売買春に対する規制の見直しについて議論する法務省の有識者検討会が24日、始まった。現在の売春防止法は「売る側」の勧誘行為を罰する一方、「買う側」への罰則がない。「買う側」の勧誘行為を処罰すべきかが最大の焦点となる。
12日夕、東京都新宿区歌舞伎町にある区立大久保公園周辺の路上には数メートルおきに若い女性が立ち、時折、道行く男性に視線を向けていた。この日は警視庁による取り締まりが行われ、20歳代女性が同法違反容疑で現行犯逮捕された。法務省によると、客待ちや勧誘をしたとして、全国の検察が受理する同法違反事件は年300件を超すという。
同法は、「売春は人としての尊厳を害し、社会の風俗をみだすもの」と定義し、金銭などを得て不特定の相手と性交する行為を禁じる。売る側が公衆の目に触れる場所で客待ちや勧誘をすれば、「6月以下の拘禁刑または2万円以下の罰金」を科す。だが買う側に対する罰則がなく、昨年の国会で「不均衡だ」などと問題視する声が相次いだ。同11月、高市首相が平口法相に見直しの検討を指示していた。
小野沢あかね・立教大教授(日本近代史)によると、戦前の日本には、特定の業者が女性に性を売らせることを公認する「公娼制度」があり、吉原を始めとした遊郭が全国に存在していた。1946年、日本の民主化政策を進めるGHQ(連合国軍総司令部)の命令で同制度は廃止され、56年の同法制定により、売春禁止が明確に示された。
同法は売買春自体に罰則を設けていない。同法成立の過程で、「国家権力が男女の機微に触れる私生活にまで入り込むと、人権侵害の恐れがある」との声が出たためだ。当時、売春が社会の風紀を乱しているとの認識が強く、男性の買春は当然視されていた。結局、売る側の勧誘行為だけに罰則を科し、買う側は不問とする法律ができあがった。
ただ、売る側の女性には貧困や虐待による生活苦、悪質ホストクラブに対する借金返済などの深刻な事情がある場合が少なくない。
小野沢教授は、刑法の性犯罪規定の厳格化などを念頭に「近年の性平等の視点から買う側の処罰は必要だが、売る側を処罰せずに保護してその自立を支援することが不可欠だ。売春の定義が性交のみを指すのも問題だ」と指摘している。
検討会は法曹三者や学者ら11人で構成され、法務省によると、24日は委員から、▽買う側の勧誘行為も処罰すべきか▽法定刑が適切か――などについて議論する必要があるとの意見が出た。同省は早ければ、今秋の国会への法案提出も視野に入れる。売買春自体も処罰対象とするかにまで論点が広がれば、議論が長期化する可能性もある。
売買春に対する規制は国によって大きく異なる。法務省刑事局の調査などによると、米国ニューヨーク州とネバダ州は原則、売買春自体と勧誘行為をいずれも処罰する。フランスやスウェーデンは売る側は処罰せず、買春とその勧誘を処罰対象とする。買春を女性への性暴力とみており、売る側を被害者と捉え、保護や支援が必要だとの発想が根底にあるとされる。
ドイツやオランダは処罰規定が存在しない。性の売買が他の職種と変わらない「労働」として認められているためという。