阿部慎之助前監督が不起訴処分に。山口真由氏が突く、13万人署名に揺れた「SNSの過剰介入」の罠

5月25日に自宅で長女に暴行を加えたとして現行犯逮捕され、その後書類送検されていたプロ野球・巨人の前監督、阿部慎之助氏は、6月15日に不起訴処分となった。阿部氏は同日、代理人を通じて声明を発表し、家族や関係者、ファンに謝罪するとともに、軽率な行為だったと反省の意を示した。5月の逮捕時、阿部氏は姉妹げんかを止めようとして口論となり、長女を押し倒した疑いを認めていたが、事件は処分の決着をみた形だ。とはいえ、家庭内の暴力に社会がどう介入すべきかという問いは、なお重く残っている。信州大学特任教授の山口真由氏は、阿部慎之助氏が不起訴となったことで事件は一区切りついたが、家庭内暴力に行政がどう介入すべきかという論点は残されたままだとみる。そのうえで、被害者の安全確保までは一定の「拙速な過剰介入」は許容されても、その後は「事実を見極めるという意味の巧遅」が必要だと訴える(以下、山口氏の寄稿)。◆逮捕万能論にも限界がある先月、18歳の長女の胸ぐらをつかんで押し倒した疑いで現行犯逮捕された阿部慎之助巨人軍前監督は「寛大処分」の意見付きで書類送検された。チャットGPTの助言を受けて児童相談所に相談した──。そう告白した長女の手紙にはインパクトがあり、現代の宿痾の象徴として注目を集めた。だがもしこれが例えばアメリカのアラスカ州とかコロラド州なら、阿部氏は間違いなく逮捕である。長らく“プライベートな問題”と扱われてきたDV(家庭内暴力)に光が当たったのは、全米で女性の権利を求める動きが活発化した’70年代のこと。そしてDVに対する警察の対応が再犯率に与える影響を検証した1984年のミネアポリス実験は、DV加害者を逮捕する/被害者と引き離す/助言を与えるという3択の中で、逮捕がその後6か月間の再犯率を有意に減少させたと結論づけた。「よっしゃ、全員を取っ捕まえろ!!」ということで、’90年代にかけてアメリカの多くの州で、DVでの逮捕が「義務」になる。つまり、いかに家族が嘆こうと、現場に駆けつけた警察官に裁量の余地は一切なく逮捕されるのだ。話はこれだけでは終わらない。仮に自己防衛のため、長女も引っかくなりすればアメリカでは「双方逮捕」、つまり阿部氏のみならず、被害者的立場の長女もまとめてしょっ引かれる可能性がある。実際、義務的逮捕が導入された’80年代後半から’90年代にかけて、自らの身を守っただけの女性の逮捕が相次いだ。