木の実の不作や人口減少などによって秋に市街地に大量出没し、人身被害ももたらした東北各地のツキノワグマ。今年の出没の背景や対策について学ぶ「医療と健康を考える集い」(大曲仙北医師会、仙北市医療協議会など主催)が11月、秋田県仙北市で開かれた。あきた森づくり活動サポートセンター情報専門員の菅原徳蔵さんがクマの特性を説明した。【構成・工藤哲】
「熊」という漢字は、「能」力のある四つ足動物であることを示している。つまり知能・学習能力が極めて高い。悪い学習をすればとことん悪いこともする。極めてまれだが、人の味を覚えると人を襲って食べるようにもなる。つまり「人食いグマ」にもなってしまう。
クマは絶えず学習するため、行動が変化する。箱わなの踏み板を踏むことなく餌だけ盗んだり、電気柵を突破したりする個体も出てきている。知恵がつくので、悪い学習をさせない対策が重要だが、残念ながら近年は悪い学習をされっぱなしなのが実情だ。
一度「おいしい食べ物」を学習すると、その食べ物に強く執着するようになる。トウモロコシや蜂蜜、スイカ、メロン、稲、米ぬか、玄米、精米、くず米、飼料用米、ブルーベリー、比内地鶏、牛の飼料、ソバの実、モモ、ブドウ、リンゴ、柿や栗も大好きだ。
こういう食べ物を口にすると、「人里にはおいしい食べ物が山ほどある」と学習する。(ブナの実が凶作だった)2023年と今年で多くのクマがこれを学習してしまった。
クマは食肉目に分類され、植物だけでなく、雪崩などによって死んだ鹿の肉なども食べるし、腐った肉も食べる。まず内臓を食べ、草木で餌を隠した後は何度もそこにやって来て食べる。またクマは、他のクマが糞(ふん)の形やにおいで何を食べているかを推測し、新たな味を覚えて広がっていくと言われている。
12年、岩手県遠野市で開催された「マタギサミット」では、ニホンジカが増え、クマが待ち伏せしてシカを襲って食べている、という「クマの肉食化」が話題になった。肉食化すると、家畜や人を襲うことにもつながりかねない。懸念が出た4年後の16年、秋田県鹿角市で4人がクマに襲われて死亡した。こういう「人食いグマ」は防御不能で極めて危険なため、現場周辺は現在も「入山禁止区域」になっている。
23年には、秋田市新屋や北秋田市の市街地にも出没するようになった。川伝いにやってきたとみられる。いったん市街地に出ると、隠れる場所や逃げ場がなくなったクマはパニック状態に陥る。そうなると行動が予想できなくなり、防御も捕獲も難しいので、多くの人を巻き込む多重事故が起きやすい。
今年も秋田県湯沢市中心部で4人が連続で負傷した。市街地でクマが動き回ると恐ろしい事態になる可能性がある。今年の人身被害は山ではなくほとんど人里で起きている。これまでとは次元が違う状況だ。年々クマが人に慣れ、人の食べ物への依存を深めることで、人身被害もエスカレートしてきている。
すがわら・とくぞう
秋田県横手市出身。京都大農学部を卒業後、1978年に秋田県庁に入庁し、2013年に山本地域振興局長で退職。山釣りの会「秋田・源流釣友会」を設立するとともに、全国のマタギが集う「マタギサミット」にも参加してきた。