脳腫瘍を患った名古屋市東区の北澤一生さんは昨夏、18歳で息を引き取った。2年間の過酷な闘病中も、笑顔を絶やさなかった生き様を多くの人に知ってほしい。そう思う友人らが絵本製作に取り組んでいる。
タイトルは「ありがとうのたね」。森の中で広がった病にかかった主人公「いっちゃん」は泣き言を言わない。お見舞いに来た動物たちに「ありがとう」とほほえみ、大切な種をプレゼントする。動物たちが種を植えると森に笑顔が戻り、強くて優しい木が育つというストーリーだ。
製作に取り組むのは、愛知県尾張旭市の看護師、中口めぐみさん(50)と息子たち。一生さんの母、美穂さん(54)の友人で、入院中も頻繁に見舞うなど闘病生活をそばで見てきた。
一生さんは高校1年の時、脳腫瘍と診断された。一度は寛解したが2年後に再発、進行が早く歩行は難しくなった。抗がん剤の影響で髪の毛は抜け落ち、食事が取れない日が続いた。嘔吐(おうと)を繰り返し、足の痛みがひどく、眠れない日もあった。それでも気持ちが乱れることはなく、いつも周囲に「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えていた。
ホスピスでの勤務経験もある中口さんは、「身体的な苦痛もあるなか、どうしたら穏やかで優しくいられるのか。最期まで笑顔を通せる人は、本当に少ない」と振り返る。
絵本のイラストは、中口さんの三男で大学1年の晴貴さん(19)が担当する。一生さんと直接の交流はないものの、「文章で伝わらないことを、絵で補って伝えたい」と意気込む。
子どもたちに伝わる表現にしようと、中口さんは小学4年の四男らと相談しながら思案中。病気と闘う子どもや一生さんが通っていた高校や図書館に絵本を寄贈したいという。絵本のPR費用などを30日まで、クラウドファンディングで募っている。美穂さんは「多くを語らなかった息子の生き様が誰かの未来を照らす力になればうれしい」と話している。【酒井志帆】