多重債務者や貧困で苦しむ人の生活再建などに取り組む弁護士らでつくる「全国クレサラ・生活再建問題対策協議会」(クレサラ対協)が、インターネット上で資金調達するクラウドファンディングで被害者交流集会の開催費用を集めている。開催費用は約40年にわたり、会員有志の寄付でまかなわれてきたが、初めて新しい手法を取り入れた。背景には、多重債務問題を取り巻く環境の大きな変化があるという。今回の試みの狙いと背景について、企画したクレサラ対協常任幹事の柴田武男・聖学院大講師(67)に聞いた。【吉田卓矢/統合デジタル取材センター】
最大の成果は改正貸金業法の完全施行
クレサラ対協は1978年11月、当時急増していた多重債務者の救済などを目的に「全国サラ金問題対策協議会」として設立された。81年には、第1回全国サラ金被害者交流集会を大阪で開催。82年4月には、各地での被害者の会設立や会の連携を図る全国サラ金被害者連絡協議会(被連協)が設立された。
現在、被連協に加盟する全国各地の団体が、多重債務者らの生活再建などの相談に乗っている。もともと多重債務者だった人が相談を通して問題を解決し、相談員となることも多い。この両団体が車の両輪となって、多重債務者の救済と、消費者金融などに対する法規制強化を求める活動に取り組んできた。
柴田さんは「活動の最大の成果が2006年に成立し、10年に完全施行された改正貸金業法です」と話す。多重債務問題の改善を目的とした同法では、出資法の上限金利(29.2%)が利息制限法の上限金利と同じ15~20%に引き下げられ、いわゆる「グレーゾーン金利」が廃止された。また、年収の3分の1以上の貸し付けを禁じる「総量規制」も設けられた。
「特に総量規制は効果がありました」と柴田さんは指摘する。同法成立前に5件以上借り入れのある多重債務者は約180万人いたが、18年3月末時点で約8万6000人にまで激減したという。自己破産申立件数も、03年の24万2357件から15年には6万3844人にまで減った。
変革を迫られる両団体
両団体の活動で大きな役割を果たしたのが、約40年にわたり、毎年1回全国各地で開かれてきた被害者交流集会だ。分科会で全国の団体が活動報告するとともに、活動方針を集会宣言としてまとめてきた。
柴田さんは交流集会の役割について、「全国の仲間と顔を合わせて、意見や情報を交換できる。相談者を近くの団体につなぐこともできます」と解説する。
しかし、改正貸金業法の完全施行とともに、相談者は徐々に減少。支援する弁護士や司法書士の側も、99年以降の司法制度改革に伴う弁護士の増加で競争が激しくなり、交流集会の運営支援や寄付をする余裕がなくなっていったという。
法改正前後の交流集会では1000人以上が参加するなど大きな盛り上がりをみせたが、その後は徐々に減少。昨年10月に高知市で開かれた大会の参加者は300人弱にとどまった。
貧困や心の問題は深刻化
両団体の役割は法改正によって終わったのか。柴田さんは「非正規雇用や格差拡大などの問題は深刻化しています」と強調する。「現在、両団体へ相談に訪れる人の多くは、心の問題も同時に抱えています。人とうまくコミュニケーションが取れない人が増え、相談に来られない人も多い」。精神保健福祉士を交えるなど、心の相談にも取り組んでいる団体もある。
格差是正や自殺対策、心の問題など、解決されていない幅広い問題に取り組もうと、クレサラ対協は14年1月、「全国クレサラ・生活再建問題対策協議会」へ、被連協は「全国クレサラ・生活再建問題被害者連絡協議会」へとそれぞれ名称を変えた。ただ、相談者や交流集会参加者の減少に歯止めはかかっていないという。被連協に加盟する団体自体も89団体(10年)から48団体にまで減った。
ミスマッチを解消したい
一方で、クレサラ対協40周年記念誌などによると、15年に6万人台にまで減った自己破産申立件数は近年増加に転じ、18年は7万3084件となっている。インターネットやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などで、若者が安易に違法なヤミ金業者とつながり、被害にあうケースも増えている。
新たな問題への対応が急務だが、柴田さんは「団体で相談を受ける人の高齢化が進み、ネットを介して被害にあう若者らと接点が持てていない」と現状を分析する。「若者らとつながりさえできれば、豊富な経験と相談力で対応できますが、ホームページがない団体も多く、各団体が開く相談会の周知は、会報やチラシ、自治体広報への掲載が中心です」と明かす。
広くつながるために
こうした現状を踏まえ、柴田さんは「集会の費用を集めるだけでなく、ネットを通じてより多くの人にこういう社会活動があることを知ってもらいたい」とクラウドファンディングに乗り出した。「新たに活動を知った人に支援してもらうとともに、若い被害者とつながる機会にしたい」と語る。
広くつながりたいという考え方は、今回のクラウドファンディングで集めた資金を活用して来月2日、埼玉県伊奈町の県民活動総合センターで開かれる「第39回全国クレサラ・生活再建問題被害者交流集会」にも反映されている。これまでは参加費を払った人だけが参加する形式だったが、一般市民が無料で参加できるようにした。
各団体の活動報告や講演会が中心だったプログラムも刷新。貧困家庭などの子どもたちに無料や低料金で食事を提供する「子ども食堂」の活動を知ってもらうため、会場に「ミニ子ども食堂」を開設したり、奨学金の返済に苦しむ若者の問題を寸劇で分かりやすく解説し、個別相談に応じたりと、一般の人がより身近に感じられる内容にした。柴田さんも寸劇に裁判官役で出演する予定だ。全国の名産品や駅弁を集めた物産展や、太鼓集団「響」による演奏、子どもたちにお金の問題を考えてもらうクイズ大会も実施する。
また、「暮らしとこころの総合相談会」と題して専用ブースを設け、専門家が法律・生活・こころの問題について幅広く相談に応じる。実行委員会の飛鳥井行寛事務局長は「若者を中心に、これまで団体にかかわっていない人にも訪れてもらいたい」と話す。
クラウドファンディングは31日までだが、23日現在集まったのは52万円で、目標額(150万円)にはまだ遠い。柴田さんは「多くの人に活動を理解してもらい、支援を得られる体制を作りたい」と協力を呼びかけている。