78)=長浜市=は閉廷直後の取材に「地震、津波、避難計画、あらゆる角度から危ないという問題提起をしたが我々の主張を一顧だにしなかった。この12年はなんやったんや」と憤慨。その後の原告団・弁護団による記者会見で「(判決は)原子力規制委、関西電力の言い分そのまま」と厳しく指摘した。
この日の裁判は裁判長が交代した。地裁は理由を「差し支える」と説明せず、原告団が期待していた裁判長による判決要旨の読み上げもなかった。辻さんは会見で「裁判所に足を運ぶ人をばかにしている」と語気を強め、「負けてはいけない。原発を止めたいという皆さんと頑張り抜く」と控訴へ向けて強い意欲を示した。
原告団の一人で、11年の東京電力福島第1原発事故後に福島県南相馬市から大津市に転居した青田恵子さん(75)と夫の勝彦さん(84)は取材に、1分足らずで終わった言い渡しについて「歴代の裁判官が何をどう受け止めてきたのか、何もわからない」と悔しさをあらわにした。「裁判なんて考えられなかったけど、滋賀の人たちが県境を越えたところにある原発にも関心を持ってくれた」。勝彦さんはさまざまな心労が重なり不眠症を患う。昼夜逆転の日々が続き、この日は無理をして傍聴席に座ったが朗報を聞くことはできなかった。
原告団は会見で声明を発表。その中で「このような判決では近畿1400万人の命を支える水資源である琵琶湖の汚染による、広域に対する甚大な影響を止められず、万が一の事故による被害は取り返しのつかないものになる」などと訴えた。
弁護団長の井戸謙一弁護士(71)は16年に大津地裁が高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分を決定(高裁で取り消し)した裁判でも弁護団長を務めた。今回の判決について「政府が原発の最大限利用にかじを切ったのでその後の司法は良くない判断が続いている。大きな流れに裁判所が飲み込まれている」と批判した。
県内自治体首長もコメントを出した。
三日月大造知事
原子力発電所の稼働・非稼働に関わらず、国及び原子力事業者に対し、国民に不安感が根強く残る現状を重く受け止め、万全の安全対策を講じられるとともに、誠意と責任を持って対応されることを引き続き求めていく。
浅見宣義・長浜市長
市は美浜発電所のUPZ(原発から30キロ圏内の緊急防護措置区域)圏域を有し、関西電力には引き続き安全対策の徹底と市民への説明責任を果たすことをお願いする。
今城克啓・高島市長
原子力災害対策、安全対策は国及び事業者の責任において引き続き万全を期していただきたい。