高市首相ワシントン同行記者が見たウラ側 熱烈ハグ「ドナルドだけ」までの激動5日間

イラン情勢が緊迫化する中、日米首脳会談まで残り5日となった3月14日。日本政府を揺るがしたのは、トランプ大統領の「日本にも艦船派遣を期待する」との投稿だった。高市首相は、「憲法の壁」を背負いながら、いかにしてトランプ氏の懐に飛び込んだのか。政府専用機内でも重ねた推敲、ホワイトハウスで見せた熱烈ハグ、そして会談冒頭で放った“決めゼリフ”。高市外交の舞台裏を解説する。(政治部官邸キャップ・矢岡亮一郎)
3月14日午後11時4分、トランプ大統領の投稿が、太平洋を隔てた日本政府関係者にも衝撃を与えた。
One way or the other, we will soon get the Hormuz Strait OPEN, SAFE, and FREE! President DONALD J. TRUMP
いずれにせよ、我々はまもなくホルムズ海峡を「開放」し、「安全」で「自由」な状態にする! ドナルド・J・トランプ
Hopefully China, France, Japan, South Korea, the UK, and others
トランプ氏は投稿時、とりわけ声高に主張する際、大文字を好んで使う。日本を名指しして、イランが事実上封鎖するホルムズ海峡を開放し、安全で自由な航行ができるよう、強く求めた。
そもそも当初は、トランプ氏の中国訪問を前に「日本政府の中国への立場を改めて打ち込みに行く(外務省関係者)」ことが首脳会談の主眼だった。イラン情勢が緊迫化しても、3月上旬の段階である政府関係者は「日本が特別に貢献を求められる感じはない」と語っていた。
通常の日米首脳会談は、事務方がシナリオを描き、当日は大統領と首相による“セレモニー”になることが多い。しかし、トランプ大統領の投稿で、そのシナリオは一気に練り直しを迫られることとなった。政府関係者の一人はこう唸った「前代未聞の日米首脳会談になる」。
16日午後6時、首相官邸に、7時間の国会出席を終えた高市首相と官邸・外務省などの幹部が集まった。かつて安倍外交を牽引し、高市首相の信頼も厚い秋葉内閣特別顧問も加わった。この会議で「法的に出来ること出来ないことをしっかり伝える」との大方針が固まった。
出席者によれば「とにかく耐えるしかない」との意見も出たという。翌日の国会で高市首相は「法的に可能な範囲で何ができるか、精力的に政府内で検討している」と答弁した。
ところが。日本政府が出来うる対応の洗い出しに必死になる中、18日午前0時18分、トランプ氏は一転「支援は必要ない」と表明する。NATOなどから思い通りの協力を引き出せなかったからか、“逆ギレ”したかのような投稿だった。これに日本政府関係者からは「撤回とは全く思っていない」「トランプ流の駆け引きの一環かもしれない」との受け止めが相次いだ。
この日、高市首相は朝10時から国会での予算審議に約5時間出席。官邸に戻ると午後6時前からシンガポール・ウォン首相との首脳会談に臨み、合間には訪米前の打ち合わせもねじ込んだ。そして夜、10時12分、いよいよ高市首相を乗せた政府専用機が日本を出発した。
機体が水平飛行に入ると、ほどなくして首相は、随行員・記者団が座る機体後方に姿を見せた。外国訪問に向かう首相が、出発後の機内で挨拶に回ることは慣例。笑顔で一人一人と目を合わせ、リラックスした表情で「テレビで見てますよ」などと記者に語りかける場面もあった。
高市首相はこの後、国益をかけた首脳会談に向け、スイッチを切り替える。ワシントン近郊の空軍基地まで約13時間のフライト。機内の個室で、トランプ大統領に語りかける自身の原稿に、ペンを入れたという。首相は、国会答弁や自身の演説にじっくりペンを入れるこだわりを持つ。何をトランプ大統領に語りかけるべきか、機内で寸暇を惜しんで推敲を重ね、後述する“決めゼリフ”も固まった。
18日米東部時間午後10時前、政府専用機がアンドルーズ空軍基地に到着。実はこの機中で、ホワイトハウス側からの最新情報が首相一行に入った。当初、提案があったワーキングランチ(昼食会)と晩餐会の2回の食事のうち、ワーキングランチは取りやめるとの意向だった。
大統領の日程は“奥の院”と言われる首席大統領補佐官が管理する。内政から外交までを統括し、政権運営は内政中心に動く。外交日程は、直前まで確定しないことも多い。
当初、午前11時15分から45分までの30分間予定だった首脳会談を、1時間予定していたワーキングランチを取りやめることで拡大、首脳会談を当初の3倍の1時間30分かけて行いたいとの米側の申し出だった。政府関係者によれば、トランプ大統領の強い意向が働いたという。
首相周辺は「食の細い高市首相にとって、ランチ取りやめはラッキーだった。お陰で投資案件についても十分に話せた」と振り返る。高市首相は午後10時半すぎ、ホワイトハウスに隣接する要人の宿泊施設「ブレアハウス」に入った。
19日午前11時9分、高市首相は車列でホワイトハウス敷地内に到着。大統領警護隊が慎重にドアを開けると、出迎えたトランプ大統領に駆け寄ってハグをした。両手を広げて抱擁するトランプ大統領。首相周辺は「総理のハグを見た瞬間に、成功したと思った」と振り返った。
午前11時37分「オーバル・オフィス」と呼ばれる大統領執務室。暖炉の前に並べられた椅子に、トランプ大統領と高市首相が腰掛け、首脳会談がスタート。記者団は部屋の外で待機させ、招き入れるまでの5分間、トランプ大統領は、高市首相に、衆院選での圧勝を称える言葉を贈ったという。
11時42分、米メディア・日本メディアの記者やカメラマンが執務室になだれ込む。トランプ大統領は会談冒頭、カメラに向けて自由に発言することも多い。果たして自衛隊派遣要請はあるのか、注目の「冒頭撮影」が始まった。
しかし、ここでもトランプ氏は再び、高市首相の“選挙大勝”を称えた。「私が支持を表明していたことを大変誇りに思う」。トランプ氏は日本の衆院選の期間中、自身のSNSに高市首相を支持する投稿をしていたが、それが高市首相を歴史的大勝に導いたと言わんばかりに賞賛した。「非常に人気があり、力強く、素晴らしい人物だ」
これに呼応するように、高市首相は、機内で練り上げた決めゼリフを紡ぐ。「世界に平和と繁栄をもたらすことができるのは、ドナルドだけ。きょう私はそれを伝えにきた」。トランプ氏は、満面の笑みを返した。
カメラの撮影が始まってから、10分ほど。大統領は「Any Question?」と記者に質問を促した。日本政府が、最も警戒する時間帯に入る。米メディアの記者は、すかさず核心に迫った。「掃海艇も含めて、イランの問題への日本の支援に満足しているのか?」。
するとトランプ大統領は「彼らは本当に役割を果たそうとしてくれている」さらに「NATOとは違って」と日本を評価してみせた。トランプ大統領が、ホルムズ海峡への艦船派遣で否定的見解を示した欧州各国と、「法的にできることを検討する」とした日本への評価を鮮明に分けた瞬間だった。
公開された約30分間でトランプ大統領は日本に「日本のより積極的な貢献に期待する」とも述べた。カメラ退出後、会談の出席者によれば、高市首相は“正式な停戦合意までは自衛隊の派遣は難しい”との認識を伝え、トランプ大統領も日本側の説明に理解を示した。また複数の政権幹部は、高市首相が自衛隊の派遣は難しいと説明する際に、憲法9条の制約にも触れたという。
ただトランプ大統領は会談後、米FOXニュースの取材の中で「日本には憲法上の制約がある」としつつ「アメリカが必要とあれば支援してくれるだろう」「日本はNATOよりも優れた同盟国だ」とまで語り、日本の「貢献」に強い期待感を示している。
政権幹部の一人は語る。「この戦争は大失敗だ。イランの体制転覆なんて無理なのだから、早く収めた方が良い」「いま日本が考えなければならないのは、今回の戦争は、日本としてアメリカ・イスラエルと一緒に戦うべき戦争なのか。協力すべきなのか。そこを考えるべきだ。私は違うと思う」