奈良公園(奈良市)に生息する国の天然記念物「奈良のシカ」が過密化し、公園外での出没が増えている。住宅街での事故などのトラブルを防ぐため、奈良県や保護団体は、シカを公園に戻す対策を強化している。観光客らによる過剰な餌やりが頭数増加につながっている可能性があり、県などは餌やりについても対応を検討している。(奈良支局 河部啓介、遠藤絢子)
6月初旬、県や奈良市、保護団体「奈良の鹿愛護会」などの約20人が、奈良公園の西約3・5キロの住宅街に集まった。公園外に出没したシカを戻す対策「追い上げ」を行うためだ。安全を確保するため、警察官もパトカーで出動。周囲は物々しい雰囲気に包まれた。
メンバーはシカを発見すると、刺激しないように注意しながら、両手を広げて立ちふさがり、ゆっくりと公園まで誘導。自治会から追い上げの要望のあった地域を回り、2日間で約40頭が公園に戻された。
追い上げは、昨年7月から始まり、今回が3回目。県奈良公園室の豊岡健士室長補佐は「追い上げを定期的に実施し、市街地での数を減らしたい」と話す。
奈良公園のシカは近年、増え続け、2025年度は過去最多の1465頭。公園外のエリアでの生息密度が上昇している。公園から数キロ程度離れた「管理地区」は捕獲や駆除が可能で、県は定期的に平均生息密度を調査している。17年度は1平方キロ・メートルあたり9・4頭だったが、25年度には49頭で約5・2倍に増加している。
25年度、県や愛護会に寄せられた約230件の目撃情報のうち、管理地区での目撃は9割を占め、分散が拡大している。住民からは「花壇を荒らされる」といった通報が目立つ。公園外でシカと電車がぶつかる事故なども起きている。今年4月には、奈良市の近鉄新大宮駅近くで、オスのシカが電車と衝突する事故があった。
今年3月には、大阪市内でシカが捕獲された。「シカやん」と命名されたが、奈良公園から来た可能性が指摘されている。
行政や有識者らでつくる「奈良のシカ保護管理計画検討委員会」によると、公園から出たシカがすでに周辺地区にすみついている可能性があり、同委員の立沢史郎・奈良大教授(保全生態学)は「シカが増えれば、交通事故の発生や、感染症拡大の懸念もあり、早急な実態把握が必要」と警鐘を鳴らす。
過密化の一因として、過剰な餌やりが指摘されている。
愛護会によると、シカの餌とされる「鹿せんべい」は、公園を訪れる大勢の観光客が買い求め、連日完売する人気ぶりだ。一方、外国人観光客らは、持参したスナック菓子をシカに与えている様子がたびたび目撃されている。
立沢教授は「奈良のシカは餌となる草や木の芽が少ない冬場を乗り越えた後、春に多数死ぬが、栄養価の高い食べ物をたくさん与え続けられ、生き残るシカが増えているのではないか」と分析している。
県などはこれまでも、多言語のマナーブックを配布し、「鹿せんべい以外は与えないで」などと啓発してきた。今後、専門家会議を設置し、餌やりの状況など、増加の要因を調査し、対策を検討する方針だ。