全国で相次いだ指示役“ルフィ”らによる連続強盗事件。フィリピンにいた“指示役”としては初めての裁判が行われた。法廷に立ったのは藤田聖也被告(41)。通信アプリ「テレグラム」で“Kim”を名乗り、実行役に「殴ったり蹴ったりしないと報酬はあげません」などと積極的な暴行を加えるよう指示を出していたとされる。なぜ指示役としてリスクの高い強盗に関わるようになったのか。裁判で藤田被告が繰り返し語ったその理由とは。
(社会部司法クラブ記者・宇野佑一)
1月26日、東京地裁で行われた初公判。法廷に現れたのは、黒縁のメガネをかけ黒のスーツ姿の藤田被告。フィリピンから強制送還された時と比べて、顔は痩せ細り肌も白くなっていて、別人のようになっていた。
一連の強盗事件のうち、7件で実行役に犯行を指示したとして強盗致死などの罪のほか、特殊詐欺に関与した罪に問われた藤田被告。
起訴内容について、特殊詐欺の罪は認めた一方、強盗事件では「凶器を使って脅したり暴行をすることは指示していない」などと一部を否認。弁護側は、犯行を手助けした「ほう助犯」にとどまると主張した。
8回にわたり行われた今回の裁判員裁判。法廷に提出された証拠や藤田被告の説明から、強盗に関わるようになった経緯をたどる。
北海道函館市で生まれた藤田被告。高校を卒業した後、福祉の専門学校に進学し介護福祉士の資格を取得したが、地元の不動産会社に就職したという。
札幌市で働いていた27歳の頃「金を稼げる良い仕事はないか」と知人に相談したところ、飲食業や卸売業など「いろんな仕事をしている人」として、ある人物を紹介された。のちに特殊詐欺グループのトップとして“ボス”と呼ぶことになる渡辺優樹被告だった。2人は共同経営者として、不動産業や飲食店経営、コールセンターの運営など幅広い事業を展開したという。
だが、ほどなくして、2人は男性宅から現金が入った金庫を盗む窃盗事件を起こし、裁判で実刑判決を受けたという。事件は、渡辺被告が元交際相手の女性から頼まれ計画したものだったというが、藤田被告の方が重い刑となった。裁判で渡辺被告から、主犯は藤田被告だとして「罪をなすりつけられた」という。
33歳で服役を終えた藤田被告は、解体業や工事現場の作業員として働き始めた。だが、仕事で足のじん帯を切る大ケガをし入院することになった。退院後もリハビリで約1年間家にこもりきりで、ストレスがたまっていたという藤田被告。当時同居していた元妻から、気分転換で海外に行くことを勧められ、2019年7月にフィリピンに向かった。暖かい気候で英語が通じることに加え、「渡辺被告がいると聞いていたので、何かあったら頼れるかもしれない」と考え、渡航先をフィリピンに決めたという。
フィリピンでは、ホテルにこもりFX取引をしたり、近くのデパートに行ったりして過ごしていたが、偶然カジノで渡辺被告に再会。「かなり羽振りが良さそうで格が違う人間になった」と感じた。渡辺被告は、フィリピン人の間でも金持ちの日本人として有名だったという。過去の窃盗事件で罪をなすりつけられたことについて話をふると「まあいいじゃん。終わったことじゃん」と言われたという。
藤田被告が特殊詐欺に手を染めるきっかけは、生活費を稼いでいたFXで損失が出たことだった。渡辺被告に「何か仕事はないか」と相談したところ、ウソの電話を日本にかける“かけ子”をするよう勧められた。「電話が苦手」だったという藤田被告は2019年9月頃から、かけ子や受け子を集める「リクルーター」として、渡辺被告の特殊詐欺グループに加わることになった。“手伝うだけ。3か月で日本に戻ろう”この時はそう考えていた。
藤田被告が加わった、渡辺被告をトップとする特殊詐欺グループ。ここでは、小島智信被告が「渡辺被告の右腕」として現金回収役のリーダーを務めていた。
リクルーターの藤田被告は、SNSを使いかけ子や受け子約20人を集め、3000万円ほどの報酬を受け取ったという。だが、グループに加わってからわずか2か月後に、特殊詐欺の拠点としていたホテルがフィリピン当局に摘発され、かけ子ら36人が拘束された。
この時は身柄の拘束を免れた藤田被告。当初は3か月で帰国する予定だったが、渡辺被告から何度も「延長して欲しい」と頼まれたうえ、新型コロナウイルスの世界的な流行もあって帰国できず、2020年9月頃まで特殊詐欺に関わっていたという。しかし、グループを抜けた後もフィリピンに残っていたところ身柄を拘束された。その後、渡辺被告と小島被告も拘束され、グループは特殊詐欺による収入を絶たれることとなった。
フィリピン当局に拘束された3人は、首都マニラの郊外にあるビクタン収容所に入ることになった。ここには、別の特殊詐欺グループのトップだった今村磨人被告も収容されていた。のちに強盗事件を起こしたとされる4人は、収容所で出会うことになったのだ。
検察側によると、2022年3月頃から、テレグラムで“ルフィ”を名乗り、いち早く強盗の指示を始めていたのが今村被告だった。今村被告は、強盗の実行役を紹介してほしいと渡辺被告に協力を依頼。特殊詐欺による収入を絶たれ新たな資金獲得の手段が必要だった渡辺被告は誘いに乗ることにし、藤田被告と小島被告に実行役の確保を指示した。
当初は、実行役と連絡をとり今村被告に取り次ぐ役割だったという藤田被告。だが、今村被告と渡辺被告と3人で部屋にいる時、実行役への指示をするよう頼まれたという。
今村被告
「全体に指示が行き渡るように、犯行中に実行役と電話をつないでくれる人が欲しい」
渡辺被告
「それくらいならできるでしょ」
藤田被告
「電話つないで指示を伝えるだけならできます」
今村被告
「現場が混乱するから、自分が指示したことだけを伝えてくれればいい」
一連の強盗事件では、今村被告が外部の情報提供者から強盗に入る家の資産状況や家族構成などの情報を入手し、渡辺被告らと計画を立案。計画を基に、渡辺被告が小島被告と藤田被告に指示を出し、実行役を確保していた。犯行時には、主に今村被告と藤田被告が実行役と電話をつなぎ現場に指示を出していたという。
今村被告、渡辺被告、藤田被告の3人は、テレグラムのチャットグループで強盗に関する情報や計画についてやりとりしていた。グループ名は「キヨピース お前も仲間になれ」。
藤田被告が「今村被告と渡辺被告が漫画のONE PIECE(ワンピース)の話ですごい盛り上がっているのを聞いた」ことから、今村被告の名前「キヨト」と「ワンピース」を掛け合わせたこの名前でグループを立ち上げたという。ただ、藤田被告自身はワンピースを読んだことは「全くない」という。
藤田被告
「1人1人が主役なんで頑張ってください」
2022年10月以降、実行役に指示を出し、渡辺被告や今村被告らと共に次々と強盗事件を起こしていったとされる藤田被告。だが、金品を奪えなかったり、逮捕者が出たりして失敗すると、渡辺被告から「ちゃんと指示しないと実行役がお客さん状態になる。 もっと積極的に関わるように話さないとダメでしょ」と、指示の仕方について叱責されたという。
藤田被告は「殴ったり蹴ったりしないと報酬あげません」などと積極的な暴行を指示するようになり、犯行グループは徐々に手口を凶悪化させていった。12月下旬に広島市で起こした強盗事件では、モンキーレンチで頭を殴られた住人の男性が一時意識不明の重体になり、脳に障害が残る大ケガをした。
年が明けた翌月には、東京・狛江市の住宅で90歳の女性がバールで殴られ死亡した。一連の強盗事件で初めて死者が出たのだ。犯行時に藤田被告は、今村被告と渡辺被告と共にそれぞれ実行役と電話をつないでいたが「電波が悪くなっていたためバールで殴った音も聞こえず、現場で何が起こっていたのか誰も把握してなかった」と主張する。
死者が出たことで、日本では“ルフィ事件”と大きく報道されるようになった。渡辺被告らは捜査の手が及ばないように、自分たちの正体は同じフィリピンを拠点とする日本人らの犯罪グループ「JPドラゴン」だと実行役らにウソの情報を伝えていたという。
だが、狛江市の事件をきっかけに、フィリピンから実行役に指示が出ていた疑いがあるとして、ビクタン収容所にいた4人の存在が浮上。翌2月に日本に強制送還され、警視庁に逮捕されることになった。
裁判で「大ケガをさせたり、暴力をふるいに行くことが目的ではなかった」と主張した藤田被告。そもそも、なぜ渡辺被告の要求に応じ強盗に加担したのか。被告人質問で、その理由を説明した。
藤田被告
「100人以上を束ねる組織のボスだったので、北海道にいた頃の関係とは大きく変わり、怖くて逆らえなかった。ビクタン収容所に入って逃げられない環境になり、余計に絶対的な立場になった。収容所ではグループからはずされると生きていくのが大変で、やるしかないと思った」
自身は「4人の中で一番下の4番目の立場」だと述べ、積極的に暴行を加えるよう実行役に指示したことについても「渡辺被告や今村被告の前ではそう言わざるを得ず、『ここまで言ったんだから失敗しても責めないでくださいね』という意味であえて言った」と主張。渡辺被告らの指示に従わざるを得なかったと繰り返した。
一連の強盗事件について「本当に後悔と反省と無念しかない」と振り返った藤田被告。裁判の最後にこう訴えた。
藤田被告
「被害にあわれた方、遺族の方には本当に申し訳ないという気持ちでいっぱい。お金に困って闇バイトに手を出そうとしている人は、大切な人を思い出して、失うものの大きさを考えて、思いとどまってほしい」
2月16日、藤田被告に言い渡されたのは、検察側の求刑通り無期懲役の判決だった。
「ほう助犯にとどまる」とする弁護側の主張に対し、東京地裁は「強制されたのではなく、自らの意思で渡辺被告と行動を共にすることを選択し強盗事件に関与しており、自分たちの組織の利益のために 必要不可欠な役割を果たした」として共同正犯が成立すると認定。
そのうえで「被告人は海外から自らの手を汚さずに指示を出し、生身の人間に残忍な暴行を加えている現実感や抵抗感がないまま、金品獲得に執着して人命を軽視し、犯罪をエスカレートさせた」として、無期懲役が妥当だと結論づけた。
藤田被告は、判決の言い渡しを落ち着いた様子で淡々と聞いていた。
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【司法記者の傍聴メモ】法廷で語られる当事者の悲しみや怒り、そして後悔……。傍聴席で書き留めた取材ノートの言葉から裁判の背景にある社会の「いま」を見つめ、よりよい未来への「きっかけ」になる、事件の教訓を伝えます。