大阪地検特捜部が捜査した業務上横領事件の取り調べで長時間、容疑者を罵倒したなどとして、付審判決定により特別公務員暴行陵虐罪に問われている検事の田渕大輔被告(54)=現東京高検=の裁判が、10日に大阪地裁で始まる。付審判で検事への裁判が開かれるのは初めて。関係者によると、被告側は無罪を主張するとみられる。
「検察なめんなよ。命かけてるんだよ、俺たちは」。令和元年12月8日、大阪拘置所で行われた取り調べで、田渕被告は容疑者の男性(61)=有罪確定=に向かって声を荒らげた。
男性は不動産会社「プレサンスコーポレーション」(現プレサンス、大阪市)の元部長。学校法人の土地買収を巡り、不正が行われた疑いがあった。特捜部は当時社長だった山岸忍氏(63)も関与したとみていたが、元部長は否定。それに対し田渕被告は机をたたき、約50分間にわたり、ほぼ一方的に元部長を責め続けるなどした。
元部長は「山岸氏も関与した」と供述を変え、山岸氏は逮捕・起訴されたが、その後、無罪が確定。山岸氏の請求を受けた大阪高裁は6年8月、取り調べについて、侮辱的で脅迫的な言動で「(元部長を)畏怖させる程度が相当に高く、検察官に迎合する虚偽供述を誘発する危険性が大きい」と問題視し、刑事責任を問うことを決めた。
特捜部の取り調べは全て録音・録画で記録され可視化されている。裁判では、田渕被告の言動が取り調べの範疇(はんちゅう)を外れ、精神的・肉体的な苦痛を与える「陵虐行為」に当たると評価できるか否かが争点となりそうだ。
田渕被告は、山岸氏が起訴の違法性などを訴えた国家賠償請求訴訟でも証人となり、こうした取り調べを行った理由について、陳述書で「元部長はその場しのぎのを繰り返し、真剣に供述する態度が見られなかった。きちんと真実を話してもらいたいという気持ちからだった」と説明。証人尋問では「不穏当だった」とは認めた。
今回の裁判で検察官役の指定弁護士を務める山口昌之弁護士によると、付審判決定以降、山岸氏の告発を受けて検察が田渕被告を不起訴処分とした際の捜査資料を検察側から受け取ったほか、延べ数十人の検察関係者らに事情聴取を行い、「補充捜査」を行ってきた。
山口氏は6月に会見を開き、初公判では、取り調べは田渕被告個人の問題ではなく、検察組織の問題が背景にあるとも指摘すると明かした。(木下倫太朗)
公務員の職権乱用などを巡り、検察が下した不起訴処分に対する「不服申し立て」の手段の一つ。告訴・告発した被害者らは裁判を開くよう裁判所に請求でき、裁判所が審判に付す決定をすると、起訴と同じ効力を持つ。検察官の役割は、裁判所が指定した弁護士が担う。