知床半島沖で2022年4月、乗客乗員26人が死亡・行方不明となった観光船「KAZU I(カズワン)」沈没事故で、乗客15人の家族ら33人が運航会社「知床遊覧船」と社長の桂田精一被告(62)(業務上過失致死罪で公判中)に対し、計15億円超の損害賠償を求めた訴訟の第8回口頭弁論が9日、札幌地裁であり、桂田被告の尋問が行われた。運航管理者と安全統括管理者を兼任していた桂田被告は「安全管理に努めていた」と強調し、自身の過失を否定した。
原告側は、安全管理体制の欠如が事故を招いたと主張している。桂田被告は事務所に常駐する必要があったが、事故当日は北見市の病院に妻を迎えに行くため、事務所を離れており、運航管理者不在時に対応にあたる「運航管理補助者」も事務所にいなかった。
桂田被告は、事務所に常駐しなければならないという認識はなかったとした上で、運航管理補助者に「私以外の(従業員)全員」を選任していたと明かし、「補助者に選任されていない」とする元従業員の証言と異なる説明をした。
また事故当日、法令で義務づけられたカズワンから事務所への定点連絡が一度もなかったことなどを踏まえ、裁判官が「安全に対する教育がされていないのではないか」と質問。桂田被告は「(事故の)前まではやっていた」と述べた。
このほか、事故直後に行われた記者会見の発言に対する桂田被告の認識も問われた。
原告側は「会見で被告が安全管理規程などを把握していないことを認めていた」とし、安全管理体制の欠如を示す根拠の一つに挙げる。一方、桂田被告側は「事実認定の的確な証拠ではない」と反論している。
桂田被告の尋問はこの点をただすため、原告、被告双方の申請で行われた。桂田被告はこの日、「(記者会見の出席を)断れなかった。準備ができず、疲れもあってパニックだった」と説明した。
この日は原告の乗客家族2人の尋問も行われた。
30歳代の息子を亡くした千葉県の男性は、航空会社で運航管理者をした経験から「運航管理者が事務所にいないことはあり得ない」と批判。息子について問われると、「強い人間にしようと、厳しい言葉をかけてきたが、もっともっとほめてあげたらよかった」と涙ながらに語った。
息子(当時7歳)と元妻(同42歳)が行方不明のままの道内の男性(54)は「2人がいなくなった現実をまだ受け止めきれていない。遺骨が見つかれば、現実を受け入れないといけないので、今はまだ見つかってほしくない」と声を詰まらせた。