高市政権半年、「咲き誇る外交」の現実 「ホルムズ海峡危機」で問われる指導力、停戦が実現しなければ経済政策も…

高市早苗首相は4月21日で就任から半年を迎えた。就任時に掲げたのは「世界の真ん中で咲き誇る外交」。故・安倍晋三元首相の路線を継承した力強いスローガンだった。 だが、足元の外交を見るかぎり、その言葉とは裏腹に積極性よりも慎重さが前面に出ているようにも映る。ホルムズ海峡への掃海部隊の派遣が、政権運営上の焦点に浮上する可能性がある中、実像はどこにあるのか。首相の外交姿勢を探った。(共同通信編集委員兼論説委員=内田恭司)
▽パリ会合での温度差
イラン情勢が緊迫度を増す中、パリのエリゼ宮(フランス大統領府)には多くの政治指導者が集まっていた。共同議長を務めるフランスのマクロン大統領と英国のスターマー首相、さらにドイツのメルツ首相やイタリアのメローニ首相らの姿もあった。
英仏両国が主導して4月17日に開かれたこの有志国会合には、オンライン参加を含め約50の国・国際機関が参加し、うち30以上が国家元首や首脳級だった。 しかし、その中に日本の首脳の姿はなかった。 高市首相はメッセージを寄せただけで、会合そのものは欠席したのである。しかも、代理として出席したのも閣僚ではなく、市川恵一国家安全保障局長だった。
会議の主要テーマは、ホルムズ海峡の通行再開と「航行の自由」の回復だった。米イラン間の戦闘終結合意を想定し、必要となる機雷除去や多国籍部隊の派遣など、実務的な対応をどう進めるかを協議する、極めて重要な場だった。
そもそも、この枠組みづくりには、日本も深く関わっていた。3月20日に米ワシントンで開かれた日米首脳会談の直前、日本は英仏など計7カ国で、ホルムズ海峡の「航行の自由」回復を掲げる共同声明を出している。 日本政府関係者によると、トランプ米大統領が日本や欧州連合(EU)主要国に軍事的貢献を強く求める中で、「日本も英仏と歩調を合わせて枠組みづくりに動いた」という。 その後、英仏は欧州やアフリカ諸国に、日本はアジア太平洋地域の国々にそれぞれ賛同を呼びかけ、参加国の輪を広げていった。オーストラリアや韓国などが加わって20カ国となり、さらに40カ国、50カ国へと拡大したのが今回の枠組みだ。
米国防総省が4月21日にX(旧ツイッター)に投稿した、イランに関連して制裁を受けていたタンカーを米軍が臨検する映像
▽高市首相は仲介役を担わず
当初は、国連安全保障理事会決議か国連総会決議を根拠に、ホルムズ海峡の通行再開に向けた活動を行う構想も描かれていた。日本にとっても決議を踏まえ、ホルムズ海峡の現況が2015年制定の安全保障関連法に基づく「国際平和共同対処事態」と認定されれば、国連の名の下に自衛隊を派遣できる道が開ける。
だが、安保理決議は中国とロシアが拒否権を行使したため頓挫した。そこで英仏は、決議を待たず「有志国による国際公共財(ホルムズ海峡)の保護」という立て付けで進めようとしているが、高市首相はこの枠組みに積極的に関与する道を選ばなかったのだ。
首相の「消極姿勢」はこれに限らない。
日本はイランとの伝統的な関係を維持しており、米国とイランの双方と対話できる数少ない国の一つだ。 にもかかわらず、首相は停戦やホルムズ海峡の開放に向け、両国の仲介役を買って出なかった。その役割を担ったのはパキスタンのシャリフ首相だった。
▽外交が好きではない?
なぜ高市首相は存在感を示そうとしないのか。
永田町で指摘される「外交がそれほど好きではない」という見方も、あながち的外れではないのかもしれない。歴代首相は5月の大型連休に精力的に外遊することが多いが、高市首相の訪問先はオーストラリアとベトナムにとどまった。 政府関係者によると、首相はいくつもの国を訪れる歴訪スタイルに難色を示していたという。訪米の疲労が尾を引いていたようで、そのため日程調整が大幅に遅れ、外務省は気をもんでいた。
そもそも就任後半年で、国際会議への出席を除けば、海外訪問は先の米国1回だけだ。その訪米では「トランプ氏と個人的な信頼関係を構築した」(首相)としているが、イラン情勢がここまで緊迫しているにもかかわらず、訪米後の1カ月間で電話会談は一度も行っていない。 さらにこの間は、首相が親密さをアピールしたメローニ氏をはじめ、先進7カ国(G7)の首脳の誰とも個別で電話会談をしていない。
4月25日、米東部メリーランド州のアンドルーズ基地で手を振るトランプ大統領(ゲッティ=共同)
▽「米国抜き」の枠組みを警戒
これでは「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」とは言えないと首を傾げる向きが出てくるのも当然だろう。
だが背景を探ると、ホルムズ海峡の航行の自由を巡る有志国連合への対応に関しては、もっと根源的な理由も見えてくる。
国際的な枠組みの構築自体は重要だが、英仏両首脳はすでにトランプ氏と深い溝を抱えており、有志国連合は「欧州主導による米国抜きの枠組み」という色彩が強まっている。実際、米国はこの会合に参加しなかった。 従って、日米同盟を外交の基軸とする日本としては、「米国が参加しない枠組みに首脳級で関与するのは慎重であるべきだ」(自民党の外相経験者)という判断が働いたのだという。
枠組みそのものへの懐疑的な見方も少なくない。イランによる攻撃で直接の被害を受けているサウジアラビアやカタールも、首脳級では参加しなかった。
高市首相の姿勢に影響しているのは、英仏が米国とは一線を画す有志国連合を構想する一方、米国は米国で、停戦後を見据えて自ら主導する枠組みを形成しようとしているという構図だ。日本には、この米欧の主導権争いに巻き込まれないようにする思惑もあるだろう。
▽求められる「高度なバランス外交」
では、日本はどう動くべきなのか。
日本は原油の9割、石油関連製品であるナフサの4割をホルムズ海峡経由で輸入している。米イラン間の停戦合意が実現すれば、航行の自由の確保だけでなく、地域の平和と安定、秩序の回復のためにも積極的に貢献すべきだという認識は、与野党を問わずほぼ共有されているといってよい。35年前の湾岸戦争の「トラウマ」も今なお残る。
4月24日には、自民党の小林鷹之政調会長が「正式停戦後の掃海艇派遣を検討すべきだ」とする党の緊急提言を首相に手渡し、首相は「認識を共有している」と応じた。
政府関係者によると、日本政府は正式停戦後、「非戦闘地域」での遺棄機雷の除去や後方支援などに限定して、イランと敵対する米軍への「支援」とはならない形での自衛隊派遣を検討しているという。 同時に、「国際公共財」としてのホルムズ海峡の往来回復を目指す英仏との連携も図り、米国には「日本や英仏がそれぞれの役割を担うことは米国の国益にも資する」と説明して理解を得る。 そうした形で、日本が米国と英仏の橋渡し役を担う「高度なバランス外交」を模索しているという。
4月中旬以降、アラブ首長国連邦(UAE)やパキスタン、ニュージーランド、サウジアラビアなど、米国との関係が深い国々の首脳と電話会談を重ねているのは、その橋渡しに向けた幅広い環境整備の一環だろう。 6月15~17日にはフランス東部の山岳保養地エビアンでG7サミットが開かれる。ここではホルムズ海峡を巡る枠組みの調整が主要議題となり、日本の立ち位置を決める上で極めて重要な舞台になる可能性が高い。
高市首相は、ホルムズ海峡への依存度が極めて高い国の指導者として、サミット議長のマクロン氏らとともに、あくまでも自らの武力で秩序を再構築しようとする米国と、有志国連合による「国際公共財保護」の枠組みとを、G7としてどう融合させるのか、そのリーダーシップが問われることになる。 イランの核開発問題の解決スキームも必要であり、湾岸諸国への復興支援も避けて通れないだろう。トランプ氏の強硬路線の前に何もできず、貢献策も打ち出せないまま終わるなら、「世界の中心で咲き誇る外交」は看板倒れになりかねない。
中東情勢に関する関係閣僚会議であいさつする高市首相(右から2人目)=4月24日午後、首相官邸
▽長期化なら社会保障の議論に影響も
もっとも、ここまでの議論はあくまで停戦が成立した場合の話だ。停戦が実現せず、事態が長期化すれば、日本が置かれる状況は一段と厳しさを増すだろう。 原油や石油関連製品の供給制約に加え、国民に対する節約や行動制限の要請を迫られる可能性も否定できない。 その場合、日本経済はインフレどころかスタグフレーションに陥る恐れがある。高市政権には早期の2026年度補正予算案編成も求められるかもしれない。財政規律への不安が円安や長期金利上昇を招けば、日本経済は腰折れして政権そのものを直撃する。
すると、自身の経済政策「サナエノミクス」の推進や、もう一つの看板である社会保障国民会議の議論への影響は必至だろう。こちらについては、改めて論じてみたい。