対策不備での行政指導、1000事業所超え
厳しい暑さが見込まれる夏本番を前に、職場の熱中症を防ごうと新たな対策を講じる企業が相次いでいる。昨年6月から熱中症の防止策が罰則付きで義務化されたが、対策に不備があるとして全国1000以上の事業所が労働基準監督署の行政指導を受けるなど、備えが進まない企業も目立つ。防止に向け、対策の強化を求める声が上がる。(西村魁)
東京都心の最高気温が31・6度に達した29日、大東建託(東京)が施工を担う東京都新宿区の建設現場に、熱中症防止のための高機能トイレが初めて導入された。屋外トイレを使う作業員の体温を少しでも下げようと、ミスト噴射装置や換気扇が備えられ、涼しく利用できる。
同社は全国の現場に730台のカメラを設置して作業員の状況を即時把握できる体制を整えている。今年からは、現場監督たちが熱中症情報などをメールで受け取れるようにするなど、対策に力を注ぐ。
送風と冷却機能を兼ね備えた作業員向けのベストの配備も進めており、同社キャリアデザイン部の増田心吾課長は「全作業員が快適で安全に作業できるよう先手先手で対策を進めていきたい」と語る。
建設や運送など熱中症リスクの高い業界では、体内の深部体温や心拍数などを自動で計測する腕時計型の「ウェアラブル端末」の普及が進む。光や振動で発症リスクを伝える端末を販売しているミツフジ(京都)は、昨年に約2500社へ約20万台を納入し、今年もすでに約1000社へ約7万台を納入することが決まったという。
近年の猛暑に伴い、働く人が熱中症になるケースも増加している。厚生労働省によると、昨年に職場で熱中症になり死亡した人や4日以上休業した人は計1803人に上り、2024年の1257人から約4割増えて過去最多を更新した。
こうした状況を踏まえ、昨年6月に労働安全衛生法の改正省令が施行され、熱中症の恐れがある労働者を早期発見できる体制の整備や、応急処置の手順作成などの対策が企業などに義務付けられた。違反企業などには6月以下の拘禁刑か50万円以下の罰金が科される。
義務化に合わせて、厚労省は昨年6~9月、職場での熱中症が多い建設や製造、運送、警備業界を対象に、約1万7000事業所の対策について調査を実施。対策の不備が確認されたのは全国で1078事業所に上った。
内訳は、処置手順作成の不備が890か所、報告体制の未整備が767か所などで、複数の不備が確認された事業所も多かった。従業員が熱中症を発症した例もあったといい、各地の労基署が是正勧告や指導を行った。
促進へ厚労省指針
改善が進まない企業に対策を促そうと、厚労省は3月に熱中症防止に向けた指針を策定。指針では各職場の熱中症リスクを評価した上で、異変に気づけるように2人以上で作業することや、作業前に深部体温を下げる「プレクーリング」の実施などの予防策を勧めている。
職場の熱中症を巡っては、労災の認定にとどまらず、対策を怠った企業の損害賠償責任が裁判で認められた例もある。
海外で船の補修作業中に熱中症になり死亡した男性(当時30歳代)の遺族が勤め先に損害賠償を求めた訴訟で、福岡地裁小倉支部が24年2月、作業をしていた船で暑さ指数を測定しないなど予防策が不十分だったとして、勤め先に約4800万円の支払いを命じる判決を出し、その後確定した。
この訴訟で遺族代理人を務めた古川拓弁護士は「危険な暑さに見舞われても、現場の責任者らに作業の中止を判断する権限が与えられていないケースがある」と指摘。「企業は、現場責任者が作業中止を判断できる権限の委譲や、天候を加味した納期・工期の調整など、防止のための体制整備に努めるべきだ」と話している。