―[その判決に異議あり!]―妻と不貞関係にあったと主張して、相手の男性に約800万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は夫の請求を退けた。判決を受け、裁判官評価サイト「裁判官マップ」では、担当裁判官に批判が殺到。評価平均は2.0まで下がった。“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「東京地裁不貞行為慰謝料請求訴訟」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。◆「キスや抱擁は不貞行為ではない」との判決報道に、評価サイトは大炎上!「妻とキスしたり抱き合ったりした男性を夫が訴えた裁判、『不貞行為にあたらない』と退ける判決──」 3月18日、そんなタイトルで『読売新聞』が報じた裁判を今回取り上げたい。 実はこの判決、記事中に担当裁判官の実名が晒されていたため、裁判官の評価サイト「裁判官マップ」が、担当裁判官を非難するコメントで大荒れとなった経緯がある。 しかし、民事裁判というのは、道徳に反した人を非難して「裁判官様」が不届きな人間にペナルティを与える場などでは決してない。それがきちんと理解されているのだろうか? と、こういう記事やその反応を見るたびに思う。 そもそも、士農工商の江戸時代とは異なり、今の日本では、裁判官が市民より上の地位にいるわけではない。民主主義国家では、裁判官は主権者たる国民の税金で働く国家公務員の一人であり、事実を認定し、それに法律を当てはめるというルーティンワークを国民になり代わってやっているにすぎない。そこが理解できないとこの国はいつまでも「お上(かみ)主権」のままである。◆よくある立証敗訴の裁判 不貞相手に対する慰謝料請求は、それが「不法行為」に当たれば認められるが、その判断は、行為の不当性と結果の重大性との相関で決まる。仮にキスや抱擁がまったくなくても、夫婦関係を破綻に導いたのであれば、その結果は重大だ。また、「不貞関係」が配偶者と不貞相手のどちらの主導で、どのような経緯で成立したのかもポイントになる。たとえば、夫が風俗店に通い続け、同じ風俗嬢と肉体関係を持ち続けたからといって、妻がその風俗嬢を訴えたりはしない。肉体関係やキス・抱擁の有無だけが決め手ではない、ということだ。 また、この事件では、夫が妻の過ちを許したかどうかも大きなポイントになる。貞操義務を負っているのは妻なので、一番悪いのは妻だ。だが、夫が妻を許している以上、不貞相手に対する慰謝料請求はもはや成り立たない──これが学説的にも通説になっていて、諸外国でもおおむね同じ発想がとられている。そうでなければ、夫婦が結託して不貞相手からカネを取る、「美人局」まがいのことも簡単にできてしまうからだ。