“音楽外交”も定着? 高市首相ベトナム・豪州訪問のウラ側

大型連休を利用してベトナム・オーストラリア両国を訪問した高市早苗首相。政権発足から半年が過ぎ、首脳会談でたびたび登場する「音楽」の話題や出張先でのスケジュールなど、徐々に「高市外交」のスタイルが見えてきた。ベトナムで発表した新たな外交方針の評価や課題もまじえ、訪問のウラ側を紹介する。
5月2日にベトナムで行われた、高市首相とラム書記長兼国家主席との昼食会。終了後、今回の海外訪問に合わせて首相官邸が試験的に立ち上げた内閣広報室のX(旧Twitter)アカウントにある画像が投稿された。それは昼食会で演奏された音楽のリスト。中でも目を引いたのが、イギリスの伝説的ロックバンド「DEEP PURPLE(ディープ・パープル)」の名曲「Burn」だった。ハードロック好きの高市首相が、学生時代からコピーバンドを組んでいたというお気に入りのバンドだ。同席した政府関係者によると、実はこの時は、時間の都合などで「Burn」は演奏されずに終了。ただ、夜に開かれたフン首相主催の夕食会では、同じく高市首相が敬愛するロックバンド「X JAPAN」の名曲「Rusty Nail」が演奏されたという。ベトナムメディアは、ドラム演奏が趣味の高市首相が、フン首相の勧めでベトナムの伝統的な太鼓を体験する様子も報じた。
これまで韓国の李在明大統領との「ドラムセッション」など、音楽を通じた首脳との交流が話題になってきた高市首相。4日に行われた豪州での一連の会談にも、音楽の話題がちりばめられた。高市首相のXによると、モスティン連邦総督への表敬を終えた帰り際には、「DEEP PURPLE」の「Woman from Tokyo」が流れたという。また、音楽好きのアルバニージー首相とは、お互いがレコードを贈呈。首相からは、BABYMETALなど邦楽アーティストのレコードが。アルバニージー首相からは、豪州を代表するロックバンドで「AC/DC」のサイン入りドラムヘッドとレコードが贈られた。
安倍元首相が、趣味のゴルフをプレーしながらトランプ米大統領と親交を深めた逸話は知られているが、高市首相周辺は「ロック好きの外国首脳は意外と多い」と指摘する。高市外交では、首脳同士の信頼関係を深めるツールとして音楽が登場することが定番化してきたようだ。
今回のベトナム・豪州訪問は、両国の距離が離れていたこともあり、5日間の訪問日程のうち、移動がまる3日。両国での会談などの行事は実質的に1日ずつとなり、同行する関係者からは「かなり余裕のあるスケジュール」という感想も聞かれた。一方で、首相周辺からは「日程はゆったりしているかもしれないが、1日1か国、じっくりと会談し、今後に向けた信頼関係構築ができた」との評価も。国際会議への出席では、会議の合間に個別国との首脳会談を入れ込むなど分刻みのスケジュールになることも珍しくない。歴代の首相経験者は「海外訪問は日程がタイトだ」と口をそろえる。高市首相の場合、個別国の訪問では今後、こうした「じっくり」スタイルが定着していく可能性もある。
一連の日程のハイライトのひとつは、2日にベトナムで行われた首相の外交演説だった。2016年に当時の安倍首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を、厳しさを増す国際情勢に対応させる形で進化させると表明。各国が連携して経済安全保障を強化する方針を打ち出した。それぞれの国が経済・社会・安全保障のあらゆる面で、特定の国に過度に依存しない「自律性」「強じん性」を身につけることが不可欠で、同志国と連携することで、インド太平洋地域全体が「共に、強く豊かに」なると訴えた。
今後のポイントになるのは、同盟国であるアメリカとの連携だ。第一次政権ではFOIPを外交戦略に取り入れたトランプ大統領だが、第二次政権では関税措置やイランへの攻撃など、FOIPが掲げてきた「法の支配」などの価値観と相いれない動きが続き、「力による威圧」に傾斜している感がある。首相は外交演説の中で、アメリカについてほとんど触れなかった。これについて、与野党からはさまざまな評価が出ている。「アメリカの現状を見ながら、何も言わないのは外交戦略としてありだと思う。言ってもトランプ氏を怒らせるだけだ」(閣僚経験者)、「アメリカが不安定であること前提に、日本が各国の連携強化の橋渡しをやるという趣旨で、行間を読めばアメリカのことを言っている」(自民党幹部)と評価する声。一方で、「イランとの関係を考えて、アメリカを刺激しないよう言及を避けたのだろう」(野党若手)、「対中戦略ですら、アメリカと歩調が合うのか微妙な中、FOIPの名の下に、アメリカも含めて西側諸国が集うのは難しいのではないか」(政府関係者)と厳しい評価もある。今後、高市政権にはアメリカも含め、各国に新たなFOIPの考え方を浸透させ、実務的な協力を具体化していくことが求められる。