経済産業省は10月23日、2019年9月末までの消費税転嫁対策に関する取り組みの状況を公式Webサイト上で発表した。企業間取引においては、消費増税があった際、従来の価格で据え置くのではなく、増税分を転嫁した価格で取引を行うことが義務付けられている。一方で、企業間の力関係であったり、これまでの慣行であったりが影響し、しっかりと増税分を転嫁した価格で取引が行われていないケースも出ている。今回の発表では、14年4月に消費税が8%になってから、適切に増税分を転嫁して支払わず勧告がなされた企業も全てリスト化して公表された。
消費増税があった場合の支払いなどに関しては、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(通称:消費税転嫁対策特別措置法)が13年10月に施行された。同法では、商品や役務の提供に際して、消費税の転嫁を拒む行為を禁止している。具体的には、「転嫁を拒否する側」と「転嫁を拒否される側」を定義し、「買いたたき」「減額」などの禁止項目を列挙している。
違反した企業に対しては、「指導」「措置請求」「勧告」の処置がとられる。
指導とは、行政指導を指す。違反した企業に対して、適切な支払いを求める措置だ。勧告も、基本的には指導と変わらないが、「社会的に影響が大きいケースに対して取られるもの」(中小企業庁担当者)だという。具体的な線引きは明かさなかったが、「大きい企業というのは取引先も多く、単に1つの取引先に対してだけ違反している可能性は低い。こうした企業は大規模に違反をしている可能性もあるため、ケースバイケースで判断している」とのこと。ただし、勧告は中小企業庁の権限ではできない。公正取引委員会が行うため、勧告を行うために中小企業庁からなされる請求が措置請求だ。
今回の発表では、14年の増税以降、5388件の指導、13件の措置請求、53件の勧告が実施されたことが分かった。今回公表された資料には、名だたる企業が名を連ねている。企業名だけではなく、どのように違反したかも詳しく記載されている。
例えば、19年にリクルートホールディングスが行った減額の違反については「就職、転職等に関する情報提供等の事業を営んでいた(株)リクルートホールディングスは、原稿作成事業者の一部に対し、消費税相当分又は消費税率の引上げ分の全部若しくは一部に相当する額を減じて原稿作成業務の委託料を支払った」(原文ママ)と記載されている。他にも、マイナビ、イトーヨーカ堂、中日新聞社、広島東洋カープなど、業種を問わずさまざまな企業が違反をしていたことが分かった。
ただ、これらの企業は発覚した時点で公正取引委員会から違反が公表されているという。このタイミングでリストを改めて発表したことについては、10月の増税後にまた新たな違反が出てくることに対する注意喚起の狙いもありそうだ。
違反の傾向については、9割以上が単価を据え置きにする「買いたたき」だという。傾向を分析すると、特に出版や翻訳など、立場の弱い個人事業主が多い業界で違反が目立つという。
転嫁拒否を防ぐための取り組み
担当者によると、違反をしている企業の多くで違法だという認識がないという。昔からの慣行や関係性などで、何となく転嫁がなされず据え置きになっているケースも多い。
こうした転嫁拒否を防ぐために、13年に「転嫁Gメン」を立ち上げ、14年から本格的に活動している。Gメンと聞くと「麻薬Gメン」や「万引きGメン」といったイメージが強いが、中小企業庁の担当者によると、「転嫁Gメンは逮捕などをするのではなく、転嫁に関する周知活動がメイン」とのこと。特に8%への増税後に設立された法人では、転嫁に関して知らない企業も多いという。こうした企業を中心に足を運び、特措法の内容や取り組みの啓発を行っている。
違反が発覚するきっかけは、毎年行っている書面調査がほとんどとのこと。秋口から年末年始にかけて、国内にあるほぼ全ての事業所にアンケートを実施。回答のあったものを抽出し、違法性が高いと判断されたものから立ち入り検査や帳簿のチェックなどを行っている。ただ、通報したことをきっかけに取引先との関係性が悪化するのを恐れる企業も多い。回答されたアンケートにも、違反と思われる事例が記載されているが、連絡先の記載がなく、対応に困るケースも多いのだという。
こうしたいわゆる「報復行為」についても特措法で禁止されている。しかし、報復行為なのか、あるいは取引先を何社か比較検討した結果として取引がなくなったのか、判断が難しいという課題もある。「匿名性は保証するので、安心してちゃんと連絡先を書いた上での通報を」と担当者は呼びかける。
10月の増税からまだ期間も短いため、増税後に新たなに出た違反のケースについては「まだこれから」だという。例年通りアンケートを行い、年末年始ごろから調査や指導が本格化するとの見込みだ。
値下げ圧力をかけることで一時的な利益は生まれるかもしれないが、違反した企業として公表された際の社会的損害は測り知れない。こうした長期的な視野に立ち、適切な取引を交わすことが、企業に求められる。
【お詫びと訂正:2019年10月24日16時45分の初出で、2ページ目の見出しが「転嫁を防ぐための取り組み」となっておりましたが、誤りでした。正しくは「転嫁拒否を防ぐための取り組み」です。お詫びして訂正いたします。】