高市政権の発足から1年、政権の情報発信を支えるのが、政界屈指のフォロワー数を誇る、首相のXアカウントだ。政策の説明や危機管理対応などに多用される首相のXでの発信だが、投稿への反応を分析すると、政権の高い支持率に潜む“リスク”も見えてきた。
「皆様に、今夜に対応して頂きたい大至急のお願いです」
政権発足から丸1年となった10月21日夜、高市首相はXにこう投稿した。世界中のウェブサイトの約7割が利用しているというプログラミング言語「PHP」に重大な脆弱(ぜいじゃく)性が見つかったことを受け、深夜に公開予定の修正パッチを速やかに適用するよう、事業者らに呼びかけたのだ。
日本の国会議員でトップクラスとなる、約300万人のXフォロワーを持つ首相。投稿の表示回数は翌朝までの約12時間で5000万回を超えた。首相周辺は「今回は首相のXの効果が発揮されたと指摘する人もいた」と語り、首相のSNSでの発信力の高さを示す一幕となった。
政府は首相のXでの発信を、あくまで「個人アカウントによる発信」と位置づけている。ただ、首相はほぼ毎日投稿し、PHPのような危機管理の呼びかけの他にも、政権の経済政策、外交などについて発信する。
首相はSNSでの発信について、「国民の情報収集手段としての重要性が高まっている」点に加え、「政府の取り組みについて、タイムリーにお知らせしたい場合」に有用だと指摘している。また、「リプライ機能から国民の声を直接受け止めるということもできるので、一定の有効性がある」と述べている。
それでは、首相のSNSでの発信に対し、国民はどのように反応しているのか。日本テレビはその一端を探るため、政権発足1年に合わせ、ソーシャルメディアの分析に詳しい東京大学大学院の鳥海不二夫教授の協力のもと、高市首相のXの投稿への反応を分析した。
今回対象にしたのは、政権が最重要課題と位置づける「物価高対策」に関する投稿への反応だ。今年4月から9月までの半年間の投稿のうち、「物価」という文言を含む首相の投稿は30件。この30の投稿に対する、「リプライ」「引用ポスト」3万9396件の内容を分析し、クラスタリング手法を使って、内容の分類を行った。
分析の結果は図のようになった。クラスター分析では、同じような意見は近くに配置されるため、どのような意見のグループがあるかを把握することができる。
大きく3つの意見のグループが確認された。一番大きなグループが「政権への批判」、次いで「政権や経済政策を評価」するグループ、そして「野党・参政党の政策に近い主張による政権批判」だ。
まず、政権批判の投稿のグループでは、
・物価上昇率や実質賃金が短期的に改善しても、食品価格や家計負担は重いままであるなど、経済指標と生活実感が乖離(かいり)していることへの批判
・ガソリン補助について、燃料価格を税金で抑えているだけで、財政負担を増やすとの批判
・「責任ある積極財政」が、円安や金利上昇を招くという批判
などの内容が確認された。Xでの頻繁な発信自体を批判し、会見などを開くよう求める意見もあった。
また、投稿に使われている言葉に着目すると、このグループの投稿の約2割で「円安」という言葉が使われていた。円安によって物価高が進むことへの不安や懸念が目立ったと言えそうだ。
また、このグループの投稿者が、どの主要政党のアカウントをフォローしているかを調べたところ、グループの6割超が政党のアカウントをフォローしていないことが分かった。
鳥海教授は「政党のアカウントをフォローをしていない、無党派層が一定以上含まれるであろう人たちの反応がネガティブだったのは注目に値する」と指摘する。
次に、高市政権や経済政策を支持する反応のグループでは、
・実質賃金のプラスが続いていることへの評価
・中東情勢の悪化に伴う原油などの代替調達、ガソリン補助への評価
・「責任ある積極財政」や成長投資などへの期待
といった内容が確認された。首相がXで直接説明することを歓迎し、既存メディアの報道姿勢を批判する意見もみられた。
高市政権の物価高対策を評価するグループと批判するグループでは、看板政策である「責任ある積極財政」やガソリン補助などに対する見方が正反対になった形だ。
投稿に使われる言葉を見ると「投資」という言葉が含まれる反応が全体の3割。「中東情勢」「実質賃金」「オールドメディア」などの語句も、それぞれ約2割ずつ確認された。
また、このグループでは、主要政党の中では「自民党広報」のアカウントをフォローしている人が最も多かった。
そして、参政党の政策に近い政権批判がみられた3つ目のグループでは、
・消費税の一律減税や廃止を求める意見
・高市政権の「積極財政」が、実際には緊縮財政ではないかという批判
などの内容が含まれていた。このグループの投稿者では、参政党をフォローしているアカウントが最多となった。
投稿に使われる言葉を見ると、「外国人」「消費税」などの語句が、投稿全体のそれぞれ25%程度含まれることが確認できた。
今回の分析は、「首相の物価高対策に関するSNS発信への反応」という、限られた条件下での意見の抽出である点には注意が必要だ。
ただ、政権の物価高対策や経済政策に批判的なコメントのグループで、無党派層が一定以上含まれるであろう「政党フォローなし」の投稿者が6割超を占めたことは、無党派層の政権支持が必ずしも盤石ではない可能性を示唆している。
無党派層の支持動向は、景気や物価の動向などの「体感経済」に左右される面も大きい。実際、NNNと読売新聞の世論調査では、無党派層からの支持は政権発足時の63%から、今月は41%まで下がり、物価高への政府の対応も、無党派層では7割超が「評価しない」と答えている。
高市首相は21日、物価高対策について「十分ではないという声がたくさんある。やれる限りのことは切れ目なくやってきている。ただ的確に情報をお伝えしきれていない」と述べ、政府広報のあり方を反省点に挙げた。
佐伯耕三内閣広報官も今回の分析を受け、「若い世代を中心に、SNSを通じた直接発信の強化は極めて重要」とする一方、「日頃は関心がない方々にも政策の情報を届けられるよう、広報のあり方も改革していく必要を感じている」とコメントしている。
一方、今回分析を行った鳥海教授は、首相がSNSを多用することについて、「他の人がリプライや引用ポストで意見を残せるので、一方通行のやりとりとは違う、リッチな情報を他のユーザーに提供できる。今回の分析のように、批判や応援が可視化されるという点も、一定の意味がある」と指摘する。
臨時国会では、消費減税関連法案など、物価高対策に直結する政策の審議が続いている。政府の政策対応に伴って、SNS上の意見の動向がどう変化していくのかもポイントになりそうだ。
(日本テレビ政治部 渡邊翔)