防衛省が新型ミサイル「AARGM-ER」の導入を決定。これにより、日本の「反撃能力」を構成する最後の要素が埋まります。その性能とはどのようなものなのでしょうか。
外観も中身もスゴい! 最新「対レーダーミサイル」
防衛省は2026年8月31日、2027年度の防衛予算概算要求を公表し、その中で新型ミサイル「AARGM-ER(アーガム・イーアール)」の導入を明記しました。これは、日本の防衛政策における重要な能力と位置づけられる「反撃能力」の獲得に向けた、最後の要素を埋める装備です。
「AARGM-ER」は、アメリカのノースロップ・グラマン社が開発した対レーダーミサイルです。直訳で「射程延伸型先進対輻射源誘導弾」となる本ミサイルの役割は、敵のレーダーが発する電波を探知し、その発信源に向かって飛翔・破壊することにあります。
このミサイルは、従来使用されてきたAGM-88「HARM」やAGM-88E「AARGM」の系譜に連なりますが、その外観は全く異なります。先端から末尾までなめらかなフォルムが特徴で、胴体中央部の動翼は廃止され、代わりに胴体側面にストレークが設けられました。これにより、空気抵抗を減らしつつ揚力を生み出しています。後部の動翼もデザインが改められ、機動性の向上も図られました。この形状変更により、F-35A/C戦闘機の機内兵器倉への搭載も可能になっています。
性能面では、新型の固体ロケットモーターの採用により飛翔速度が向上し、射程もAARGMから大幅に延伸されています。一説にはAARGMの2倍にあたる約300kmに達するともいわれており、敵の防空システムの射程圏外から脅威を迅速に無力化できます。
また、高速で飛翔する際に発生する高熱に耐えるため、レドームから胴体にかけての耐熱性が向上。弾頭も威力が向上した新型が装備されており、レーダーだけでなくミサイル発射装置などを含めたシステム全体を破壊する能力を持ちます。
さらに、敵が途中で電波の発信を止めたとしても、搭載された慣性航法装置(INS)とGPSで目標位置まで飛行し、ミリ波レーダーで自ら目標を探知して攻撃できるため、敵にとっては非常に厄介な兵器です。
反撃能力獲得に向けた“最後のピース”
AARGM-ERについて、これを装備予定の航空自衛隊では主に対艦攻撃用のミサイルとしての運用を想定しているとされます。日本に侵攻してくる敵艦隊のうち、対空レーダーを備える防空艦艇に対して「目つぶし」として使用するわけです。しかし、想定される運用の形としては、これにとどまるものではないと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は思います。
それは、このAARGM-ERは、日本政府が整備を進める「反撃能力」の獲得に向けて、必要とされた最後の要素を埋める装備だからです。反撃能力とは、かつて「敵基地攻撃能力」と呼ばれていたもので、弾道ミサイルなどで攻撃してくる相手国の領域奥深くにある発射拠点などを無力化する能力を指します。
2003(平成15)年に当時の守屋武昌防衛庁防衛局長が国会で答弁したところによると、この能力は以下の4要素で構成されます。
(1)敵の防空網に対する妨害やこれを破壊する能力
(2)低空飛行やステルス機など防空網をかいくぐる特殊な航空機
(3)目標を破壊する精密誘導兵器
(4)敵の位置を把握する情報収集能力
これまで日本は、(2)に関してはF-35A/B戦闘機、(3)については長射程巡航ミサイルなど、(4)は情報収集衛星や無人偵察機と、(1)以外の3要素は保有を進めてきました。
しかし、(1)の敵防空網の妨害・破壊に関しては、極めて限定的な能力しか有していなかったのが実情です。
それが今回のAARGM-ERの導入決定により、前出の4要素すべてが揃うことになります。
導入後は「何から撃つ?」
もちろん、装備を導入したからといって、ただちに能力が獲得できるわけではありません。そもそも自衛隊は反撃能力の行使を想定した本格的な装備をこれまで有しておらず、そうした訓練も実施してきませんでした。そのため、今後はアメリカ軍などと共同訓練を重ね、長い時間をかけてノウハウを蓄積していく必要があります。今後、自衛隊がこのミサイルの運用方法をどう確立していくかが重要といえるでしょう。
発射母機については、まず航空自衛隊が運用するF-35Aへの搭載が見込まれます。今後導入されるF-35Bでは主翼下に搭載されるでしょう。ただし、これにはまずアメリカ軍のF-35で初期作戦能力(IOC)を獲得する必要があり、その後に空自機への統合作業が開始されることになります。
国産のF-2戦闘機への統合も技術的には可能とのことです。以前、筆者がノースロップ・グラマン社に取材したところ、前身のAARGMがイタリア軍やドイツ軍のトーネード攻撃機に統合された実績があり、アメリカ政府の許可があればF-2への統合も実施できると回答しています。
現時点では、F-2に搭載するかは未知数ですが、運用の幅を広げるという意味では、あり得ない話ではないのかもしれません。(稲葉義泰(軍事ライター))