視界を完全に奪うほどの猛烈な雨と、地鳴りのように響き渡る雷鳴──千葉県を襲った記録的な豪雨は、私たちの日常を短時間のうちに奪い去る恐怖を突きつけた。経験したことのない自然の猛威とどう向き合うべきか。【全3回の第1回】
気象庁の警戒情報をめぐる課題
帰宅を急ぐ人々が行き交うなかでの急変だった。8月13日17時頃に降り始めた雨は急速に勢いを増し、18時前には巨大な積乱雲が連なる「線状降水帯」が発生した。千葉市では1時間に115mmという観測史上最大の雨量を記録。わずか1時間で「平年8月の1か月分」の雨が降り注ぐ異常事態となった。
その後も同じエリアで計3回の線状降水帯が発生し、24時間降水量は8月の平年値の3倍を超える367mmに達した。住宅の床上・床下浸水は2000棟を超え、水没して動けなくなる車両が続出。8月18日時点で死者13人という深い爪痕を残した。
この未曽有の被害の裏で、気象庁の警戒情報をめぐる重大な課題が浮き彫りとなっている。気象庁は線状降水帯の発生を事前に警告する「半日前予測」や「直前予測」を運用している。特に今年5月に運用を開始したばかりの「直前予測」は、従来の予測よりも精度が高い情報として期待を集めていたが、今回、警告が間に合わなかった。気象予報士の高塚哲広氏が解説する。
「線状降水帯とは、雨雲が同じ場所に停滞して猛烈な雨を降らせ続ける現象です。雨の原料となる水蒸気は海上から運ばれますが、地上とは異なり観測システムが乏しい海上では、現代の技術を用いても予測が容易ではありません。
その一方で、線状降水帯による豪雨リスクは確実に高まっています。現在は1980年代と比べて短時間の大雨の発生頻度が約2倍に増加しており、地球温暖化の影響で今後さらに”雨の強度”が増し、未知の雨量が一度に降る恐れがあります。千葉豪雨は決して特殊なケースではなく、どこで同じ事態が起きても不思議ではないのです」
浸水の主な要因は内水氾濫
専門家が警鐘を鳴らす一方で、「うちは浸水エリアじゃないから大丈夫」と、自治体のハザードマップを根拠に高をくくっている人もいるかもしれない。しかし今回の千葉豪雨は、その安心感を根底から打ち砕いた。
気象情報サービス『ウェザーニュース』が被災者約1万人を対象に行った調査と、約1万件の投稿データを合わせた分析によれば、行政が指定する「浸水想定区域内」での浸水が44.3%だったのに対し、「浸水想定区域外」での浸水が55.7%と半数を超えた。水害対策に詳しい、リバーフロント研究所審議役の土屋信行氏がその背景を解説する。
「今回起きた浸水は、河川の氾濫ではなく、街の排水能力を超えた雨があふれ出す”内水氾濫”が主な要因です。日本の多くの都市は、下水管などの排水機能が1時間に50mmの雨を基準に設計されています。そこに100mmを超えるような猛烈な雨が降れば、下水道はあっという間にパンクしてしまう。これは都市型水害の典型です。短時間で記録的な大雨が降るようになったいま、ハザードマップで安全とされる場所であっても、途端に危険地帯へと変わり得るのです」
(第2回へ続く)
※女性セブン2026年9月3日号