不明の子アシカ捜索大作戦の“裏側” 天王寺動物園園長が語る120時間の救出劇

天王寺動物園(大阪市天王寺区)で9月末、飼育中の小アシカがアシカ池の排水溝に潜り込んで行方不明になった。そのまま下水管に落ちたのだが、不衛生な環境に長時間いては生命の危機にさらされるかもしれない…。スタッフの懸命な捜索にもかかわらず、鳴き声をキャッチできたのは捜索4日目。子アシカは翌日“救出”されたものの、同園の牧慎一郎園長が寄せた「顛末記」からは、不明から約120時間の救出劇の緊迫感が伝わってきた。

当園のアシカ池は昭和9年からある非常に古い施設で、循環濾過(ろか)して水をきれいに保つ装置が付いておらず、すぐに汚れて水中が見えなくなってしまうので、水の入れ替えを頻繁に行っています。
このときも水の入れ替えを行ったのですが、排水溝に乗せていた20キロの重さのカバーがなぜか外れてしまっていて、キュッキュが30センチ径の排水溝を通って外に出てしまいました。
行方不明に気づいたのが9月27日のこと。アシカ池の排水溝は園内を南北に走る下水管につながっています。すぐに園内のマンホールを調査開始。下水道管理会社のチームもすぐに駆けつけてくれて、マンホールからカメラを入れたり、録音した親の声を聞かせて反応を待ったりしましたが、発見できません。
下水管は、動物園の外に出た後は西に流れて下水処理場までつながっていますが、下水処理場までは流れ着いていないようです。動物園と下水処理場までの間のマンホールも片っ端から調べてもらいましたが、ここでもキュッキュは発見できませんでした。
転機は捜索4日目の朝でした。アシカ池の近くのマンホールの中からアシカの鳴き声が聞こえたのです。まだ園内にいる!
喜び勇んで園内のマンホールを開けて調べたのですが、鳴き声が聞こえなくなってしまい、カメラを入れても姿が見つかりません。なぜだろう。
マンホールを開けて作業をすると、下水管内に大きな音が響きます。騒がしさを嫌がって、キュッキュがカメラの届かない位置に逃げ隠れているのかも。そこで作戦変更。できるだけ人の気配を消してキュッキュが戻ってくるのを待つ作戦にしました。
捜索も5日目に突入しましたが、キュッキュが園内の下水管のどこかで生きているのは間違いありません。早く助け出さねば。この日は、静かにマンホールの上から音を聞く作戦。これを、無線で連絡をとりながら、あちこちのマンホールで同時に行いました。すると、アシカ池の付近のマンホールの中から鳴き声が!
鳴き声や水音は近くなったり遠くなったり、下水管内を移動しているようです。ここからが勝負。慎重に場所を特定して一気にマンホールを開けたところ、キュッキュの姿を発見。屈強な飼育員がマンホールに入ってキュッキュの足をつかみ、そこへもう一人の飼育員が網をかぶせて捕獲成功!
5日間も下水管の中にいたというのに、思いのほかキュッキュは元気な様子でした。野生動物の生命力に改めて驚かされます。
事故後、問題の排水溝には新しいカバーをしっかりとボルト止め。穴の部分は最大8センチ径ですので、子アシカに通り抜けられることはないでしょう。
キュッキュが行方不明になった件については、多くの皆さまにご心配とご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。保護されたキュッキュは、しばらくの間、非公開のバックヤードで人工保育をしながら健康状態を確認していく予定です。
公開までにはもうしばらくかかると思いますので、お待ちください。