エスカレーター「立ち止まり」浸透半ば、女子高生が対策考案「うさぎをふまないで!」…定着した都市も

エスカレーターで立ち止まることを義務づけた全国初の条例を埼玉県が施行して10月で5年がたった。県の昨年度の調査では「立ち止まる」と回答した人は7割台で、追い越す人のために右側を空ける姿が今も目立つ。3年前に同様の条例を施行した名古屋市では、立ち止まる人の割合が9割を超えており、ルールの浸透に差が生じている。(大井洸樹)
県の条例は転倒防止を目的に施行され、徐々に歩く人が減り、県の昨年度の調査に「駅で立ち止まって乗った」と答えた人は76・9%だった。だが、施行以来初めて前年度を下回るなど近年は伸びが鈍っている。
これに対し、名古屋市の今年の実態調査では、駅などで立ち止まって利用した人は95・1%。昨年12月以降、市営地下鉄の名古屋、金山、伏見の3駅で、AI(人工知能)を用いたセンサーで歩く人に警告音を鳴らすなど啓発を強化しており、施行前の22年と比べて16ポイント改善した。
利用者がエスカレーターのステップに立つ位置でも、埼玉と名古屋で違いが出ている。
構造計画研究所(東京都)の試算では、平常時、ラッシュ時を問わず多くの場合で、追い越す人を通すため片側に寄るより左右両側に立ち止まって乗った方が輸送効率が良いことがわかっているが、埼玉では多くの人が左側に寄っている。県条例が、立つ位置について規定していないことも影響しているとみられる。名古屋市の条例は「左右を問わず立ち止まる」ことを求めており、利用者2人が左右両側に分かれて乗るスタイルが定着しつつある。
伏見駅では9月、電車の到着とともに大勢がエスカレーターに向かったが、歩く人はほぼおらず、利用者は左右両側それぞれに立っていた。
ルール浸透の遅れを受け、さいたま市浦和区のJR浦和駅では、地元の県立浦和第一女子高校の生徒が改善に取り組んでいる。地域課題の解決をテーマにした探究学習の一環で「ステップにかわいい絵を描けば、踏むのをためらってエスカレーターを歩く人を減らせるのではないか」と、ステップの上に「うさぎの絵」を描く対策を思いついた。
校内の廊下で人の足跡など複数の絵を貼る実験を行い、うさぎの絵は踏まれる確率が最も低いと確認。「かわいい、守ってあげたい」と感じさせることで利用者の行動を変えられると、JR東日本に絵を描く実証実験を提案した。
同社も賛同し、浦和駅で9月、連絡通路のエスカレーターのステップに「ふまないで」の文字と、生徒がデザインしたうさぎが左右交互に描かれた。うさぎの絵を踏んで前に詰めないと輸送力は改善しないが、まずは歩く人を減らすのが狙いだという。同月下旬には、生徒自身が停止を呼びかける音声を録音し、駅構内で流す取り組みも始めた。
利用者が絵を避けるように立ち止まる姿が増えたといい、同校3年の生徒(18)は「取り組みが広がればうれしい。別の場所でもうさぎを思い出して」と訴える。
「仕掛け」による行動変容を研究する松村真宏・大阪大教授は「記憶にすり込ませれば、うさぎの絵がなくても片側空けの習慣を変えられる。効果を定着させるには、長期間にわたって多くの場所で同時に行うことも必要だ」としている。