台風25号の大雨で堤防が決壊し、大規模な浸水被害が出た千葉県北部の印旛沼(いんばぬま)周辺では、養殖業や稲作が大きな打撃を受けた。生産者らは深刻な状況を目の当たりにし、先を見通せずにいる。25日は同県鴨川市で安否不明となっていた60歳代男性とみられる1人の死亡が新たに確認され、千葉、神奈川両県の死者は12人となった。(千葉支局 竹田淳一郎、横浜支局 金子祥子)
「ここまで水が流れてくるとは思わなかった。ウナギは全滅だろう」。印旛沼から約250メートル離れた養鰻場(ようまんじょう)で、印旛沼漁業協同組合(千葉県成田市)の小川佳男組合長(89)は嘆いた。
施設が水没し、稚魚や成魚約5万匹のほとんどが水槽から流されたり、装置の故障で死んだりした。隣の直営レストランは脂がのったウナギを手頃な値段で味わえる店として、休日には100人以上が訪れる。小川さんは「提供したくても再来年以降になる」とため息をつく。
ニシキゴイや金魚約10万匹を養殖する「谷養魚場」(成田市)でも約7ヘクタールの敷地が胸の高さを超える泥水に覆われ、多くの魚が流失した。ニシキゴイは「生きた宝石」と呼ばれ、1匹数百万円で取引されることもある。社長(58)は「損害は施設も含めて10億円に上るのでは。今後を考えると夜も眠れないが、生き残ったコイを大切に育てていきたい」と話した。
印旛沼周辺は穀倉地帯として知られる。4代続く農家の男性(83)(成田市)は約11ヘクタールの田んぼや農業機械が浸水。堤防決壊を知り、倉庫の前に土のうを積もうとしたがあっという間に水かさが増し、浸水を防げなかった。倉庫には収穫した玄米が大量に入ったまま。農業機械が使えなければ「廃業も考えざるを得ない」と肩を落とした。
千葉県では40市町村(24日正午時点)で農作物や水産施設などの被害が確認された。農林水産省によると、25日午前8時時点で、千葉県と茨城県の水田や畑など計57か所で、のり面が崩落したり農業用水路が壊れたりした。印旛沼周辺では状況の把握が進んでおらず、被害はさらに拡大する可能性がある。
神奈川・三浦半島でも「大きな被害」
大根など秋冬野菜の種まき時期を迎えた神奈川県の三浦半島でも畑や農道に被害が出た。県は「過去の台風と比べてもかなり大きな被害が出ている」とする。
大根やキャベツなどの畑約2ヘクタールの3分の1が被災した同県横須賀市の「鈴也ファーム」の社長(42)は「この先どうしたらいいのかわからない」と頭を抱える。
雨が強くなった21日昼過ぎに畑を見に行くと、土砂が流入する様子を目の当たりにした。畑には割れ目が入り、種は流され、農道は倒木と土砂で塞がれた。近くの県立三浦初声高校都市農業科の生徒らが復旧作業やサツマイモ収穫を手伝ってくれた。社長は「復旧の見通しは見えないが、目の前のことをやっていくしかない」と話した。