《特急スペーシアX死亡事故》「4人はホームに張りついていた…」中間報告で判明、突如現れた“上司”がルール逸脱の謎行動…現場は「意見を言うと怒られる」

〈《特急スペーシアX・4人死亡》「なぜ時刻表を持たせなかった?」元作業員が証言する“現場のルール”と会見への違和感「そもそも教育や研修はあったのか?」〉から続く
栃木県鹿沼市の東武日光線・新鹿沼駅で8月20日に特急「スペーシアX2号」が除草作業中の作業員4人に接触し全員が死亡した事故。東武鉄道は9月30日、国土交通省に中間報告を行い、その内容を明らかにした。
《画像》「最高の弟だった…納得できるわけがない」と取材に語る死亡した作業員の兄

作業の安全に責任を持つ「作業指揮者」が突然現れた上司に監督作業を丸ごと委ね、その上司は列車接近の警告を受けたのに線路内に入れと指示を出し、3人の作業員とともに死亡していた。
作業指揮者は、打ち合わせもなしに指揮者の任務をEさんに委ねた
事故は新鹿沼駅構内の上り線で、今は使われていない旧ホームのそばで除草作業をしていた4人が列車に接触して亡くなった。
当時現場では東武鉄道から発注された子会社の東武建設(栃木県日光市)の社員2人が、孫請けのX建設が手配した作業員5人に指示して除草剤噴霧を行なっており、そのほかに3人の見張り員が列車接近を知らせる役割を担っていた。
この2人の東武建設社員のうちの1人が「作業指揮者」と呼ばれる責任者で、もう1人がこの指揮者の上司に当たる男性のEさんだ。Eさんは当日の作業に加わる予定がなかった人物で、なぜ孫請けの作業員らと危険な現場にいたのかは原因究明の焦点の一つとみられていた。(#3)
中間報告によると、Eさんは事故当日、現場に予告なしに現れている。
「Eは事故前日に夜間作業をしたため当日は非番だったが、午前9時ごろ現場に到着した。現場関係者も東武建設も東武鉄道も、Eが現場に来ることは把握していなかった」(中間報告の要旨)
Eさんが現れた理由は今も分かっていない。そして責任者である作業指揮者は、10時15分ごろに除草薬散布作業を始めた時点から、打ち合わせもなしに指揮者の任務をEさんに「委ねた」のだという。
どちらにせよ、もう一人の列車見張り員も列車に誤ったサインを出した疑いがあり、上り線の見張り員2人の行動の解明が事故原因究明の鍵になるとみられている。
「意見を言うと怒られる」「余計なことを言うともめごとになる」
東武鉄道の佐藤晃一施設部長によると、作業指揮者は事故3日前に問題の作業を仕切るよう社内で指示され、除草作業にあたるのは初めてだったという。
「作業指揮者は『自分自身が今回のような移動を伴う作業に慣れていなかった』『初めてだった』『上司は自分よりも経験が豊富だ』と言っています。自然と委ねてしまった、という以上のもの(理由)がない」と佐藤部長は説明する。
Eさんは過去に同じ現場で作業指揮者の役割を務めた経験があるという。だが事故は作業開始から約30分で起きた。
作業チームは当初、駅より南の東京側の線路で除草作業をしている。ここまでは朝礼で作業指揮者が伝えた手順通りの見張り態勢で行ない、列車通過時も作業員は問題なく退避していた。
新鹿沼駅まで戻って駅北方の日光へ続く線路上の作業に移る前に、見張りや作業の手順を確認する打ち合わせをもう一度行うことが朝礼で決まっていたが、この打ち合わせはなくなった。
任務をEさんに任せた作業指揮者は、一番後方で作業を記録する写真を撮っており、打ち合わせなしの作業を止めようとはしなかった。
「現場の上り線で作業する場合、駅の約300メートル北にある踏切に『中継見張り員』を、それよりも作業員に近い位置に『列車見張り員』を置くことになっています。このため踏切へ行くよう指示された中継見張り員は、到着してその旨を列車見張り員に無線で報告しようとしましたが、返事がなく、次の指示を待っていました。
その直後とみられる10時42分ごろ、列車見張り員は手元のダイヤによって特急が5分後に来ることがわかっていたので、時間が短いことを強調するためEに『到着3分前』と伝えています。
ところが列車見張り員によると、Eは下り方向(北)を指さすような動きをしました。列車見張り員は上り線の線路上を下り方向へ向かうよう指示されたと受け止めたといいます。また生き残った作業員の一人も、下り方向へ進むよう指示するEの声を聞いたと証言しています」(東武鉄道社員)
Eさんと作業員の一行はこのころに、安全な通路から上り線ホーム脇の線路に立ち入っている。ここはホームの下に逃げ込めない危険なエリアであるにもかかわらず、列車接近時にどう逃げるかは、打ち合わせがなかったため検討もされていない。
列車見張り員は「(特急が来るまでに)ここを渡りきる(安全な場所まで抜ける)のは難しいな」と思いながら、「意見を言うと怒られる」と考えて何も言わなかったという。作業員の一人も「余計なことを言うともめごとになる」と思い意見をしなかったと東武鉄道は説明する。
4人は、静止してホームに張り付いていた
不可解なのは、Eさんが作業員の一人に対し「ホーム下には雑草がないため除草薬散布作業を実施しない」と話していたことだ。
「そもそも草がなくて撒く必要がないんであれば普通にホームを歩けばよかった。にもかかわらず、ホームを歩かずにこの危険な場所に、3分という時間(しかないとの警告)の中でなぜ行ったのかはEに確認ができないので分かっていない」と佐藤部長も困惑を隠さない。
スペーシアXの到着時刻が近づく10時46分ごろ、列車見張り員は踏切のそばにいる中継見張り員に列車が来てないか無線で問いかける。見張り開始の指示を受けておらず、線路内で作業が行われていると思っていない中継見張り員は「踏切が鳴動している」と伝える。
それを聞き、特急が近づいてくるのを目視した列車見張り員は慌てて線路脇に逃げ、ハンドマイクの警告ブザーと声で線路内にいる作業員に接近を知らせたと本人は説明している。
だが列車見張り員は列車を停める赤色の旗を上げていない。さらに、運転士はむしろ「進入可」を意味する黄色の旗が上がっていたように見えたと証言しているという。
列車見張り員の近くにいた作業員2人と作業指揮者は線路から辛くも逃げることができた。だが除草剤が入った約11キロの噴霧器を背負ってその後方にいた53歳から67歳までの3人の作業員とEさんは間に合わなかった。
列車が駅構内に入った時、4人はみなホームに張り付いた状態で静止していたという。黄色い旗を見て問題がないと思っていた運転士は4人が“退避済み”の状態だと誤認して、通常の減速でホームに進入。そこで異音を感じることになったという。
責任者の交代。打ち合わせなしの作業。モノを言えない空気。上がらなかった赤旗…。あらわになったのは信じがたいルールの逸脱が大量輸送交通の足元に広がっていた現実だ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班