家も畑も「本当に無くなっちゃった」 「次はすぐ逃げる」 住民ぼうぜん 堤防決壊の千曲川

台風19号による大雨で千曲川の堤防が約70メートルにわたって決壊し、濁流にのみ込まれた長野市穂保(ほやす)地区。水が引き始めた14日、家屋や特産のリンゴ農園が流されるなど被害の一端が明らかになってきた。住民は変わり果てた姿にぼうぜんとしていた。
「こんなことが現実に起こるなんて……」。決壊した堤防の近くに住む芝波田(しばた)真由美さん(68)は決壊から一夜明けた14日の午後、浸水した自宅の様子を見に戻ってあのときの恐怖が改めてよみがえってきた。
長野市では24時間降水量が134・5ミリと観測史上1位を記録した。穂保地区には12日午後6時に市から避難勧告が出た。同居する夫英一さん(66)は母親(97)を連れて13日午前1時ごろ、家を出て避難所に身を寄せた。だが、芝波田さんは床下浸水で済むと考え自宅にとどまった。「猫を飼っていたので避難所に連れて行ったら迷惑になるかもしれない」と思ったからだ。
眠れないまま朝を迎え、気づくと1階に泥水が浸入してきた。車で避難しようとしたが既に泥水につかっていたため2階に避難した。当時の緊迫した様子が英一さんとの無料通信アプリ「LINE(ライン)」のやりとりに残っている。
「(水が)床上来た!」(13日午前4時3分)
「まだ引かない?」(同4時11分)
「(水が)階段まで来た」(同4時38分)
「ベランダからはしごかけてあるから屋根の上に避難して」(同4時43分)
「凄(すご)い! 怖い!」(同5時32分)
その後、2階から目にした光景が忘れられない。濁流の中を冷蔵庫やげた箱が漂っていた。「逃げられない」。祈るように水が引くのを待った。
自衛隊のヘリで2階ベランダから救助されたのは13日正午ごろだった。「次はすぐに逃げる」と声を震わせた。
国土地理院によると、浸水域は穂保地区を中心に推定数キロ四方に及んだ。14日朝、泥水は引いたが、一部で20センチほどの水がたまり、一帯は泥に覆われていた。記者が歩くと「ヌチャ」とぬかるみ、何度も足をとられそうになった。どの家屋の壁にも濁流が押し寄せたことを示す泥の跡が付き、その高さは1・5~2メートルに達するところもあった。
「本当に無くなっちゃったんだ……」。12日夜の避難勧告後に知人宅に避難した葛田(かつらだ)信子さん(70)は目の前の光景に絶句した。自宅は残っていたが、社会保険労務士の長男の事務所やその周囲の複数の住宅は跡形も無く、基礎部分だけが無残な姿をさらしていた。電柱もなぎ倒され、赤い実をつけていたリンゴ農園も根こそぎ消えていた。葛田さんは自戒を込めてつぶやいた。「ほかの地域の水害のニュースを見ていて人ごとだと思っていたが、いざ自分に起きるとこんなに大変なんだ」【岩崎邦宏】