年金は、繰り上げるか、繰り下げるかで将来もらえる額が大きく変わってくる。この時にカギとなるのが、特別支給の老齢厚生年金や加給年金、振替加算などの耳慣れない年金であった。
年金にはこうした細かい制度が無数に存在する。しかし、多くの人がこうした年金の申請を忘れがちだ。社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。
「年金制度は申請主義です。自ら申請しなければいつまでたっても受け取ることはできません」
国はもらい忘れの年金について、積極的には教えてくれないのだ。そこでここでは、多くの人がもらい忘れがちな年金を紹介していこう。
都内在住の飯野守さん(63歳・仮名)は昨年春、日本年金機構から「年金の請求手続きのご案内」という書類を受け取った。
「年金の支給は65歳からのはず」
そう考えた飯野さんは書類をしばらく放置した。
しかし、これが飯野さんの勘違いだった。飯野さんが受け取ったのは特別支給の老齢厚生年金についての案内だったのだ。
「繰り上げ受給と勘違いして申請をしない人がいます。特別支給をもらっても65歳からの年金額が減ることはありません。また特別支給は繰り下げ受給もできません」(社会保険労務士・奥野文夫氏)
「特別支給は絶対に請求する」と覚えておこう。
もらい忘れが多いのは公的年金だけではない。近年問題となっているのが、企業が独自に公的年金に上乗せしている企業年金だ。経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。
「企業年金は加入期間が1ヵ月でも生涯もらえる年金です。厚労省の調査によると、これをもらい忘れている人が現時点で125万人もいるのです」
多いのが、結婚まで企業年金のある会社に勤めていた専業主婦が請求を忘れているケースだ。
「結婚して名字が変わってしまうと本人の特定が難しくなり、本人が申し出ない限り、支給されません」(荻原氏)
思い当たる人は、企業年金コールセンター(0570-02-2666)に問い合わせてみるべきだ。
65歳で厚生年金を受給する際に、年下の妻がいるともらえる加給年金だが、これも申請を忘れる人が多い。
「夫が年金を申請する際に、年金請求書に、妻の生年月日やマイナンバーなど必要事項を記入し、同時に手続きしなければいけません」(社会保険労務士・大神令子氏)
加給年金は妻の年収が850万円未満であれば受給できるが、妻が働いているという理由で、誤って申請をしないケースも多発している。
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妻が65歳になると加給年金は打ち切られるが、代わりに振替加算が妻の老齢基礎年金に上乗せされる。年下の妻であれば、手続きなく受給できるが、注意すべきは、妻が年上だった場合だ。
「夫が65歳になったときに、妻が自ら老齢基礎年金額加算開始事由該当届を提出しなければなりません」(ファイナンシャルプランナー・横川由理氏)
自分が年金を受給する時と、夫が年金を受給する時の2回手続きをしなければならないため、これを忘れる人があとを絶たないのだ。
このように年金の申請を忘れてしまった場合、どうすればよいのか。実は5年前までなら遡って請求することができる。
例えば、67歳で特別支給の老齢厚生年金を受け取り忘れたことに気づいた場合、5年前の62歳から65歳までの3年分の支給は取り戻すことができるのだ。
とはいえ、5年を過ぎれば一切受け取れなくなってしまうため、65歳になる前に一度は年金事務所を訪れておこう。
遺族がもらえる年金など、ここで紹介しきれなかったものはページ末の表にまとめた。もらえそうな年金があれば、是非、本誌を持って年金事務所に相談してみてほしい。
「週刊現代」2019年7月6日号より