どん底のリベラル派、その病と処方箋~カギは「社会保障改革の旗」と「内ゲバ体質からの脱却」~【調査情報デジタル】

秋の臨時国会が始まった。本来なら、「高市一強」に野党側がどう向き合うかが焦点となるが、民主改革の会(冒頭の写真は同会の小川淳也代表)などリベラル勢力は、自らの凋落傾向をどう食い止めるかに追われている印象だ。リベラル派が再結集し、日本政治にとって有益となるカウンターパートとしての存在感を取り戻すことはできるのか。そのための処方箋を永年にわたって日本政治をウォッチしてきた星浩氏(政治ジャーナリスト・TBSスペシャルコメンテーター)が提言する。
「どん底」に落ち込んだリベラル派
高市早苗総理は10月5日召集の臨時国会で所信表明演説を行い、食料品の消費税減税を含む「責任ある積極財政」をアピールした。だが、物価高が続き、人々の暮らし向きは良くならない。中国との関係が行き詰まるなど外交の停滞も続いている。
政権与党に挑むはずのリベラル勢力は、衆院の立憲民主党と公明党が結成した中道改革連合(中道)が、事実上の解体の危機に追い込まれるなど、どん底に沈んでいる。かつて唱えられた「政権交代のある民主主義」が遠景に退く中で、リベラル派が陥っている病とその処方箋を考えてみたい。
2026年2月の衆院選で惨敗した中道は、参院の立憲民主党、公明党と合流する予定だったが、立憲民主党が公明党との政策の違いなどを理由に合流を受け入れなかった。
衆院側では、立憲民主党出身者が「民主改革の会」を結成、公明党出身者が公明党に戻り、中道には残務処理のために議員一人が残る。この3会派が統一会派「中道」を結成することになった。中道は解体の危機に瀕しているにも関わらず、衆院で第1会派を維持するために「存続」する格好だ。分かりにくい対応に加え、衆院選の結果に基づく政党交付金も満額受け取ることには、自民党などから批判が相次いだ。
9月13日に投開票された沖縄県知事選では、立憲民主党や共産党、社民党などリベラル勢力が支援し3選をめざした玉城デニー氏が、自民党や日本維新の会に加え国民民主党、参政党などが推した新顔の古謝玄太氏に大敗(約27万票対約42万票)した。
玉城氏は米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対し続けてきたが、政府は辺野古移設のための埋め立て工事を強行し、移設は「既成事実化」した。沖縄県内では経済界を中心に経済振興策を求める声が強まり、選挙の争点について、辺野古移設より経済振興をあげる有権者が増えてきた。投票日の出口調査では、多くの若者が古謝氏に投票したことが確認されている。
玉城氏を支えてきたリベラル勢力にとっては大きな痛手となった。衆院選での惨敗、中道への結集の失敗、沖縄県知事選の敗北……。リベラル派は、まさに「どん底」に落ち込んだ。
高市総理は9月に自民党役員人事・内閣改造に踏み切った。麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長、片山さつき財務大臣、茂木敏充外務大臣など政権の骨格を維持。2027年の自民党総裁選でライバルとなるとみられる林芳正総務大臣は閣外に追いやった。林氏は財政再建や中国との外交などで高市総理とは距離があるとみられ、今後、自民党内で林氏への支持がどこまで広がるかが自民党内政局の焦点となる。
この臨時国会では、野党側が「高市一強」にどう向き合うかが焦点となるが、民主改革の会などリベラル勢力は、国会論戦よりも自らの態勢立て直しに追われているのが現実だ。
私はこの9月に刊行した『リベラル再起の条件』(岩波書店)で、リベラル勢力が自民党に対抗するための政策づくりや組織運営などを指摘したが、本稿では、より具体的な処方箋を述べてみたい。
非自民勢力内で顕著になった2つの動き
非自民のリベラル勢力は、民主党政権が下野して第2次安倍晋三政権が発足した2012年以降、四分五裂を続けてきた。民進党、希望の党などを経て、立憲民主党が発足したが、保守色の強い議員らは国民民主党に集った。自民党政権が菅義偉、岸田文雄、石破茂各総理に引き継がれる中で、リベラル勢力が結集することはできなかった。
高市総理は内閣発足早々の2026年1月に衆院を解散。立憲民主党と公明党が新党「中道」を結成して対抗したが、自民党が圧勝し、中道は惨敗した。
政権交代の見通しが立たない中で、非自民勢力内では相反する2つの動きが顕著になっている。
一つは、国民民主党の玉木雄一郎代表が掲げる「対決より解決」路線だ。税や社会保険料の負担が増える「年収106万円の壁」の引き上げを訴え、支持を広げた。石破政権などが受け入れ、「壁」の一部が撤廃された。
国民民主党にとっては「成果」だが、自民党にとっても、個別の政策をつまみ食いすることで国会運営がスムーズに進むという「成果」となっている。非自民勢力が政権交代をめざすという構図からは程遠く、一歩間違うと「おねだり政党」に堕する恐れがある。
もう一つは「野党の方が気楽」という症候群である。いまの政権は少子高齢化が進む中で莫大な財政赤字を抱え、外交・安全保障の環境も厳しい。この状況で政権交代をめざすよりも、野党として政権批判をしていればよいという姿勢だ。立憲民主党などの一部に出始めている。
衆参両院の国会議員には年間2000万円を超える歳費が支給され、秘書は3人まで給与が支給され、議員会館の事務所、議員宿舎が提供される。政策で妥協して非自民の塊をつくり、自民党を倒すという困難な道よりも、野党として政権批判をしていれば気楽だという安易な考え方だ。これでは政権交代は夢の彼方である。
政権与党側のポピュリズムも逆風に
加えて、財政や外交のポピュリズム(人気取り)の風潮もリベラル野党には逆風になっている。
物価高が続いて実質賃金が伸び悩む中で、政権与党は人気取りのために減税ポピュリズムに走っている。高市総理が食料品の消費税減税を唱えているのもその一つだ。多くの野党は2026年2月の衆院選で消費税減税を掲げたが、高市政権がその要求を取り込んだ形で、関連法案が国会に提出されている。この臨時国会で可決、成立し、2027年4月から実施される見通しだ。減税に関する与野党の対立軸が消えて、減税による「弱者救済」を求めるリベラル派のセールスポイントが消されている。
ただ、高市政権が打ち出している食料品の消費税8%から1%への引き下げには年間5兆円程度の財源が必要。2029年3月までの2年間限定だが、その財源はあいまいだ。
さらに2029年4月から税率を8%に戻せるのか、与野党に疑問の声がある。リベラル派としては、富裕層増税などを恒久財源として食料品減税を恒久化するための方策を練る必要があるが、野党内の話し合いは進んでいない。
高市総理の外交ポピュリズムは、まず、トランプ米大統領に抱きつき、米国が求める巨額投資などを進めて「日米同盟」をアピールすることだ。日米関係を重視する日本国内の支持を固める狙いがある。
次に、中国との関係である。総理就任直後の2026年11月、高市氏は国会答弁で台湾有事に関連し、安全保障法制の存立危機事態として自衛隊の出動もあり得るとの考えを示した。歴代総理が具体的には答えなかった点に踏み込んだ格好だ。
「台湾は中国の一部」とする中国政府は強く反発。日本への渡航規制やレアアース(希土類)の対日輸出の規制を示唆するなど日中関係はきしんでいる。
ただ、日本国内では、台頭する中国への警戒感から対中感情は悪化。世論調査などでは、高市氏の対中強硬姿勢が支持される傾向にある。
リベラル勢力は、先の戦争での中国への侵略を認め、反省の意を示したうえで日中友好を進めるという立場だ。ところが、高市氏の台湾有事発言を機に、リベラル派に対しては、「媚中派」といった批判が強まっているのが現実だ。
リベラル再生への処方箋~「社会保障改革」と「内ゲバ体質の打破」
リベラル派が政権交代の機運を見出せず、財政、外交のポピュリズムがさらなる逆風になっている中で、どのような展望を切り開いていくのか。思い起こすべきは2009年の民主党による政権交代だろう。
当時の民主党は、小選挙区制導入を柱とする政治改革を訴えて自民党を離党したグループ(小沢一郎、岡田克也、鳩山由紀夫各氏ら)、社会党出身者(横路孝弘、仙谷由人、山花貞夫各氏ら)、市民運動出身者(菅直人、辻元清美両氏ら)の混成チームだった。理念・政策に隔たりはあっても、政権交代をめざすことで一致。自民党との戦いに向けて結束していた。それでも、政権に就いた後は、消費税の増税などをめぐって党内対立が強まり、東日本大震災への対応で危機管理の未熟さが露呈。3年3カ月で自民党に政権を明け渡すことになった。
いまの非自民・リベラル勢力には、かつての民主党勢に公明党も加わっているのだから、その支持基盤は広がっているはずだ。ところが、現実には国民民主党、立憲民主党、民主改革の会、公明党と四分五裂の状態だ。集団的自衛権の行使を容認した安全保障法制や原子力発電所の再稼働などをめぐって各党の見解に隔たりがあり、結束が難しい面はあるが、かつての民主党の試みを考えれば、政権交代をめざすことで共通点を広げていくことは可能だろう。
リベラル再生に向けた処方箋の第一は政策の柱を掲げることだ。
立憲民主党と国民民主党が支援を受けている連合は「労働者福祉」を掲げ、年金・医療・介護といった社会保障の充実を求めてきた。公明党は支持母体の創価学会とともに「大衆福祉」を説き、社会保障を重視してきた。両者が政策のすり合わせを進め、年金の底上げや医療制度の見直しなど社会保障の改革を進めれば、非自民リベラル派の結集軸になるだろう。
第二は非自民リベラル勢力間の協力を強めることだ。
自民党は党内対立があっても、最終的には結束を維持するという作法を身につけている。連立相手の公明党や維新とも政策調整を積み重ねてきた。これに対してリベラル派は身内の論争や対立が激しい。内ゲバ体質である。そこを乗り越えて、自民党に対抗できる大きな塊をつくるという一点でまとまらない限り、政権交代はおぼつかない。
非自民リベラル派が政権交代に向けて勢力を回復する機会は国政選挙だ。直近で予定されている28年夏の参院選は特異な構図だ。6年前の選挙中に安倍晋三元首相が銃撃されて死去。自民党は「弔い選挙」と位置付けて大勝。その当選者が改選を迎えるため、自民党は「議席を減らす可能性が大きい」(選挙対策関係者)と懸念している。
野党にとっては議席を増やす好機でもある。選挙区での候補者調整を進め、自民・維新の与党側とどう向き合うかが課題となってくる。
11月3日投開票の米国・中間選挙の動向も注目される。現在は連邦議会の上下両院ともトランプ政権与党の共和党が多数を占めているが、物価高やイラン戦争に対する有権者の不満が募っており、下院は民主党が過半数を占める勢いで、上院も接戦だが民主党勝利の可能性が出てきたという。
連邦議会で共和党が過半数を失えば、トランプ大統領は任期2年を残して「死に体」となるのは確実。高率の関税をかけたり、国際法違反のイラン戦争に踏み出したりといった暴走を続けてきたトランプ政治にブレーキがかかれば、世界の政治・外交の潮目が大きく変わる可能性がある。日本のリベラル勢力にとっても追い風となるだろう。
臨時国会を反転攻勢の起点にできるか
どん底のリベラル勢力が再生に向けて動き出す機会が臨時国会だ。
消費税減税法案や衆院の定数削減などが焦点となるが、簗和生農水大臣が、自らの選挙に関連して、支援しなかった自治体の道路予算をカットしたという趣旨の発言をしたことが判明。簗氏は発言を撤回し、お詫びしたが、野党側は「予算の私物化という構造的な問題だ」と反発している。簗大臣の去就を含めて高市政権の政治姿勢が問われる場面となっている。
沖縄に駐留する米海兵隊の上等兵が、女性に対する強盗殺人容疑で逮捕された。繰り返される海兵隊関係者の犯罪に、沖縄県内では反発が強まっている。高市総理は「米国政府に強く抗議した」と語っているが、トランプ大統領に抱きつく対米外交に終始してきた高市総理が、米軍の綱紀粛正や基地負担軽減を迫れるのか。臨時国会で大きな争点になるだろう。
このほか、来年度予算編成で予想される防衛費の大幅増額や、半導体など17分野に2040年度までに官民で総額370兆円を投資する計画などが論点となる。さらに(1)8月の終戦記念日の追悼式典で、高市総理があいさつの中で先の戦争に対する「反省」を盛り込まなかった(2)トランプ米大統領がICC(国際刑事裁判所)の赤根智子所長に対する制裁を発動したことに、高市総理が「残念」と述べるにとどまった――なども議論されそうだ。
非自民リベラル勢力が、この臨時国会と年明けの通常国会での論争を反転攻勢の起点にできるかどうか。高市政権の帰趨だけでなく、日本の民主主義の行方を左右することになる。
〈執筆者略歴〉 星 浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト・TBSスペシャルコメンテーター 1955年、福島県生まれ。 79年に朝日新聞入社、85年から政治部。総理官邸、自民党、外務省などを担当。ワシントン特派員、特別編集委員などを歴任。 2004~06年、東京大学大学院特任教授。 16年に退社し、TBSへ。「NEWS23」キャスターやコメンテーターを務める。 著書に『自民党幹事長』(筑摩書房)、『官房長官 側近の政治学』『永田町政治の興亡』(いずれも朝日選書)、『リベラル再起の条件』(岩波書店)など。
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