高支持率を維持しながらも、政権の足元では“きしみ”が広がっている。高市早苗首相が主導した電撃解散は歴史的大勝をもたらした一方で、党執行部との間に深い溝を残した。「みんな怒り狂っていた」と語られるほどのコミュニケーション不全──。さらに派閥という後ろ盾を持たない統治スタイルのもと、水面下では「ポスト高市」をにらんだ再編の動きも始まっている。高支持率の陰で進む“菅政権化”の実態とは?
【画像】「反高市派グループ結成か」とも報じられた自民党の議員
首相官邸サイドと党執行部「うまくっているとは言い難い」
「首相官邸サイドと党執行部のコミュニケーションは、うまくいっているとは言い難い」
自民党関係者は高市政権の発足後、党ナンバー2である鈴木俊一幹事長をはじめとする執行部との距離感を懸念する。実際、首相は1月の通常国会冒頭での衆院解散・総選挙の意向を事前に執行部と共有しなかった。
言うまでもなく、解散権は「首相の専権事項」とされるが、選挙は幹事長が取り仕切るものだ。
4月6日の参院予算委員会で首相はこのように述べている。
「通常国会が開いたら早い時期に解散を考えているということは、(連立パートナーの日本維新の会・吉村洋文代表に)伝えましたが、何日に解散するということは伝えていません」「自民党の執行部にも伝えていなかったので、みんな怒り狂っていた」
あくまでギリギリまで考え抜いた末の判断だったと強調する首相だが、その言葉通り受け取る者は政界で少ない。
首相は4月10日になって自民党の麻生太郎副総裁や鈴木幹事長、萩生田光一幹事長代行を官邸に招き、1時間ほど昼食をともにしたが、これも党執行部側とのコミュニケーション不足を痛感していたからだろう。
政権発足から半年が経つが、高市首相誕生の立役者である麻生氏らとの会食が昨年12月以来2度目という少なさも気になるところだ。
たしかに1月の電撃解散で総選挙は歴史的大勝を果たし、衆院側は自民党単独で過半数を大きく上回る。だが、参院では自民会派と日本維新の会を足しても過半数に足りない。
高市氏と年度内成立をめぐりゴリ押し要求された党執行部との亀裂
首相の強い意向を受けて衆院では2026年度当初予算案を異例の審議スピードで通過させたものの、少数与党である参院自民党は丁寧に審議時間を積み上げることを優先し、予算成立は年度をまたいで4月7日にずれ込んだ。
首相は「つなぎ予算」としての暫定予算編成に不満だったというが、総選挙圧勝で「万能感」を得たような高市氏と年度内成立をめぐりゴリ押しを要求された党執行部との亀裂は残る。
歴代政権を眺め、筆者が感じるのは菅義偉内閣との類似点だ。菅氏は史上最長の長期政権となった安倍晋三内閣で官房長官を務め、辞意表明した安倍元首相の後継として自民党総裁選で勝利。2020年9月に第99代内閣総理大臣に就いた。
安倍政権時代の路線を引き継いだことも評価され、当時の読売新聞の世論調査(2020年9月19、20日実施)によれば発足直後の内閣支持率は74%と歴代3位の高水準だった。政党支持率も自民党は47%にまで上昇し、2013年4月の48%に次ぐ高さになったほどだ。
読売新聞が昨年10月21、22日に実施した世論調査を見ると、高市内閣発足直後の支持率は71%で歴代5位の高さとなった。以降も高支持率は続き、今年の総選挙直後の各種世論調査でも6~7割の高水準を維持している。女性や無党派層に好感されていることが特徴的と言える。
絶対的な「後ろ盾」なくして求心力を保つことは困難
ただ、菅氏も高市氏も自前の「派閥」を持たず、無派閥議員として内閣総理大臣に就任している。自民党派閥をめぐる「政治とカネ」問題をきっかけに派閥そのものは麻生派を除き解散されることになったが、派閥という「後ろ盾」がなければ数がモノを言う政界において基盤が脆くなりやすい。
もちろん、派閥という単位ではなくとも菅氏はグループを率い、高市氏も思想・信条をともにする側近たちに支えられる。とはいえ、高支持率があるうちは良くても下落が続いたり急落したりする事態を招けば、絶対的な「後ろ盾」なくして求心力を保つことは困難になるのが永田町の常識だ。
実際、菅政権は高い支持率を得て発足したものの、新型コロナウイルス対応などをめぐり国民から「NO」を突きつけられ、支持率の低迷が続いた。自民党総裁任期や衆院選が迫る中で「不人気宰相では戦えない」との声が党内で急速に広がり、内閣改造や党役員人事の刷新も果たせず退陣を余儀なくされている。
「我こそが、安倍晋三元首相の継承者」
派閥以外の議員を側近として内閣や党幹部に配置し、個人的な「縦」の繋がりを重視する傾向も菅、高市両氏に共通する。加えて、安倍政権時代の流れをくむ議員やスタッフたちを周囲やアドバイザーに置く流れも同様と言えるだろう。それは「我こそが、安倍晋三元首相の継承者」と自負しているからに他ならない。
だが、安倍氏は当時の党最大派閥「清和政策研究会」という後ろ盾があった上、保守政治家の代表格として派閥横断的な支援グループも存在していた。その両輪が政権基盤を安定させることに大きく寄与していた点は菅、高市両氏と大きく異なる。
2月の総選挙で大勝した自民党内では「派閥再結集」の動きが活発化している。4月頭に旧二階派のメンバー約20人が会合を開き、武田良太元総務相を中心とする塊を目指すと報じられたほか、「ポスト高市」を狙う小林鷹之政調会長の下には若手・中堅議員らが集まっている。
旧岸田派の林芳正総務相や石井準一参院議員らも自らの側近たちと会合を重ね、グループとしての「塊」を意識した動きを見せる。
支持率は依然として高いが「下落トレンド」に
こうした流れは高市首相にとって「後の脅威」となり得るものだろう。今秋に予定される内閣改造や党役員人事、さらには内閣支持率が低迷した際に「親高市」となるか、「非高市」となるかで政権運営は全く異なる状況を迎えることになる。
高市首相は2月の衆院選で「私か、私でないか」を国民に問うたが、最近は首相の党内外に対する姿勢も同様だ。自らを全面的に支持するのか、それ以外なのかを仲間である自民党議員や官僚たちにも迫っているように映る。
足元の各種世論調査を見ると、高市内閣の支持率は依然として高いものの、下落トレンドに入っている。毎日新聞が3月28、29日に実施した調査で支持率は前月に比べて3ポイント減の58%となり、2カ月ぶりに60%を割った。不支持率は28%だ。
共同通信の調査(4月4、5日)は支持率63.8%で前回調査から0.3ポイント減となり、不支持率は前回から2ポイント増の26.0%となった。JNNの調査(4月4、5日)も支持率71.5%で0.3ポイント減だった。
もちろん、下落率は誤差の範囲と言えるレベルものであり、いまだ高水準にあるのは変わらない。ただ、菅内閣が新型コロナ対応などをめぐり支持率が急落したことを踏まえれば、最近の物価上昇やイラン情勢の悪化などを起因とした変動がいつ起きても不思議ではない。
「支持率頼りの政権運営」は瓦解しかねない
内閣支持率や自民党の政党支持率が高くても、3月の石川県知事選や市長選では自民系候補が連敗していることも気がかりだ。
高市首相は、安倍元首相の「後継者」として憲法改正や靖国神社参拝などを保守層から期待されてきた面もある。だが、最近は現実路線に舵を切るシーンが目立ち、歴代政権が踏み込むことができなかった大胆な決断や政策転換を果たせているとは言い難い。
こうした言動にはコアな支持層からも「期待外れ」の声が上がるのは当然だ。政権の物価高対策に対する国民の評価も低迷しており、消費税減税の早期実現も遠ざかっていけば、カギを握る無党派層や女性の支持も離れて「支持率頼りの政権運営」は瓦解しかねない。
高市首相は1月の記者会見で「国論を二分するような大胆な政策、改革に批判を恐れることなく、果敢に挑戦していくためには国民の信任も必要」と述べて衆院解散を断行したが、政権発足から半年が経つ今もその中身やスケジュールは明らかではない。
2026年度当初予算は成立したものの、「サナエノミクス」と呼ばれる経済政策によって国民生活が良い方向に変わったと感じる向きも少ないのではないか。
虎視眈々と「ポスト高市」を狙っている面々
若年層や女性に人気の高市首相だが、これからの物価高対策や消費税減税のスケジュール、所得向上策で国民の期待を裏切ることになれば、菅内閣と同じ轍を歩む可能性も否定できない。
支持率の動向に加え、今秋に予定される内閣改造・党役員人事でどのような人選をするのかも重要な要素となるだろう。
衆院選で歴史的大勝を果たした高市首相は、2028年の参院選までに衆院を解散しなければ大型国政選挙を経ずに政権運営を続けられる「ゴールデンタイム」を手に入れた。だが、激動の国際情勢や物価上昇への対応などに躓けば「期待」は「失望」へと変わり得る。
その時、虎視眈々と「ポスト高市」を狙っている面々が一気に浮上し、次の宰相選びに向かって動き出すことだろう。支持率頼みの政権運営は「退場」への恐怖と闘い続けることになりそうだ。
文/竹橋大吉