東大元教授「銀座のクラブではキスもできない」と不満語ったと贈賄側説明、「空気読んで」接待エスカレート

東大大学院の共同研究を巡る汚職事件で、贈賄側と教授側が癒着に至った経緯が東京地裁の法廷で明らかになった。東大の権威を利用し成果を出したい贈賄側が「接待」を示唆する教授側の「空気」を読み、接待がエスカレートしていった実態が浮かぶ。(貞広慎太朗)
「肌に悩む人たちを化粧品で救うのが夢だった。東大に嫌われたら終わりだと思っていた」
贈賄罪に問われた一般社団法人「日本化粧品協会」代表理事の引地功一被告(52)は今月26日の判決を前に取材に応じ、事件をそう振り返った。
共同研究の目的は、大麻の合法成分「カンナビジオール(CBD)」の皮膚疾患への有効性を証明すること。頼りにしたのが、皮膚科学の権威とされた東大大学院元教授の佐藤伸一被告(62)(収賄罪で起訴。1月26日付で懲戒解雇)だった。
検察側の冒頭陳述によると、引地被告は、CBDを含む化粧品を開発して利益を得ようと計画。知人を通じて接触した佐藤被告が共同研究を承諾し、2022年11月に共同研究を行う「社会連携講座」の設置が決まった。引地被告は、化粧品で利益が出れば、佐藤被告に分配する約束をしたという。
それから約3か月後の23年2月。引地被告は、佐藤被告と、部下だった東大大学院元特任准教授の吉崎歩被告(46)(同罪で公判中。退職)から「腹を割って話したい」と言われ、東京・有楽町の高級フレンチ店で会食した。
先月23日の被告人質問で引地被告は、佐藤被告からこの場で「講座を通すために難儀した」「過去には業者からクラブで接待を受けていた」と告げられたと説明。「空気を読まないといけないと思い、接待が始まった」と述べた。
検察側は冒陳などで、この会食以降、引地被告が佐藤、吉崎両被告に銀座の高級クラブなどで月2回程度のペースで「遊興接待」を繰り返したと指摘。1回あたりの支払いは平均で10万円を超えたとした。
接待はさらにエスカレートした。引地被告は被告人質問で「佐藤被告が『銀座のクラブではキスもできない』と不満を語る姿を見た」と説明し、ソープランドでの接待を提案するようになったと述べた。
接待は高級クラブが20回を超え、ソープランドは佐藤被告が6回、吉崎被告が7回に上ったとされる。
蜜月関係は、24年8月30日の飲食接待の場を機に暗転する。検察側は、佐藤被告が、共同研究の成果に基づく化粧品の収益化に見通しが立たないことを怒り「金を持って来ないと講座は終わり」「殺すよ」と引地被告に迫ったとした。引地被告が同年9月、警察に相談して事件が発覚した。
引地被告は23年3月~24年8月に、一連の接待で2人に約380万円相当の賄賂を提供したとして在宅起訴された。公判で起訴事実を認めた引地被告に対し、検察側は「自己の利益を確保するため、享楽的かつ性的な欲望を満たす低俗な賄賂を供与した」として懲役1年2月を求刑。弁護側は情状酌量を求めて結審した。
今月10日に読売新聞の取材に応じた引地被告は「講座を維持するには接待を続けるしかないと考えてしまった」と肩を落とした。
佐藤被告の公判期日は決まっていない。同協会などが佐藤被告らに接待を強要されたとして損害賠償を求めた訴訟で、佐藤被告側は、ソープランドに行ったことは認めつつ「協会代表者(引地被告)らが積極的に誘ってきたものだ」などと主張。高級クラブでの接待についても「求めたことはない」と争う姿勢を示している。
吉崎被告は先月の初公判で収賄の起訴事実を認め、今月22日に判決が言い渡される予定。
違反判明26件
今回の事件後、東大が全教職員を対象に行った学内調査では、利害関係者からの飲食提供や物品供与などの倫理規程違反が計26件あったことが判明している。
東大では、昨年11月にも医療機器メーカー側から賄賂を受けとった疑いで医学部准教授(懲戒解雇)が逮捕される事件が発覚。今年4月には、不祥事が相次いだ病院を医学部付属から大学本部の直轄にすることなどを柱としたガバナンス(組織統治)改革案を公表し、信頼回復に努める姿勢を示した。
一連の不祥事について、松本文部科学相は4月10日の閣議後記者会見で「実効性のある再発防止策の具体化を進めることが、信頼回復を図るために重要だ。必要な指導や助言をしていく」と述べた。