「高市1強」は本物か?自民党総裁選での再選を狙う新議連に有力者集結 「高市色を消せ」と麻生氏は指示、党所属議員83%が入会に雪崩を打った舞台裏に迫る

5月21日、高市早苗首相(自民党総裁)が掲げた衆院選公約の実現を後押しする議員連盟が始動した。名称は「国力研究会」。発起人には麻生太郎副総裁ら有力者に加え、昨年の総裁選を高市首相と争った小泉進次郎防衛相ら「ポスト高市」をうかがう面々が集結した。 影響力の指標とも言える入会者数は初会合時点で347人に上った。党所属議員417人の83%が加入した計算だ。 この現象は、自民の「高市1強」体制を裏付けたと言えるのか。議連を来年秋の総裁選再選に向けた支持母体としたい首相支持派と、その無力化を狙う非主流派。そして両者がいがみ合う中で静観を決め込む若手議員たち。それぞれ思惑が入り交じり、大半の議員が入会へと雪崩を打った舞台裏を探った。(共同通信政治部取材班)
自民党の新総裁に選出された高市早苗氏=2025年10月、東京・永田町の党本部
▽「文句なしの布陣を見せつけることができた」
5月21日午後4時。国力研究会の初会合が開かれた参院議員会館(東京・永田町)の講堂は、200人を超える議員や代理出席の秘書らで埋め尽くされた。
「本研究会を立ち上げるのは、高市政権が立ち向かう国家課題に政府と党所属議員が一致協力し、国民の期待に応えようという思いからだ」 発起人代表としてあいさつした萩生田光一幹事長代行の呼びかけに、場内から一斉に拍手が湧き起こった。萩生田氏が「入会した議員は現在347人だ」と紹介すると、想定以上の規模感からか驚くような表情を見せる議員らもいた。
国力研究会の設立構想は、高市首相の側近議員が昨年10月の政権発足当初から温めてきたものだ。長期政権化を目指し、来年9月の総裁選に照準を定めて準備した。 最優先課題は、首相の弱点とされる「政権基盤の強化」(首相周辺)。その母体として国力研究会をつくり、支持議員の輪を広げることで「無投票での再選」を実現させたいとの思惑があった。 初会合を終えた首相側近は胸をなで下ろした。 「文句なしの『高市1強』の布陣を見せつけることができた」
自民党の両院議員総会に臨む高市早苗首相(右)と麻生太郎副総裁=2月18日、国会
▽政局に期待?「全くそういう感じではない」
長年、無派閥で活動してきた高市首相の党内基盤は盤石とは言えない。
保守色の強い首相の政治信条や政策に共鳴する党内グループ「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」や「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は、首相の総裁選勝利を後押しした。さらに今年2月の衆院選で初当選や返り咲きを果たした議員も加わり、勢力を拡大しているが、首相の「意のままに」動く組織ではないのが実情だ。
そこで側近議員らが目を付けたのが議員連盟の設立だった。歴代首相を見ても派閥を横断する議連が首相の座を射止めるための基盤となってきたケースは少なくない。
故安倍晋三元首相も第1次政権退陣後、自身が会長を務めていた保守系議員連盟「創生日本」を足場に再登板の機会をうかがった。岸田文雄元首相も総裁選再出馬を目指し、2021年6月に安倍氏らが参加する「新たな資本主義を創る議員連盟」を発足させ、存在感を示した。
今回の議員連盟は、高市首相が前面に立つ形ではないものの、名称に首相が好んで使う「国力」を冠し、英語名も首相が総裁選で使った「ジャパン・イズ・バック(Japan is Back)」の略の「JiB」とした。 萩生田氏はあいさつで「いろいろ政局を期待する声もあるが、全くそういう感じではない」と冗談めかしたが、それを額面通りに受け取る永田町関係者はいない。
▽コップの中の争いをけん制
ただ議連の発足は、足元の不安に対する裏返しでもあった。党内では官邸主導の政権運営が進む「政高党低」の構図への不満がくすぶっていたためだ。 高市首相は今年2月の衆院選で、高い内閣支持率を強みに自民を歴史的圧勝へと導いた。本来であれば、その立役者である首相の求心力は盤石なものとなるはずだった。
しかし党幹部すら意表を突かれた電撃的な衆院解散は、党内の一部には独断専行とも映った。さらにその後の2026年度予算案審議では、2025年度内成立にこだわった結果、少数与党下の参院側との間にもあつれきを生んだ。 それと並行して衆院選勝利で自民が「数の力」を取り戻すと、旧派閥単位の会合や、新たなグループ結成の動きが相次いだ。
国力研究会の入会案内は、こうした状況への危機感も反映して作成された。5月7日に自民の全議員宛てに配布された案内文にはこう記されている。
「いま求められているのは、現実的な政府と与党の連携だ。今こそ自民党は一体となって未来へ挑戦し、政策を実行しなければならない」
議連発足に向けて準備した関係者は、この案内文に記された文章の意図について「『首相のことを好きか嫌いか、というコップの中で争っている状況ではない』というけん制の意味合いもあった」と振り返る。

▽「オール自民党」と自賛
国力研究会を通じた高市首相の支持拡大という目的を果たす上で、多くの参加議員を確保するのは必須条件だった。このため、首相側近は中核となる発起人の選定を巡り、後ろ盾として党内唯一の派閥である「麻生派」会長の麻生副総裁を頼った。 麻生氏は「高市色はなるべく出さないように」と指示した。その意を受けて発起人のリクルートに奔走した結果、首相の政治信条に近い旧安倍派幹部の萩生田氏や西村康稔選対委員長らだけでなく、参院自民を取り仕切る松山政司参院議員会長らが参画。ここに昨年の総裁選で争った小泉防衛相、小林鷹之政調会長、茂木敏充外相が加わり、11人の発起人の陣容が固まった。 首相に近い党中央政治大学院長の山田宏参院議員は、月刊誌で「オール自民党とも言うべき顔ぶれだ」と自賛した。 高市首相は初会合への出席に意欲を示していたが、見送った。議連発足を政局的な動きとする見方が強まりかねないとの警戒感も手伝ったとみられる。
「国力研究会」の初会合を終え、拍手する自民党の(左から)麻生副総裁、加藤前財務相、萩生田幹事長代行、小林政調会長=5月21日、国会
▽「非主流派がみんな入ってしまえば…」
当初は、麻生氏と距離を置く林芳正総務相や武田良太元総務相らを議連から外す案もあった。昨年の総裁選で高市首相を支持した一人は「ライバルとの対決軸をつくり、首相支持派に付いた議員らで結束力を高めなければ、総裁選で戦える母体にはならない」と解説した。 しかし、側近たちには「特定の議員を除こうとすれば、反発は必至だ」との懸念があった。麻生氏には憲法改正や皇位継承などの政策推進に重きを置きたい考えもあった。このため入会対象に線引きを設けず、全ての自民議員が加入できる形とした。 入会案内の配布の後、武田元総務相は、旧二階派を中心とした自らが率いるグループの会合で「全員参加」を明言した。林総務相自身や林氏を支持するグループのメンバーも次々に入会。そうした背景には「非主流派がみんな入ってしまえば、議連の意味や役割をなくさせることができる」との見方も広がった。
▽同床異夢
幅広く入会を募る方針へとかじを切ったことは、党所属議員に対して首相を支持するか否かを迫る「踏み絵」のような意味を持つこととなった。ある中堅議員は「入らないことで悪目立ちはしたくない」と語った。 もちろん、損得勘定も入会を後押しした。政権幹部の一人は「この議連は総裁選に向けた抑止力だ。人事にも関係してくる」と語る。 今後の内閣改造や党役員人事を見据え、政権側への賛同姿勢を示すために入会を判断した議員も少なくないとみられる。結果として、議員一人一人が首相への支持の有無にかかわらず入会へと雪崩を打つことにつながった。
全議員の8割を超す入会者は、首相の勢いを印象付けるには十分だった。しかし、側近らの思惑通りに進んだとは言い難い面もある。首相への支持の濃淡は明らかで、国力研究会の存在意義を疑問視する声も出る。首相と必ずしも政治信条が一致しない議員が交じり込み、総裁選に一枚岩で臨む態勢構築とは程遠いためだ。 議連発足へ主導的な役割を果たした一人は「想定は150人ぐらいだった。これでは自民党そのものと変わらない。同床異夢だ」と苦笑した。
第8回自民党臨時大会で新総裁に選出、新任のあいさつをする池田勇人氏=1960年7月14日、東京・日比谷公会堂
▽「大政翼賛会みたいだ」
こうした自民党内の「総主流派」とも言える現状に、党の将来を危ぶむ見方もある。自民党の歴史を振り返れば、池田勇人、小泉純一郎両元首相のように、非主流派として雌伏の時を過ごして力を蓄え、後に首相の座を射止めたケースは多い。主流派と非主流派が入れ替わる「疑似政権交代」は長期間、自民が政権党を担った力の源泉ともなってきた。
少数派となった国力研究会の未入会者の中には、石破茂前首相や石破氏に近い議員らが含まれる。石破政権下で総務相を務めた村上誠一郎氏は、議連発足に際し「大政翼賛会みたいだ。まったくナンセンスだ」と公然と批判を展開した。非主流派のベテランは「議連を使って党内を色分けし、分断を招くようなやり方は、かえって党の弱体化を招く」と先行きを危惧する。
次の自民党総裁選まで、あと1年3カ月。国力研究会が党所属議員の意思決定に影響を与える母体となり得るのかは見通せない。首相の政権基盤構築はなお道半ばだ。
2001年4月、自民党新総裁に選出され拍手で祝福される小泉純一郎氏=東京・永田町の自民党本部