高市自民が選挙で圧勝した原因は…やっぱり安倍さんのおかげでした ユーチューブ動画をAIで分析して見えたもの【データ・インサイト】

2月の衆院選は、自民党が戦後初めて定数の3分の2を単独で超える歴史的圧勝となった。後押ししたのが動画投稿サイトのユーチューブ。選挙戦の期間中には各党が動画に注力したが、高市早苗首相が出演する自民の広告動画は1億5千万回超も再生された。 ただ、よく見られた動画は政党や立候補者よりも、一般人ら「第三者」の投稿の方が圧倒的に多い。再生数上位1000件のうち、第三者の動画が9割弱を占めた。「第三者がトレンドを作った」と言っても過言ではないだろう。 試しに、第三者の動画の内容などをチャットGPTで調べてみた。すると、昨年7月の参院選と約半年後の衆院選で傾向は大きく変化していた。どういうことか。(共同通信=中田良太、堀内幸太郎)

▽再生数は9億回超 調査対象にしたのは、再生数が上位1000件の動画。衆院選と参院選で合計2千件になる。対象期間は、衆院解散の1月23日~投開票前日の2月7日、参院選は昨年の通常国会閉会翌日の6月23日~投開票前日の7月19日。 2千件の動画のうち、第三者以外の投稿元を取り除くと、衆院選が882件、参院選814件だった。総再生数は衆院選9億40万回、参院選は9億813万回に上る。内容の多くは、演説などの映像を数十秒~1分ほどに編集した「切り抜き動画」だった。 両選挙の第三者動画計1696件を解析したら、こんな結果になった。 ①参院選では、参政党に肯定的な動画が最多の184件。否定的な動画が最も多かったのは自民で、395件に上った。このうち、当時の石破首相が244件で批判、嘲笑されていた。 ②衆院選では自民の評価が「真逆」になった。324件が肯定的で、うち294件が高市首相を称賛したり、擁護したりしていた。最も否定的に扱われたのは中道改革連合で、284件だった。 ③同一チャンネルなのに、自民を巡る評価を変えたことも確認された。両選挙で動画が上位千位に入ったチャンネルは63あり、動画は参院選378件、衆院選279件だった。自民の評価は、参院選で肯定的1件、否定的188件。衆院選は肯定的81件、否定的29件だった。衆院選で最も批判の矛先になったのは中道で、97件だった。
ユーチューブにおける政党の評価
▽ユーチューブは「親安倍政権」? なぜ、自民の評価は激変したのか。 インターネット選挙に詳しいJX通信社の米重克洋代表は「首相の交代が大きい」と述べた上で、こう読み解いた。 「現状、ユーチューブは安倍政権に肯定的か否定的かが評価軸になっている。首相が故安倍晋三元首相と近かった高市氏か『アンチ安倍』の代表格とされる石破氏かで、評価が分かれた」 その上で「高市政権になって自民の評価が好転したのに伴い、批判の矛先は中道に移った」。 中道は衆院側の立憲民主党と公明党が合流し、結党した。立民は自民と対立してきたし、公明は高市氏が自民総裁になったとたんに連立を解消した。親安倍層がよく思わないのも納得だ。 参院選は、親安倍層から好意的に見られた参政が主役になった。JX通信社の調査では、2024年衆院選で躍進した国民民主党も好感度が高かったという。
JX通信社の米重克洋代表(同社提供)
▽なぜ「親安倍」? AIの解析結果を見ても、親安倍層の受け取り方がユーチューブの傾向に影響していそうだ。では、なぜ親安倍層の評価が影響力を持っているのだろう。 衆院選のデータを見ると、興味深い点がある。小選挙区について、単純に議席数だけを見ると、自民は小選挙区289議席の86%に当たる248議席を占めたが、合計の得票率ベースでみると、自民に入れた人は49%。半分に満たない。 一方で、ユーチューブに目を向けると、AI解析で「肯定的」と判定された動画は自民324件に対し、他党は計246件。動画の中で自民は1・3倍も「支持」されていることになる。 この点に関し、米重氏は次の2点を挙げる。 1点目は、ユーチューブを情報源とする若者ら現役世代の不満。一定数は物価高を受けた岸田・石破両政権の政策を評価できず「安倍政権は良かったが岸田、石破両政権はだめ」と考えていると分析する。 2点目は「保守系インフルエンサー」の長期的な発信だ。アベノミクスなどを支持した保守系言論人は、ネット動画の政治への影響力が高まる前から積極的に発信してきた。確かに、政治的発信をするインフルエンサーには、安倍政権や高市政権に好意的で、石破政権に批判的な人が少なくない。 米重氏によると、こうしたインフルエンサーの発信が、ネットを情報源とする現役世代に「刺さった」。その結果、ユーチューブは「親安倍」の地盤になったと見ている。 ユーチューブを選挙に影響するほどの存在に育てたのは、保守系言論人や利用者の活用だったのかもしれない。
ユーチューブチャンネル「ちんあなご」に投稿した動画をスマートフォンで映す男性=3月6日午後、東京都港区
▽「バズる政治家」選択 一方で、衆院選の期間中に動画を投稿した第三者たちは、必ずしも「自民支持」だから投稿したのではない。 「動画がバズる(多く再生される)政治家や政党を選ぶ」 こう語るのは「ちんあなご」というチャンネルを運営する東京都内の男性(60)だ。 衆院選で自民の動画を多数投稿。投開票日までに計約700万回再生された。名古屋駅で高市氏が手を振る動画は30万回を超えた。 一方、その半年前の参院選では、参政党を扱った。 理由は「最も勢いがあったから」 どの政党に関する動画を投稿するかは、交流サイト(SNS)などを見て決めるという。「共産党などの動画を投稿しても、再生数は上がらない」 ユーチューバーの多くが見ているのは収益だ。再生数に応じて広告収入が入る。ただ、再生1回の単価は高くない。 「ショート動画は1回1銭(100分の1円)程度。衆院選の収入は約7万円だった。撮影の交通費を考えれば、割に合わない」 このため、収益を増やすには再生数を稼げる動画の数を増やすしかない。男性は、投稿者の心理をこう説明する。 「バズった動画をまねて、同じ政治家や政党を扱う動画が増えていく」 ただ、「コンテンツ力が別格だった」という高市氏はともかく、よく見られている政党や政治家を扱えば何でもかんでもバズるわけではないらしい。男性は「演説より選挙カーを映した動画が再生されたこともある。何がバズるかは正確には分からないから、数で勝負する」とも語った。

▽選挙はビジネスチャンス ところで、ユーチューバーはなぜ選挙というテーマを選ぶのか。 「ちんあなご」チャンネルの男性の回答は明解だった。 「国政選挙は、国民の約半分が投票という形で参加するため、関心が非常に高い。こんなにバズりやすいイベントはない」 選挙はビジネスチャンス。この言葉を裏付けるようなデータがある。衆院選動画の再生数上位1000件の投稿元を調べると、第三者のチャンネルは計330。このうち、93件が開設されたのは、参院選の後だった。衆院選で積極的に発信していたチャンネルの3分の1は、その半年前には存在していなかったことになる。

▽予測できず「怖さ」も もちろん、収益目的ではないユーチューバーもいる。 自民を支持する九州地方の50代男性は「純粋な応援」として広告料が出ない方式で投稿している。この男性が投稿し、100万回近く再生された動画は、街頭演説で高市首相が救急車に配慮して「マイクは使いません」と声を張り上げた場面に「神対応」とテロップを付けたものだった。 これまで、他の選挙でも動画を投稿してきたが「高市さんは桁違いにバズった」。 自民大勝の一因は、首相に対するネット上の好感と見ている。 ただ、男性は、参院選と衆院選で自民の評価が真逆となったことには怖さを感じたという。 「批判的な動画の中にはデマや誹謗中傷もある。いつ、どの政党や政治家が矛先になるか分からない」
【取材後記】「ユーチューブ政治」の時代? 2005年、当時の小泉純一郎首相が郵政民営化を争点に臨んだ衆院選は、小泉氏が反対派への「刺客」を擁立するなどマスメディアの話題を独占し、自民を圧勝に導いた。小泉氏の政治スタイルは「劇場型」などと呼ばれ、印象論や善悪で民意に訴えかける手法は物議を醸した。 それから20年あまり。ネットを情報源とする層が増えた今、ユーチューブやSNSが与える印象が、民意に一定の影響を与えているように見える。 私たちは2024年の東京都知事選から、ユーチューブやSNSを解析してきた。回を重ねるごとに「ユーチューブ政治の時代が来た」との考えが大きくなっている。それを単純に問題だと断じるつもりはない。「小泉劇場」などの例では、新聞やテレビ報道の在り方も批判を受けてきたからだ。 データを通じてネット世論と向き合う作業は、マスコミの在り方を見つめ直す機会にもなっている。ユーチューブやSNSから学ぶことは多い。