強制送還におびえる外国籍の子どもたち 「ゼロプラン」発動で

不法残留者や不法入国者、また「難民申請」を繰り返す非正規滞在者の強制送還手続きの円滑化などを柱とする改正入管法が2024年に施行され、強制送還が急増している。その影響は、親とともに来日し、日本で育った子ども、そして日本で生まれた子どもにも重くのしかかっている。そんな子どもらの一人と、子どもらの支援者の訴えに耳を傾けた。【明治大・山本遼(キャンパる編集部)】
傷ついた級友のひと言
「本当は素直に自分の状況を伝えたいし、分かってほしい。だけど在留資格のことは、どれだけ仲が良くても、敵に見られてしまうんじゃないかと考えてしまって言えない」。1月27日、東京都内で行われた記者会見で、高校3年生のエマさん(仮名)はそう打ち明けた。
エマさんとその家族は在留資格を持っておらず、出入国在留管理庁から一時的に入管施設への収容を放免されている、いわゆる仮放免の状態にある。
幼少期を過ごしたナイジェリアでは、宗教上の理由から日常的になっていた襲撃で祖父母を亡くした。そんな環境から逃れるため、両親は出国を決意。エマさんが小学校3年生の時に来日した。しかし難民申請をするも認められず、支援団体の援助を得て生計を立てている。
入管から度々呼び出しを受け、学校を休むエマさん。理由を同級生から聞かれても当初はごまかしていたが、ある日、正直に「入管に行ってくる」と話したことがある。すると「あんたも不法滞在者なんじゃない?」と言われたという。「軽い気持ちで言っているのだと分かっているものの、すごく傷ついた」とエマさんは振り返った。
立ち塞がる進学の壁
在留資格のない仮放免中の人は就労できず、高校無償化の対象外となっている。こうした境遇にある外国籍の高校生を支援しているのが、民間団体の「一般社団法人・反貧困ネットワーク」と「NPO法人・移住者と連帯する全国ネットワーク・貧困対策プロジェクトチーム」が組織する「仮放免高校生奨学金プロジェクト」だ。同プロジェクトでは、親が学費を支払えない高校生に23年1月から毎月1万円手渡しで援助している。
活動資金は市民による寄付によって賄っており、現在20人ほどの大学生がチューター(指導役)として仮放免中の高校生25人ほどについて、学習支援や生活相談など多岐にわたる伴走型の援助を行っている。高校卒業後に進学を希望する学生たちのサポートも行っている。大学に進学し、英文学を学びたいと希望するエマさんもその一人だ。
実際、仮放免中の生徒にとって大きな壁になっているのが進学問題だ。エマさんは大学や専門学校など数校から受験や入学を拒まれてきた。同プロジェクトのチューターとしてエマさんをサポートしてきた成蹊大4年の加藤美和さん(23)によると、エマさんのように受験や進学を希望し拒否された学生は、同プロジェクトで把握している限りでも24年度で13人中8人、25年度で9人中6人にのぼるという。
“排除”の論理
在留資格がないことによる受験や入学の拒否は、募集要項には書かれていないことが多く、事前に問い合わせて確認することがほとんど。加藤さんによると、過去には、合格した後の入学手続きの段階で入学を拒否され合格を取り消された事例もあったという。
受験や入学を拒む大学の言い分は、前例がない▽学費が払えないかもしれない▽入学しても周りの人と状況が違うので本人が大変かもしれない――などさまざまだ。加藤さんは「実質的には、在留資格がないことが理由だ」と指摘する。エマさんも「学校はいろいろな説明をするけど、結局は在留資格じゃん。在留資格があれば入学できたじゃん」と悔しさをにじませた。
進学先からだけでなく、学校の中でも仮放免中の生徒は周囲の先生の無理解に苦しんでいる。エマさんによれば、学校では受験の相談はできても、在留資格のことを話して理解してくれる先生はいない。これはエマさんだけの問題ではなく、加藤さんによると、学校の先生で仮放免という特殊な状況を理解している人は少ないという。
変わる社会の空気感
そんな状況下、入管庁は改正入管法に基づいて25年5月、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を始動させた。24年を起点として3年後の27年までに、護送官付き国費送還を24年実績の249人から倍増させることを目指している。昨年10月に発表された実施状況によると、25年1~8月に護送官付きの国費送還をされた人は203人。そのうち42人が難民申請中、7人が18歳未満の未成年だった。
同プランの始動と前後して高まった在日クルド人へのヘイトスピーチや、海外からの移民増加を嫌悪、警戒する排外主義的な社会の空気感は、仮放免中の学生たちの学校生活にも色濃く影を落としている。
エマさんは「ゼロプランで本当にたくさんの人をすごい勢いで強制送還しているから、今までよりも現実味を持って強制送還されてしまう恐怖を感じている」という。そして、同プロジェクトのチューターを務める大学2年の星さくらさん(20)は、プロジェクトで支援している生徒の親戚が家族ごと強制送還されてしまった話を聞くという。「『ルールを守らない外国人は要らない、出て行け』といったような、以前はごく一部の人たちの発言だったものが、ゼロプランを通して一つの大きな意見として力を持ってしまったことに危機感を覚えている」と加藤さんは話す。
巻き添えになる子どもたち
強制送還の恐怖にさらされているのは、日本で生まれ育ち、親の出身国を知らない児童であっても同様だ。外国籍の小学生の教育に携わっている埼玉県南部の小学校に在籍する日本語指導教諭の吉田春陽さん(仮名)は、ゼロプランの施行以降、日本生まれの教え子の2人が家族の強制送還に伴って日本からの出国を余儀なくされたと語る。
そのうちの一人、8歳のクルド人女児は、2年生時に吉田さんの日本語教室に転入してきた。吉田さんは、児童に対して鉛筆の持ち方から生活習慣、児童の家庭への援助に至るまで、本来の日本語を教えるという職務の枠を超えた生活サポーターのような形で指導してきた。今春4年生になるはずだったが、突然父親が強制送還されてしまい、それに伴って母親とともに今年の1月初めに日本を出国したのだった。
吉田さんは、帰国後も児童を気にかけて、電話するなどして連絡を取っている。「気持ちが落ち込んでいるから、話しかけても全然言葉が出てこない。ママによると家でもそうらしい」。吉田さんは、精神的に追い込まれていく教え子の姿に深く胸を痛めた。
同僚教員が「ほとんど無関心」な中、外国籍児童たちを取り巻く現状を変えようと、今までに何度も法相や入管庁に対して、児童の教育を継続するため両親を保護し送還をやめるよう求める嘆願書を出したが、その願いは届いていない。
中身の伴わない学童受け入れ
家族の強制送還に伴って児童が除籍になってしまう際、吉田さんは他の先生に「おうちの都合で帰った」と説明してもらうという。ただ、それでも日本語教室の児童たちは皆、強制送還が理由であるとわかっており、その時の児童たちの不安な様子が強く記憶に残っている。そして、次は自分かもしれないと思っている子もいるのだという。
そして、「もう学校に行ってもしょうがないよね。だってどうせ俺も帰るんだもん」と自暴自棄になる教え子たちの声を吉田さんは幾度となく耳にしてきた。吉田さんは「何の罪もない子を傷つけることはしてはいけないと思う。教育現場で受け入れながら、子どもに嫌な思いをさせている教育って一体何なのだろう」と感じるという。
現行の制度では、子どもの権利条約などに基づき、在留資格がない子でも公立学校に通うことができる。しかし、吉田さんによると、実情としては学校や担当職員の裁量に任せられていることが多く、システムとしては成り立っていないという。
取材を通じて、不安定な立場の外国籍の人を敵視するかのような風潮と制度運用のもと、日本国籍の子と同じように学校で学んでいる児童生徒まで排除している私たちの社会の一面が見えてきた。その一方で、日本で生活し、学びたい外国籍の子どもらを支援する学生たちや先生の存在がそこにあった。それを美談にせず、彼らを社会全体で支えていく仕組みづくりが必要だと感じた。