暗号資産で送金指示、前年の10倍に 現役世代も標的…仮想空間のカネの流れ、どう追跡?

暗号資産(仮想通貨)を送金させる手口の特殊詐欺被害が急増している。警察庁のまとめによると、令和7年の全国の認知件数は1千件を超え、前年から約10倍に増加。被害額も200億円近くに上った。特殊詐欺の送金のやりとりが従来の手交や振り込み型から、一部で匿名性の高い仮想空間に移行しているとみられ、捜査当局はカネの流れの追跡に総力を挙げる。
副業支援の「保証金」として
「スマホで手軽に始められる」
副業を探していた東京都内居住の20代女性の目に昨年、ある副業支援サイトのこんな文言が留まった。口コミを調べたが、評判は悪くなさそう-。サイトからLINEでのやりとりに移行し、110万円のサポートプランに申し込んだ。
女性はその後、業者から「収益を得たら、(利用者と)連絡がとれなくなることがある。保証金を預けてほしい」「保証金は暗号資産に換えて、カギをかける必要がある」などといわれ、「保証会社」として紹介された消費者金融から50万円を借り、仮想通貨に換えて送金した。
だが、この業者は、副業支援名目で現金をだまし取る詐欺集団だった。警視庁特別捜査課は今年2月、詐欺容疑で、この副業支援サイトを運営するなどしていたグループのメンバーら10人以上を逮捕。同様の手口で6年6月以降、46都道府県の10~70代の男女450人以上から計7億円超を詐取していたとみて、全容解明を進めている。
現役世代がターゲットに
警察庁の統計によると、7年に全国で認知した特殊詐欺事件2万7758件を送金の方法別でみると、銀行口座などに現金を振り込ませる従来の「振り込み型」が1万6862件で全体の約6割を占める一方、仮想通貨で振り込ませる手口が前年から急増。認知件数は前年の123件から1213件に、被害額は34億円から195億7千万円に増加した。
仮想通貨で送金したケースを年代別でみると、50代以下の現役世代が過半数を占め、20代、30代もそれぞれ1割以上を占めるなど若年層への広がりも目立った。
捜査関係者によると、警視庁が摘発した事件では、仮想通貨を使ったことのない被害者に対し、SNSの画面共有機能などを用いて、暗号資産の口座開設の操作を教え、送金させたケースもあったという。
仮想空間から再び「リアル」へ
現金と比べて取引の匿名性が高く、追跡が難しいとされる仮想通貨。捜査当局が着目するのが、詐欺グループが詐取金を利用するために引き出す「現金化」のタイミングだ。ある捜査幹部は「詐取金を仮想通貨に換える以上、必ず、その先には現金化する人間がいる」と説明。摘発に力を入れる。
正規の取引所を経由しない違法な仮想通貨取引で犯罪収益を現金化したり、資金洗浄したりする業者は、「相対屋(あいたいや)」と呼ばれる。特捜課は1月、特殊詐欺の詐取金や、闇バイト強盗に関与した「ルフィ」グループの被害金の資金洗浄に絡み、仮想通貨を現金化していた「相対屋」の男を摘発した。ただ、捜査幹部は「ほかにも複数の『相対屋グループ』が存在している」とみており、警戒を緩めていない。
仮想通貨は匿名性が高い一方、取引履歴がブロックチェーンと呼ばれる台帳に記録されるため、「理論上、追跡は可能」(捜査幹部)とされる。ただ、ハードルとなっているのが、日本からの情報の照会が難しい海外の取引所を経由するケースだ。
仮想通貨も悪用した犯罪収益の流れの解明は、暗躍する匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の解体に欠かせない「至上命題」となっている。警察当局は、警視庁を中心とした情報と捜査力の統合や、警察庁のサイバー特別捜査部などの解析技術の活用により、実態解明を急ぐ。(海野慎介)