インターネット上で証券口座が乗っ取られ、不正に株式が売買された事件で、不正アクセス禁止法違反と金融商品取引法違反(相場操縦)に問われた貴金属輸出入会社「L&H」代表で中国籍の林欣海被告(38)の初公判が17日、東京地裁(島戸純裁判長)であり、林被告は起訴事実を認めた。検察側は論告で「前例のない相場操縦だ」として懲役3年6月などを求刑し、弁護側は情状酌量を求めて即日結審した。判決は3月23日。
起訴状によると、林被告は昨年3月、仲間と共謀し、他人のIDやパスワードを使って証券会社の10口座に不正に接続し、これらの口座やL&H社の口座で大量に売買注文を出すなどして上場企業の株価をつり上げ、計72万2900株を売り抜けたとされる。
検察側は冒頭陳述などで、林被告が仲間から、不正に接続した口座を操作して株価をつり上げ、株の売買益を得る計画を持ちかけられたと指摘した。事前に計1億円の資金を用意して上場企業の株価を84円から110円まで上昇させ、一連の取引で約850万円の利益を得たと述べた。口座を乗っ取られた10人には約1100万円の損害が出たことも明らかにした。
林被告は被告人質問で、知人から「1000人の証券口座をコントロールできる人たちがいる」と聞いたと説明。株取引で利益を得たいと考えて犯行グループに加わり、通信アプリで仲間から指示されるがままに株を売買したと語った。指示を受けた仲間については「知らない人」と述べた。
検察側は論告で「乗っ取った他人名義の口座を用いた行為で証券市場の信頼を根幹から揺るがした。模倣犯も懸念される」と言及した。金商法違反に問われて起訴事実を認めた法人としてのL&H社には罰金400万円などを求刑した。
弁護側は最終弁論で、「林被告は共犯者に利用されただけの従属的な立場。刑事責任は共犯者の中で最も軽い」と述べ、執行猶予付き判決が相当だと訴えた。
不正取引、昨年9800件…生体認証で対策
金融庁によると、証券口座の乗っ取りによる不正取引は、今回の事件が起きた昨年春頃に急増。昨年1年間で9824件、売買額は約7400億円に上った。被害は減少傾向にあるものの依然として続いており、今年1月も100件以上の不正取引が確認された。
この日の公判では、多数の口座が不正アクセスで乗っ取られた経緯は明らかにならなかったが、日本証券業協会(東京)によると、証券会社の偽サイトに誘導してパスワードを盗む「フィッシング詐欺」などが原因とみられる。
同協会は被害を防ぐため、パスワードではなく、指紋や顔といった生体情報で認証する「パスキー」という方法を推奨し、証券各社が導入を進めている。
被害を救済する動きも広がる。証券各社は口座を被害を受ける前の状態に戻したり、損害を補償したりする対応を取っている。