高市首相「消費税減税」に国民は冷ややか、霞が関は「予断を許さない」…”衝撃人事”が暗示する財務省との対立

高市早苗内閣は8月5日、2027年4月から2年間限定で食料品の消費税率を現在の8%から1%に引き下げる方針を閣議決定した。9月後半にも召集される臨時国会で審議される。
食料品だけとはいえ、税率が8%から1%に大幅減税されるわけだから、国民の多くが拍手喝采を送っているかというと、なぜか、そうでもないようだ。テレビの朝の情報番組などでは、登場するコメンテーターが消費減税は邪道だとばかり、批判を繰り広げる場面が散見される。「物価対策の一環として減税すると言うが、8%分、丸々物価が下がるとは限らないので意味がない」とか、「10%に据え置かれる外食店が倒産の危機に直面する」とセンセーショナルに減税のデメリットを語る人もいる。
また、「減税によって国の財政が悪化すれば、さらに円安が進み、輸入物価が上昇するので元の木阿弥になる」と論理的に指摘する識者もいる。やや驚きなのが、紹介される街角の消費者の声の中にも、「減税に反対」という人がいることだ。国の財政を心配する国民が多いのは感心すべきことだが、テレビ局が意図的に反対意見を煽っているのではないかと疑いたくなるほどだ。
選挙戦の時には減税を主張していた野党が、政府が決めた途端に反対に回るのは政治の世界の常だとして、自民党内にも減税に強く反対する議員たちがいる。
税制改革を議論する党税制調査会(税調)の非公式幹部会「インナー」のメンバーだった小渕優子議員は、減税に反対してインナーを辞任した。インナーは非公式と言いながら、重要な税制改正などはここで決めてきた。財務省出身の議員や財務省の影響下にある議員がインナーに選ばれるのが通例だった。
高市氏は首相就任時に税調人事を行い、それまで会長だった宮沢洋一参議院議員に代わって小野寺五典・元政調会長を起用した。財務省(旧大蔵省)出身で財政規律派の重鎮だった宮沢氏を交代させたことで、高市氏が掲げる「責任ある積極財政」への布石を打ったと見られていた。小渕氏の辞任は、そうした高市路線への反発と捉えることができる。
石破茂内閣で幹事長を務めた森山裕氏は会長が交代したタイミングでインナーを退任した。森山氏は財務副大臣などを歴任し、財政規律派として知られていた。その森山氏も消費減税には強く反対している。さらに石破前首相や、河野太郎元外相、稲田朋美元防衛省、村上誠一郎前総務相などが減税に反対している。税制に詳しい税調のメンバーは減税反対が過半を占めると言われる。
もちろん消費減税反対派の背後には財務省がいる。1989年に3%の税率で導入された消費税は、1997年に5%、安倍晋三内閣時の2014年に8%に引き上げた。当初、2015年10月に10%に引き上げる予定だったが、2017年4月に延期、さらに2019年10月に再度延期され、ようやく10%(食料品は8%に据え置き)になった経緯がある。
「2年間と言っているが一度下げたら、現場に戻すのは至難の業だ」と財務省は危惧する。そもそも、減税を強引に決めた高市首相は財源についても曖昧にしたままで、財政規律の維持を重視する財務省や財政規律派の議員にとっては許すことができない事態になっている。
高市首相はなぜ、消費減税に拘るのか。減税が閣議決定に漕ぎつけた背景には高市首相の強い意思がある。
2月に行った衆議院総選挙の際に公約して大勝した以上、公約を反故にするわけにはいかないというのが表立って語られる理由だが、本音は、下落気味の内閣支持率を回復させる起死回生の一打にしたいという思惑が首相周辺にあるからだとされる。
選挙公約では、「飲食料品は、2年間に限り消費税の対象としないことについて、今後『国民会議』において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速します」とあり、自民党議員の中には、「検討を加速する」なので、「実現する」とは言っていないと強弁する向きもあるが、「有言実行」を国民にアピールしたい高市首相は公約実現に拘った。首相周辺は「消費減税が決まれば、支持率は一気に回復する」と読んでいると言われる。
財務省の水面下での働きかけもあり、自民党議員の多くに減税反対の声が広がっている。閣議決定した以上、法案として秋の臨時国会に提出されれば、通常ならば自民党が国会の圧倒的多数を握っている以上、すんなり法案は通り、来年4月に減税が実施される。
ところが、臨時国会での可決まですんなり進むかどうか予断を許さないと、霞が関では囁かれている。財政規律派の官僚たちが自民党の減税反対派を焚き付けている一方で、高市首相周辺は2月に初当選した「高市チルドレン」に首相の減税方針に従うよう圧力を強めている。高市内閣と財務省が抜き差しならない事態に直面しつつあるというのだ。
両者の緊張が一気に高まったのは8月7日のこと。同日発表された幹部人事で、主計局次長だった一松旬(ひとつまつじゅん)氏が東京税関長に転出することが発令されたのだ。一松氏は「次官確定の逸材」と言われていたが、近年は「上がりポスト」になっている東京税関長に更迭されたわけだ。
消費税の取り扱いを議論していた社会保障国民会議に減税反対を訴える団体が次々に呼ばれていたことに高市官邸が怒り、事務方の担当だった一松氏を更迭させたという解説が流れている。消費減税を巡って言うことを聞かない財務官僚を「飛ばす」という強権を発動したというわけだ。臨時国会が近づくにつれ、この対立が激化する可能性があるのだ。
では、財務省が必死に抵抗するように消費減税は愚策なのだろうか。
2025年度の一般会計税収は84兆2000億円と、6年続けて過去最高を更新した模様だ。前年度に比べて約9兆円も税収が増えた。内訳は消費税が1兆円増の26兆円、所得税が4兆円増の25兆3000億円、法人税が3兆8000億円増の21兆7000億円だった。主要3税目で大幅に税収が増えているのだ。
税収増の要因は好景気で経済が盛り上がっているためではない。最大の要因は物価上昇だ。賃上げが進んで所得金額が増えれば、当然、所得税も増える。だが、同時に物価が上がっているので、所得が増えても物価上昇率がそれ以上だと、実質的な所得は減った事になる。消費税も、まったく同じ商品を買った場合でも、価格が1000円だったものが1200円になれば、消費税は100円から120円に2割も増える。つまり実質的な国民の生活は改善しないのに、税収は増えるということになるわけだ。
総務省の家計調査で実質消費支出(2人以上世帯)を見ると、2025年12月から直近の6月まで7カ月連続でマイナスが続いている。2025年春ごろから11月まで久しぶりにプラスが続いていたが、再びマイナスに沈んでいる。つまり、一見、消費は好調に増えているようでも、実際は価格上昇による増加で、物価上昇を差し引くと実質はマイナスということになる。つまり、消費税収が増えているのも消費が増えているからではなく、物価が上がっているからに他ならない。
一方で、厚生労働省が発表した2026年6月の名目賃金は3.4%増と5カ月連続で3%を超えた。物価上昇を差し引いた実質賃金も1.6%増で6カ月連続のプラスになっている。所得税は3.4%増えた方にかかるわけだから税収が増えているほど実質賃金は増えていない、ということになる。それでも、実質賃金の増加が定着し始めているわけで、本来はそれが消費に回り、企業収益を増やし、さらなる賃上げにつながるという「経済の好循環」につながってほしいわけだ。
日本のGDP(国内総生産)の6割弱は個人消費である。個人消費を増やす方策を考えるならば、消費税率を引き下げる意味は十分にある。コロナ禍で消費が消滅した時、多くの国が消費税率の引き下げを行ったのは、消費を喚起することが狙いだった。消費税率を引き下げてもそれを補うだけ消費が増えれば、消費税収は増える。残念ながら財務官僚は税収を増やすために税率を引き上げることばかり考えるので、減税という選択肢は出てこない。
一方で、「物価を下げるため」だとすると、消費税率の引き下げは逆効果だ。消費(需要)を増やすので、むしろ価格は上昇する。物価上昇を抑えるには消費(需要)を減らす必要があるので、ガソリンに補助金を出して価格を人為的に抑えれば、ガソリン需要が維持されるので価格は下がらないのと同じだ。
実質消費支出がマイナスになっている今ならば、消費を盛り上げる政策として消費減税は意味がある。本来は経済情勢に応じて弾力的に税率を上下させることができる仕組みにすべきだ。4月実施となると、その時に消費が旺盛になっていたりすると、むしろ食料品の物価を上昇させてしまう可能性もある。
———-
———-
(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)