児童8人が犠牲となった大阪教育大付属池田小(大阪府池田市)の殺傷事件は、社会が一体となって幼い命を守る重要性を浮き彫りにした。そんなボランティア活動の一つが、子供の「110番の家」。いざというときに児童生徒が助けを求めて駆け込める民家や店舗だが、高齢化や共働き世帯の増加などを受けて減少傾向にある。専門家は見守りの目が減る「街の空洞化」を懸念する。
110番の家は、平成6年に岐阜県で下校途中の女子児童が殺害された事件を契機に、8年に同県内で設置され、全国に広まったとされる。警察だけでなく自治体や教育委員会も同種の仕組みを設け、名称もさまざまだが、ステッカーや小さな看板を目印としている。
警察庁によると、警察が把握する110番の家は、令和6年度末で約143万カ所。平成20年度末の約210万カ所に比べて7割以下に減少している。警察庁は「都道府県ごとに状況が異なると考えられ、一概に回答は困難」とするが、地域コミュニティーの希薄化や共働きによる日中不在の世帯の増加といった社会構造の変化に加え、知らない民家に入る心理的なハードルが高くなっていることも影響している可能性がある。
「近頃はステッカーを見かけなくなった」と話すのは、京都市南区の自営業の女性(61)。近くの商店街は高齢化とともに店が減り、日中ではなく夜間に営業する飲食店が増えたといい、「登下校の時間帯に子供を見守る担い手の減少を感じる」という。
ただ、子供が狙われる事件や不審者情報は絶えず、緊急避難先を確保する必要性に変わりはない。関係機関は協力先の確保に苦心している。
機能不全は1千カ所以上の地域も 「ながら見守り」導入
京都府警では平成30年、他県で児童が被害に遭った事件を受け、110番の家の実態を調査した結果、不在がちだったり空き家となっていたりして機能していないケースが1000カ所以上明らかになった。
その後、積極的な協力呼びかけや協力先への定期的な訪問により、令和7年時点で約1万9000カ所を確保。平成30年より逆に約2400カ所増えた。
時代の変化に合わせた新たな地域防犯のあり方も始まっている。京都府警は建物に限定せず、営業や配送の車両も活用した「こども110番のくるま」を導入。通勤や散歩など日常生活の中で見守り意識を高める「ながら見守り」も推奨している。同様の取り組みは全国的に普及しつつあるといい、担当者は「実情に合わせた見守り活動の形を模索したい」としている。
防犯に詳しいNPO法人「日本こどもの安全教育総合研究所」の宮田美恵子理事長は、防犯ボランティアが減少して大人の目が限定的となる現状を「街の空洞化」と指摘し、犯罪抑止力の減退に警鐘を鳴らす。
110番の家のように子供の目につきやすい防犯マークの存在は今後も必要不可欠だとし、「裾野を広げ、効率的に活動を展開していく姿勢が求められる。下校時間に限定して家の近くを見守ってもらうなど、短時間で負担の少ない活動が有効だろう」と話している。(堀口明里)