「インド人がうじゃうじゃ」デマや誤情報で“国際スクール”説明会が混乱、なりすましの反対陳情も…専門家「放置された移民政策の疑問に火」外国人との共生どう進める

2025年のキーワードの一つ、「外国人」をめぐる特集です。
北海道内で暮らす外国人は、11月末の時点で7万4000人と過去最多を更新し、介護や製造業などで活躍しています。
一方、参院選では「日本人ファースト」を訴えた参政党への支持が高まったほか、札幌などで「移民政策反対」を主張するデモも行われました。
SNS上では「不法移民だ」といったデマが拡散し、外国人への反発が強まった1年でした。
その背景の1つと考えられているのが「エコーチェンバー」と呼ばれる現象です。
SNS上では「札幌に外国人専用の学校ができる」といったデマや、「移民が流入して治安が悪化する」といった根拠不明の情報が投稿されています。
SNSのシステムでは、似た考えが優先的に表示されるため、箱の中でほかの意見が入りにくい“閉じた空間”で響き合うようになります。
増幅された過激な考え方や誤った情報は札幌での、あるインターナショナルスクールをめぐる議論にも深刻な影響を与えています。
札幌の国際スクール計画、地域では歓迎の声があがっていたはずが…
説明会の参加者(音声データ) 「市民に何かあった時に守ることができない。そんな状態でどうしてインターナショナルスクールをここに建ててもらうのか、その判断がどうしても理解できません」「そうだ!そのとおり」(拍手)」
ことし9月、札幌市南区で開かれたインターナショナルスクール開校に向けた説明会の音声です。HBCが独自に入手しました。
学校法人や札幌市の担当者に対し、激しい口調で計画の撤回を迫る様子が記録されています。
説明会の参加者(音声データ) 「皆さん断固反対してください!」 「反対って言ってるよ!皆さん反対ですよね?俺も!」(拍手) 「こんなもんいらねーんだよ。ここ日本だよ」
一部の反対の声に、住民は困惑を隠せません。
説明会に参加した地域住民 「(反対は)正直迷惑というか。本当便利なバスがいよいよ廃線になる。このまま衰退して過疎地になるよりは(学校計画は)一つの希望星」
インターナショナルスクールが計画されているのは、常盤小学校の跡地です。
児童数の減少に伴い、2021年に閉校。
跡地を有効に活用できないか、市や町内会が話し合いを重ねてきました。
活用計画を公募し、専門家も交えて審査した結果、全国でインターナショナルスクールを運営する「グローバル・インディアン・エデュケーション」社が優先交渉権者に決まりました。
学校の再生に、地域からは歓迎の声が挙がっていました。
荒れる説明会“地域で見ない”参加者が「反対」
地域住民 「活用してグラウンド辺りもきれいになれば見栄えもいい」
ところが…。
髙橋智也 記者 「旧常盤小学校のとなり、こちらの会館で9月に説明会が開かれましたが、思わぬ形で紛糾し、計画は暗礁に乗り上げました」
これは説明会の様子。
聴衆の前で一人の人物が「日本を崩壊させる移民政策、断固反対」と書かれたプラカードを掲げています。
説明会に参加した地域住民 「学校側の人がしゃべり出したら、横で『反対』ってやって、この人誰?みたいな方が後ろでざーっと座っていて、この人が何か言うと、後ろの一団が『そうだそうだ』とか『反対』とか『札幌市逃げるな』とか」
歓迎の声には罵声、説明会は途中で打ち切りに
SNS上では説明会の前に、参加を呼びかける投稿が拡散されていました。
説明会の参加者(音声データ) 「これだけ反対する人がいる中で中止という選択肢はないのか」
学校の運営法人 「こんなに反対されると思ってない」
町内会が警察まで呼ぶ物々しい雰囲気の中、ある住民が、学校の計画は正当な手続きを踏んだものだったと声をあげました。
説明会の参加者(音声データ) 「私は歓迎します。その立場できょうの説明会を聞きに来ています」
ところが、返って来たのは、罵声でした。
説明会の参加者(音声データ) 「賛成反対はあると思いますが、よく説明会を聞いて…」 「あんたらはいいな、金の利権のためだからな」
「汚い言葉でお話しないで」 「汚い言葉言ってないですよ」 「どこが汚い言葉なんだよ」 「大きい声なだけだよ」
学校法人の担当者は体調を崩し、説明会は途中で打ち切りとなってしまいました。
「合法的に移民流入させる」根拠不明の情報やデマの投稿がSNSに
SNS上では、根拠不明な情報やデマの投稿も。
Xより 「合法的に移民を流入させるものと思われ、非常に危険であると推測される」 「インド人がうじゃうじゃ住むようになれば、地域住民、特に女性は夜道を1人で歩くなど絶対にできなくなります」
インターナショナルスクールに通う児童の多くは日本人
インターナショナルスクールでは、本当にインド人の子どもばかりが勉強しているのか。
法人が運営する学校を取材しました。
(SPワンワールドインターナショナルスクール) 今年8月、茨城県に開校したこの学校は、札幌の旧常盤小学校のような使わなくなった校舎を活用しました。
およそ50人が学んでいるということで教室をのぞくと、ほとんどが日本人…
インターナショナルスクール 運営法人の担当者 「子どもたちはやはり日本人が多いんですが、特にここは日本人が多くて全体の8割くらいですね、残り2割がばらばらという感じです」
法人の名前には「インディアン」という言葉が入っていますが、本部はシンガポールにあり、東京や大阪など国内だけで3校・6キャンパスを運営しています。
インド人が多く住む東京都江戸川区にもキャンパスがあり、そこでも日本人が6割、インド人が3割、残りは中国やアメリカなどおよそ20か国の児童生徒が通うと言います。
計画する学校法人には脅迫まがいの電話やメール
髙橋智也記者 「インドタウンができるみたいな投稿が拡散された事実もありました」
インターナショナルスクール 運営法人の担当者 「インドの移民を増やすのは、仮にやろうとしても非常に難しい。そういったことありきで入った開校した経緯はない」
治安の悪化をめぐる懸念については。
インターナショナルスクール 運営法人の担当者 「犯罪が増えるのは我々が経験した中で、心配する必要がない。地域との摩擦があったとしても一緒に取り組んでいく」
札幌校の開校に向けて寄せられた「反対の声」は計画に影響を与えています。先月、結ぶはずだった常盤小跡地の売買契約は延期に。
説明会以降、学校法人には脅迫まがいの電話やメールが何十件も相次いでいると言います。
インターナショナルスクール 運営法人の担当者 「ちょっと申し上げるのも遠慮するような、インド人への差別的な文章や言葉が非常に多く来た。非常に怖かった」
「なかなか難しい、対話というのが…」
札幌市議会には“なりすまし”の反対陳情
デマによる混乱は、札幌市議会にまで及んでいます。
市議会に提出された、90件に上る開校反対の陳情書。
市が陳情の提出者に受理通知を郵送したところ…2人から「身に覚えがない」と連絡がありました。
“なりすまし”の陳情があったのです。
移民政策の専門家は、外国人に対する反発が強まっている背景について、安倍政権時代、「特定技能」の形で、労働力として外国人を受け入れる、事実上の移民政策に舵を切ったにもかかわらず、政策変更の説明や外国人との共生の施策が、不十分だったと指摘します。
「放置された根本的な疑問に火をつけられた」
移民政策に詳しい東大大学院 高谷幸准教授 「人口が減少して、労働者も足りなくなって移民を受け入れる必要があるときに、『この人たちは移民じゃないんです。私達はそういう移民政策は取らない』でも特定技能の形で受け入れを拡大してきた。(外国人受け入れの)不満を静めてきたが根本的な疑問は解決されないまま、放置されてきたのが、むしろそこに火をつけられた」
デマや誤情報によって増幅される、外国人への差別や偏見。
高谷准教授は、国や自治体が根拠に基づく情報を発信し、受け取る側も内容を吟味することが大切だと指摘しています。