【台風19号】「ギリギリの判断」緊急放流、課題浮かぶ

台風19号による記録的な大雨で関東甲信越と東北地方にある計6カ所のダムでは、満水に達する前に流入量と同量を放流する「緊急放流」に踏み切った。下流で大規模水害が起きる可能性があり、管理者は洪水調節機能を放棄することになる苦渋の判断を迫られた。これらのダムでは、昨年の西日本豪雨の教訓として提言された事前放流(利水用の最低限の貯水を含む)を行っておらず、運用をめぐる課題も浮かび上がる。(市岡豊大、宮野佳幸)
■通常流量の2倍以上
「極力回避したい事態。ギリギリまで洪水調節を行った」。神奈川県中部を流れ、流域人口約128万人を抱える相模川上流の城山(しろやま)ダム(相模原市)で12日夜、緊急放流を判断した石坂智ダム運用部長(51)はそう振り返る。
ダムでは通常、大雨が降ると流入量の一部をため、残りを放流する洪水調節を行う。しかし、満杯が近づくと、あふれ出して決壊するのを防ぐために流入量と同量を放流する。これは「異常洪水時防災操作」(緊急放流)と呼ばれ、洪水調節機能が果たせなくなる「例外中の例外」だ。
城山ダムでは流域住民へ避難を促すために原則3時間前に周知する。管理事務所は12日午後1時過ぎに「午後5時から緊急放流」と周知したが、雨量が予想を下回り、午後4時に「開始を遅らせる」とした。
その後、雨脚が強まり、一転して午後9時に「午後10時から開始」と予告。さらに予想より早いペースで上昇したため前倒しで午後9時30分に緊急放流を始めた。最大放流量は相模川の平常流量の2倍に相当する毎秒3千トン以上に上った。
■建造54年で初操作
国土交通省によると、12日夜~翌朝に緊急放流を行ったのは、美和ダム(長野県伊那市)▽竜神(りゅうじん)ダム(茨城県常陸太田市)▽水沼ダム(同県北茨城市)▽城山ダム▽塩原ダム(栃木県那須塩原市)▽高柴(たかしば)ダム(福島県いわき市)-の6カ所。このうち、塩原ダムでは緊急放流との関係性は不明だが、下流の茨城県内3カ所で決壊が確認された。
城山ダムの緊急放流は昭和40年の建造以来初めてだった。石坂部長は「結果的に大規模災害が起きずに済んだ」と胸をなで下ろすが、情報に翻弄(ほんろう)された自治体からは「できる限り避難に余裕を持たせたい」(海老名市)、「最終的な連絡が10分前で驚いた」(厚木市)との不満も上がる。
■最低限の水位残す
緊急放流は昨年7月の西日本豪雨では6府県8カ所で行われ、愛媛県の2カ所では下流で約3千棟が浸水し8人が死亡。国交省の有識者による検証会議では、空き容量確保のため、通常の放流以上に農業、工業用の貯水まで含め事前放流する対策が提言された。
だが、今回緊急放流した6つのダムでは、事前に定められた最低限の水位まで放流を行うなどし、いずれも水利権者との追加協議を要するレベルまでの放流は行わなかった。一歩踏み込んだ事前放流を行えば、緊急放流に至る前に少しでも空き容量を確保できた可能性はあり、国交省が検証する。
東大大学院の池内幸司教授(河川工学)は「河川管理者としては事前放流を増やしたくても、上流域の正確な降水予測ができない現状では、空振りになった場合に水利権者に迷惑がかかる可能性がある。空振りリスクを軽減できる仕組みが必要だ」としている。